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独り立つ 〜残された未来へと贈る英雄譚〜  作者: 不明 訳:春の嵐
厄災の発生編
8/50

5話. 怠慢

あらすじ

遂に『カオス』後初の戦闘――サシルの戦いが始まる。

戦いに向かう直前、アレクは、戦地に赴くリエに声をかけた。

大方の作戦が決まった、その次の日――


「リエ」

「ん?」


アレクは、戦地へ赴く親友に声をかける。


「今回の作戦は、お前の隊が要だ。俺はついて行けないが、大丈夫か?」

「もちろんだよ。私を誰だと思ってるの?」

「はははっ、一応聞いてみただけだ。分かってる」


少しだけ笑いながら、ドヤ顔のリエに向けて拳を突き出す。


「死ぬなよ」

「……任せろ、相棒」


そう言ってリエも拳を合わせる。進軍に戻る親友の背中を、アレクはずっと見つめていた――



◇◆◇



ピューリ川付近、前線近くにて。

荒原には風が吹き荒れ、真夏と大群の兵士による熱気が辺りを支配している。一人の兵士が、とある将校の横に跪いた。


「全隊、配置につきました。そして追加の情報ですが、敵方の守備兵力が五千ほど追加されたようです」

「伝令ご苦労。下がれ」


伝令役の兵士を下げさせ、ハン連邦軍中将は思案する。目下には反乱軍どもの塹壕が広がっている。


(今の伝令通りなら、敵の迎撃兵力は約六千……となると、我らの兵力の四分の一か。情報が錯綜しているのか、舐めているのか……)


顎に手を添えて考え込む。そして、一つの結論にたどり着いた。


(おそらく超能力だな? そう考えるなら、自信過剰の説明がつく。確かに超能力は強力だ、ふりまけばこちらに損害も出るだろう。だが――)


暴走を起こせば、間違いなく味方に被害を及ぼし内側から崩壊するだろう。それを恐れたから、ハンも首脳部も、超能力を使わない方針で出撃した。


ニヤリと笑ったハンは、パチンと指を鳴らす。頷いた部下は、下士官に何かを命令した。数分後、味方の部隊から異音を立てて、何かが飛び立っていく。


「さぁ、見せてみろ貴様らの愚行を。何も為せぬ屍の上で、全てを焼き尽くしてやろう」


敵へとまっすぐに向かっていくドローンを見つめ、悪魔のように笑った。



◇◆◇



「――本部の予想通り、小手調べをしてきたか」


連盟陣地に一直線に突っ込んでくるドローンの大群を前に、トーマス北部総司令は呟く。飛行するその異様な音に、一昔前なら恐れをなしていたことだろう。だが――


トーマスは無線を口元にあて、全体の兵士に伝えた。


『案ずるな、お前たちはやり遂げる。訓練の成果を、存分に見せてやれ』


檄を飛ばされた前衛や狙撃兵たちは、今までの訓練と、残した家族の顔を思い返し、覚悟を決めた。

彼らの目に炎が宿るのを見たトーマスは、視線を戻して右手を上げる。


人の声が消えた、その瞬間。


『放て!!』


右手が振り下ろされると同時に、銃と異能による無数の弾幕が放たれた。大出力の烈風で石、枝、結晶などを飛ばし、ドローンを撃ち落としていく。


ついぞ、数百機いた鉄鷲(ドローン)の群れは標的を捉えることはなく、全てが撃墜された。兵たちの表情に安堵が宿る。トーマス司令も一息つくと、すかさず全兵士に喝を入れ始めた――。



◇◆◇



予想だにしない結果を前に、ハンは顔をしかめる。


(やつら、この数日でものにしたというのか……? いや待て、明らかに精度が低い。たとえ使えるとしても、この大軍の前には手も足も出まい)


そう結論を下すと、部下に無線の用意を命じる。しばらくして部下が手渡した通信機を手に取り、全兵士に演説を始める。


『我々は、この地域を奪取するために死ぬ覚悟でやってきた! しかし、敵はそのたったの六千人しかここに配備しなかった。なんという愚考か! 我々と相対することを、奴らは軽んじているのだ!』


