5.5話. 華麗な舞
紅いナイフと片手斧の、鋭い応酬が続く。
閃光を避けつつ、マークと鎬を削りながら、リエは相手の分析を始めた。
(マークは筋力増加、なのか、一撃一撃がとてつもない……! 粒子で風圧は受け流せるけど、この攻撃だけは――)
マークが斧を振り上げる。咄嗟にナイフを掲げ、一撃を受け流す。地面に亀裂ができるのを感じ、冷や汗が流れ落ちる。
身を回して飛び蹴りをかまし、距離を取る――瞬間。右奥から殺気を感じ、咄嗟に身を翻させる。さっきまでいた場所を、アキラの足が駆け抜けた。
(こっちは飛行、空の異能か! 精度の高い制空能力に光線を放つ銃、こりゃ戦闘機よりも厄介? かも……)
だが特筆すべきは――連携の練度。隙を埋めるように、縫うように攻撃を繰り出していく。憎らしいほどにお似合いのコンビだ。
ナイフを握る力が強くなる。油断できない状況なのに、なぜか笑みが浮かぶ。感覚は研ぎ澄まされ、それに伴い異能も洗練されていく。今なら、更に何か――できる気がする。
◇◆◇
笑みを浮かべるリエと相対し、マークは悪寒が止まらなかった。押しているのはこちら――だが、なぜか勝つための道筋が見えない。
(すべていなされる……『紅き戦姫』が、ここまで強いなんてな)
アキラを見やると、得物を向けつつも歯噛みしているようだ。数年の付き合いだから分かる。
この生に飢えた化け物を、どうやって打ち倒すか――その手立てを考える暇もなく、戦姫は攻勢を開始した。
「なっ!?」
アキラへ意識を向けた一瞬の隙を見逃さず、リエは一気に距離を詰めてくる。間一髪首に迫るナイフを避け、距離を取ろうとして斧を振るい――気づけば、マークの腕は勢いを殺され、綺麗に受け流されていた。
まずい――! マークが死を覚悟したとき、上空から決死の覚悟でアキラが蹴りを突き刺そうとする。
「……好都合」
「……は?」
リエが今、確かに――その時、彼女の腕に粒子が凝縮されていく。徐々に紅く光りだし、何かが小さく爆ぜる音が聞こえだす。
「……悪いね、こっちには」
「クソ!」
マークは咄嗟にアキラに手を伸ばし、後方へと投げ飛ばす。
「相棒との約束が、あるもので!」
粒子は反発し、無数の爆発を引き起こした。爆風に呑まれ、マークの巨体が吹き飛んでいく。煙が遮るわずかな隙を逃さず、リエは身を翻して脱出へと転じた。
痛む体を起こしつつ、マークはそれを見送ることしかできなかった。倒れ込むマークの横に、アキラが舞い降りる。
「おい、大丈夫か?」
切羽詰まったようにアキラが話しかけると、マークは口元の血を拭いながら不敵に笑う。
「直前で防いだから問題ねぇ……にしても、最後は上手くやられたな」
「あぁ。先手を打っていたはずが後手に回っている……厄介な相手だ」
「次の手立てを、考えねぇとな」
マークはゆっくりと立ち上がり――ふと、一つの違和感を抱いていた。
(なんか既視感があるんだよな、あいつの顔。似た奴いたっけ……?)
そんなことを思ったのは一瞬だけ。思考を切り替え、自部隊のもとへと戻る。彼らの戦いはまだ始まったばかりである――
◇◆◇
リエが帰還したとき、解放連盟の兵士たちは大いに沸き立っていた。
銃や新しく作られた異能制御用の機器を天高く掲げ、旧祖国の国歌を声高らかに歌っている。湿気った塹壕とは思えないほどの熱気が辺りを支配していた。
同じく高揚しつつもリエが自部隊に戻ると、仲間たちが歓声を上げて駆け寄ってくる。
「お嬢、無事だったか!」
「勿論! みんなは?」
「全員生きてる。こんなこと今まで無かったぞ!」
肩を組みながら笑いあう彼らとともに、リエは拳を突き上げた。そんな彼女のもとに、静かにヤードナーが寄ってくる。
「隊長。撤退する途中、隊長の近くで爆発が生じたのを目撃したのですが、あれは手榴弾ですか?」
「いや、異能。感覚的にやったから分からないけど、衝撃を受け流す以外にもできるみたい。研究のし甲斐があるなぁ」
「……隊長、目がキマってますよ」
怪しげに笑うリエを横目に、ヤードナーはため息をつく。それでも心の内は、確かに勝利に酔いしれていた。
――『カオス』後初の戦闘は、解放連盟の圧勝で幕を閉じた。
ピューリ川北部:サシルの戦い
【統計】
連邦軍編成
総数:25,500
(前衛:10,000 / 狙撃・砲兵:12,500 / 支援兵:3,000)
主要将校:ハン・メンセイ
ロイド・テンガリン
死傷者総数:19,327(内、戦死者:14,432)
・前衛部隊戦死:8,214
・狙撃・砲兵部隊戦死:6,218
・支援兵戦死:0
連盟軍編成
総数:6,000
(前衛:500 / 遊撃隊:1,000 / 狙撃特科兵団:4,300 /
支援兵:200)
主要将校:トーマス・ジェメニ
リエ・シルヴァ
死傷者総数:309(内、戦死者:0)
狙撃特科兵団が初出撃、迎撃成功




