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独り立つ 〜残された未来へと贈る英雄譚〜  作者: ルヴィカ・フォン・ワーグナー 訳:春の嵐
時の因縁編
49/50

40話. 次は無い

あらすじ

サマル達第五師団は、得体の知れない生物兵器と死闘を繰り広げる。サマルが身を挺して攻撃を引き付け、兵士達は連携して怪物の目を潰していく――その最中に、それは起きた。

地面を跳躍するサマルの傍を、多数の光線が通り抜ける。それは揺らめく己の衣服を貫通するのみに留まり、肉を喰らうことはない。その中で、サマルは思考を廻し続けていた。


(……どうやら照準さえされなければ、精度を落とすらしいな。影に隠れれば狙われもしない、が――)


それでは仲間に攻撃が行ってしまう。その身を危険に晒してでも、表に立ち続けるしかない! 半面に並び立つその目全てを向けて自らを狙ってくる怪物を見ながら、全神経を集中させる。


左右前後、空中を跳び地面を這いずり回り、サマルは攻撃を躱し続ける。いつかお嬢――リエに教わったように。


(常に俯瞰して視ろ、全体を捉え続けろ――一部の危険も見逃すな)


時には岩礁に隠れ、味方の兵士と同じように銃を放ち怪物の目を潰していく。何時しか、その数は三分の一を切っていた。質量攻撃の再使用可能時間(インターバル)も終わった頃だ。後は隙を見て放てば――!



サマルが勝ちを確信する中――"その時"は突然訪れた。



怪物の瞳、その全てが閉じられる。やがて内側へと入り込んでいき、戦場にはピクリとも動かない紫色の肉体のみが残る。


「何だ……?」


サマル達連盟軍は固唾を呑んで見守っている。数秒も経たずして、肉塊は溶け出した。そこから放出される濃紫の蒸気の奥に、人影が十数人――


突如、煙を払うように複数人が肉の残骸から飛び出してきた。赤紫色の皮膚に身を包むその生命体の一つが、己の腕を剣に変形させてサマルへと襲いかかる。


「何だと――ぐっ!?」


サマルは咄嗟に剣で応戦する。鍔迫り合いが始まった直後、その他がサマルを取り囲むように陣形を組む。同時に、一斉に襲いかかった。


サマルは手を後ろに振りかざし、地中から岩礁を生み出して半数を吹き飛ばす。目の前の生命体も手に持つ剣で左側へと弾き飛ばし、右側の敵を横薙ぎで相手取ろうとする、しかし――


剣を向けられた二体は、その攻撃を避けるべく跳躍する。その避け方は、()()()()()()()()()ものだった。


(こいつら、俺の動きを――!?)


思考で動きが止まった瞬間、サマルの身体を何かが貫いた。血を吐きながら後ろを振り向くと、先程弾いた敵が彼の心臓に鋭利な腕を突き刺していた。


サマルは胸から突き出す紫色の腕を掴み、背面に宝晶を放出する。その攻撃で二体の上半身が吹き飛び、崩れ落ちる。


「くそっ……」


サマルは悔しそうに歯噛みした。

直後、どうやっても詰めれない距離を取った生命体達が、腕を銃口に変形させる。


何本もの赤い光線が、サマルの身体を無慈悲にも穿ち抜いた――



◇◆◇



サマルが討ち取られるその様を見た連盟の兵士達は、絶望の淵に立たされていた。


「嘘だ……少将が、そんな……」

「う、狼狽えんな! 少将を助け」


鮮血が飛び散る音とともに言葉が途切れるのを聞くと、その場の兵士達は恐慌状態に陥った。次々と我先に逃げていく。


その背中を後方の敵数体が追いかけようとした瞬間――


「……させねぇよ」


残された全力を振り絞り、今までとは比較にならない最大質量の岩礁が、戦場を埋め尽くした。サマルがいた部分のみならず、すべての連邦軍を阻むように戦線を横断する。


ただ一人、近くに残っていた少年兵が彼に駆け寄った。息も絶え絶えになりながら、必死に呼びかける。


「サマル少将! 大丈夫、なの、ですか……!?」

「……頭はなんとか避けたが、正中線を射抜かれた。もう、助からない」

「そんな……!」


涙目になる少年兵に、サマルはふっと笑いかける。そして、血を噴き出しそうになるのを必死にこらえながら言葉を紡ぎ出した。


「いいか、ネイブ。今言うことを……一言一句、聞き漏らすな……ノートがある、なら、メモしろ」

「はっ、はい!」


ネイブが焦りながらもノートを取り出すのを見て、サマルはできるだけ早く言葉を遺し始める。


「紫色の、化け物は、砲台……先に下の兵を潰せ。目の数が、10に、なれば……目は、ヒト型の生き物へと進化する」


ネイブは手を震わせながらも、必死にペンで書き殴る。


「ヒト型、は……それまでの敵の習性、を記録、する……異能は、されない。複数で倒せ……照準の、兵と違って、ヒト型は目があり、発光、している、から……注意しろ」


全てを書き終えたネイブに、顔も向けずサマルは言い放つ。


「以上だ。必ず、味方に、持ち帰れ……行け」

「……分かり、ました……!」


ネイブは後方へと走り出す。足音が遠ざかるのを確認しながら、サマルは最期に思いを馳せていた。


(はは……いつかはこの日が来ると、分かっていたのだがな。いざ目の前にすると、実感が湧かないな)


心中に渦巻く諦念と安堵――それを一抹の後悔が塗り替えしていく。脳裏に、静かに微笑む女参謀員の顔がちらついた。


(こんなことなら……先延ばしせずに、伝えておくのだった……あぁ、死にたくない)


心の底から願っても、無情にも力は抜けていく。思考することもままならなくなっていく。


そして、心臓が機能を停止する直前――彼は笑った。その理由を知る者は、もういない。


かくして――連盟の一角、サマル・ラッケンドーの命の灯は静かに消え去った。



◇◆◇



少し後、病室の一角で――

リエが再び目を覚ますと、先程までいたはずのマイさんやティラさん、シャルルさんが見当たらなかった。


(――私が寝ちゃったから、お開きになったのかな……)


そんなことを思っていると、外から何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「連邦―――、停戦を破棄する―――……!」

「東部戦線は―――まずい状態―――、サマル――が戦死――、―――応援に行くぞ!」


途切れ途切れで不明瞭だけど、ある程度は聞き取れた――いや、聞き取れてしまった。


(いか、なきゃ……! こんなところで寝ている場合じゃ、ない!)


軋む体を無理やり起こし、近くに掛けられていた服と武器を身につける。窓を開け飛び降りると、多数の軍用車両が鎮座する専用駐車場へと駆け出した。




――病室には、開け放たれた窓から吹き入れる風により揺れるマフラーが残された。

悲しそうに、揺らめいていた。

私もこの報を聞いたときは、言葉を失った。連盟幹部初の死者が彼になるなどと、誰が予想しただろうか……? 

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