兵士たちの目が煌々(こうこう)と光る。号令を今か今かと待ちわびる。

ハンはその手を高々と上げた。


『時は来た! 勇敢なる兵たちよ、愚かなカーディナンどもを地獄に叩き落すぞ!』


空気がビリビリと揺れた。ハンが腕を振り下ろすと同時、連邦軍は突撃を開始した。大地は足音で揺れ、目の前を飲み込まんと津波のごとく押し寄せる――


砂煙が激しくなる。それは徐々に規模を増し、突撃する連邦軍を飲み込んでいく。連邦の兵士は混乱に陥った。


「お、おい! なんだこの砂煙、予報ではこんな風無かったぞ!?」

「くそ、何も見えん! 誰か、指示を――」


その時、砂の煙幕を切り裂くように、一つの部隊が姿を現した。腕に紅く煌めくバンダナを身に着けた所属不明のその軍勢は、惑う連邦軍に嬉々として襲い掛かる。


重なる悲鳴と爆発音――極度に上がった混乱は、指示系統をも機能不全に陥らせる。


「お前たち、落ち着け! 体勢を立て直すぞ――おい、聞いているのか!」


旅団長が叫ぶも、その声は味方に届くことはない。その瞬間、彼の視界に紅い何かを纏う兵士を見つけた。


マスクに隠れてはっきりとは見えないが、首につけている紅いマフラー。それは、連邦軍ならだれでも知っている――


(リエ・シル――!)


その思考を最後に、彼の頭と胴が切り離される。地面に転がるそれを見つめながら、リエはナイフに付いた血を払った。遅れて、防塵用のマスクを着けた現副隊長のヤードナーが話しかけに来る。


「まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたね」

「うん。風と砂を扱える兵士が多くて助かった」

「――それに、奴ら同士討ちを始めたようです」


さらに、奥の方から轟音が鳴り始める。連盟陣地からの一斉掃射が始まったようだ。


「まだまだ増えるよ。できるだけ稼ごう。――引き際、見逃さないでね」

「――了解です」


そう言い残すと、再び両者は戦線に戻る。殺戮の波は、留まることを知らない。



◇◆◇



その頃、ハンは広がる砂煙を前に何もできないでいた。指揮系統は壊滅し、送り出した軍勢は駆逐されていく。


(なぜこんなにも統制が取れている……今はそれどころでは……だがどうすれば――)


思考は混ざり、うまく整理をつけられない。副将のロイド准将が必死に呼びかけても、反応することができない。


その様子を、上空から見つめる者がいた。銀鷲のエンブレムを胸で煌めかせるその軍人は、呆れながらも無線をつなぐ。


『奴ら、使い物にならなそうだ。隠れて異能の鍛錬をしておいて良かったな』

『――仕方がねぇな。まずは、この邪魔くせぇ砂煙を晴らすとするか』


その声がぶつりと途切れた瞬間、前線を埋める砂煙が何かに散らされた。まるで剣に一閃されたかのように。それを見やり、彼もまた自部隊へと戻っていく――。



◇◆◇



『! 全兵撤退、自軍陣地に戻れ!』


一瞬で砂煙が晴れたことに何かを感じ取り、リエは部隊に撤退の合図を送った。自らは反対に敵陣地へと走り出す。


「……っ、息苦しいっ!」


ガスマスクを投げ捨てて、全力で駆けること十数秒――突如、轟音とともに、味方の後ろに巨大な何かが現れた。

リエはその間に割って入り、その攻撃を受け止める。


「おぉ!?」

「ぐっ……!」


丸太のような腕から繰り出される斧を受け、十数mほど吹き飛ばされてしまう。


「隊長!」

「私のことはいい、早く行き――、っ!」


すぐに態勢を立て直そうとし――刹那、その場から飛び去る。


先ほどまでいた場所に、クレーターができていた。咄嗟に上空を見上げると、銃らしきものを手に持ち滞空する男が、銀鷲(ぎんわし)のエンブレムを輝かせ、冷徹にこちらを見下ろしていた。


「チッ。外したか」

「おいおい外すなよアキラ。せっかくのいい機会だったのによ」

「うるさい。目の前の敵に集中しろ、マーク」

「分かってる……にしても、こいつとは何処かであった気がするな。一体いつだ……?」


二人の青年が会話を交わす間に、リエはナイフを構え直す。生存本能が警鐘を鳴らし、冷や汗が流れ落ちる。


(異能の使用者……さっきまでの軍勢よりも、この二人の方が危険だ!)


まるで異能の時代の到来を告げるかのように。

戦場で初めて、連邦の若き双鷲(そうしゅう)とカーディアの戦姫が対峙した。

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