8話:初戦闘.終 連盟視点
あらすじ
立ちはだかる双鷲を前に、リエ達は苦戦する。即座に撤退を判断し、彼女の部隊は鮮やかな撤退戦を開始した。リエ自身も「死なない」と言うハリコフとの約束を守り、彼らを撃退することに成功する。結果的に、サシルの戦いは連盟側の圧勝で終わるのだった。
「大勝だって? それは本当なのか!?」
対策本部にて、通信兵からその伝令を聞いた長官は驚きの声を上げた。
「誤報では、ないんだな?」
「はい! トーマス総司令が直接連絡を。敵は大損害を受け撤退、こちらの被害は軽微とのこと!」
その知らせを受け、本部は湧き上がった。
「やりましたね、先輩!」
「あぁ! 作戦が成功したようで何よりだ」
敵にこちらの実力を誤認させることで、奇襲の効果を上げる作戦だったが、まさかここまでうまくいくとは。
「想像通り、いや、それ以上にリエが働いてくれたようだ。」
リエを推薦した長官が誇らしげに言った。その言葉を聞いて、少し心がチクリとする。そうだ、あいつは無事だろうか?
「死者数はどれほどでしょうか?」
ケーニヒスが通信兵に尋ねる。
「総数、内訳はこれから調べるとのこと。ただし、主要の将校、指揮官は全員無事だそうです」
その言葉を聞いた俺は、大きく息を吐いた。リエが生きていることに、"親友"として心の底から安堵する。
その後、戦いの分析のために俺は複数の部下とともに現地に赴いた。そこで死者数、作戦の経緯、敵の推定被害を聞く。
「……本当に凄いですね、損害比が8倍だとは……」
「あぁ、自分も驚いている。リエ達はもちろんだが、比較的練度が低いはずの前衛と支援兵達が奮戦してくれた結果だな」
トーマス総司令が腰に手を置きそう呟く。兵達は十分に頑張ってくれたのだ。次はこちらの番だ。
総司令と別れたあと、俺は顎に手をやって思考する。なぜこの結果に終わったのか?そこから得た情報を参考に、これから戦うことになるため、まずはそこから考えよう。
プラス方面で見ると、まず兵士、リエの奮戦が挙げられるだろう。彼らじゃなければここまで作戦が機能することはなかったかもしれない。しかしーー
(それを考慮しても、本部が出した損害比の割合は3倍だった。明らかにあちらに原因がある)
そこを踏まえて見直すと、敵の死者数のほとんどが狙撃兵であることに目がつく。
(確かリエが突撃したのは狙撃兵の割合が多い部隊だったな……)
なぜ、迎撃できなかったのか。原因はーー
「数任せによる前衛の突撃……そして軍全体の注意が対岸に集中していたことか」
敵はこの川を突破するため、前衛を必要以上に派遣した。そして残った狙撃兵で対岸を攻撃することで進軍をサポート。ここを突破したい敵側にとって、この作戦は間違っているとは言えない。だが奇襲される事態を想定されていなかった。
そう、まるでこちらの方針を知っているかのような……
「……やはりスパイか」
一つの結論にたどり着く。宣言された「専守防衛」の方針を知らなければ、この動きはあり得ない。
(おそらく一般兵の中だな、作戦にまともに対応できていないしな)
長官に報告しておこう。そして、前衛を必要以上に送らないこと、偵察を増やすことを作戦に組み込んでおかねば。
そしてもう一つ、気がかりなことがあった。
(なぜ敵は機械化師団を用いてこなかった?)
川の突破に機械化師団は向かない。けど突破した後の平原において、機械化師団は有用なはず。
何か、見落としている気がする……
一つの考えが浮かび上がってきた、が即座に振り払う。そのようなことが起きているはずがない。きっと後方に待機させていた、などだろうな。あとで確認させねば。
そしてマイナス方面。話を聞く限り、リエの勢いは凄まじかった。なぜ、これだけの被害で収まった?
そうして分析を始めようとするとーー
「ぉぉぉぉおおおぃ!」
「ん……?」
後ろから見知った声が近づいてくる。ものすごい勢いで。すぐさま振り返ろうとする。しかしーー
「おひさぁーーー!!」
「ぐぉああ!?」
背後から容赦のない質量が衝突し、衝撃で前に倒れる。胸がとても痛い。背中を振り返ると、満面の笑みを浮かべたリエが乗っていた。
「いつの間に来てたの? 教えてくれればよかったのに!」
「つい、さっきな。っていうか、2日ぐらいしか経ってないだろ……」
テヘ、と笑うリエに、先ほどまで考えていたことを聞いてみる。
「なぁ、前の戦いでなぜ敵軍を崩壊まで持っていけなかったんだ」
「うえぇ!? あの損害じゃ足らなかった!? 私、結構頑張ったつもりなんだけど……」
「違う違う。兵達に聞く限りお前の勢いは凄まじかった。なんで止められた?」
「あぁ。二人の将校が立ちはだかってきたんだよ。アキラとマーク、っていう」
「アキラにマーク……」
記憶を探る、がそんな名前は一切出てこない。
その様子を見たリエが補足してくる。
「多分新参だと思う。私たちと年も変わらないはず」
「強かったか?」
「うん、恐ろしいほどにね。特に……マーク、っていう大柄の青年、あれは化け物だと思う」
リエの報告を受け、原因はその2人と、彼らが率いる部隊にあると認識する。次からは注意して見ねば。
「なるほどな、教えてくれてありがとう、リエ」
「ふふん、どういたしまして。他になにかしてほしいことある?」
「そうだな、まずは俺の背中から降りてくれ」
あ、ごめんと言いながらリエが降りるのを感じて、体を起こす。全身が痛い。帰ったら少し横になろう……
腰をたたいていると、遠くでどよめきが広がるのを耳にする。よく見ると、ほとんどの兵士がそこに集められていた。
「なんだ?」
「とりあえず見に行ってみよう」
騒ぎのもとに2人で足を運ぶと、そこにはーー
「リーダー!?(おじさん!?)」
箱の上に立ち、兵士を一瞥するリーダー、ルヴィカがいた。指導者が前線に来るという異常事態である。
「お、おい。こんなこと今まであったか?」
「あるわけないじゃん。びっくりだよ」
呆気にとられつつ、小声で確認しあっていると、リーダーが話し出す。
「みな、よくやってくれた。反乱以降最大の戦果だ。間違いなくこの戦いは後世で語り継がれるだろう」
俺は、リーダーがなぜここに来たのかを理解した。兵達は静かに、その声を聞いている。
「だが、これで終わりではない。おそらく連邦は本気を出してくる。これ以上の激戦が繰り広げられることを覚悟せよ」
彼らは、何もいわずに、決意を固めていった。
ルヴィカは拳を胸に置く。
「そして、その激戦を勝ち抜くのは、我々カーディアだ。」
腕を上げる。
「我らが祖国に栄光あれ!」
"我らが祖国に栄光あれ!!"
兵の結束が、これまでにないほどに固くなった。この時より、伝説となる北部方面軍狙撃特科兵団が誕生したのだ。
その演説を聞いていた俺もまた、静かに闘志を燃やしていた。横を見ると、リエも同じく目に炎を宿らせていた。拳を握り、手の横をリエに向ける。
「……必ず勝つぞ」
「おう」
決意を胸に、俺とリエは拳を合わせたのだった。
5月25日 ……懐かしいな。このとき、確かに私の心にも彼らの心にも、決して消えることのない焔がついていたのだな。




