36話. 元凶
あらすじ
連邦内でクーデターが発生するという異常事態を前に、停戦を結んでいた国家解放連盟は大混乱に陥る。
前線は警戒態勢が敷かれ、それに伴い緊急会議が掛けられた。
カツカツと足音を鳴らし、ルヴィカは従者とともに廊下を歩く。珍しく冷や汗を流しながら、従者に問い質す。
「連邦でクーデターが発生したというが、本当なのか?」
「はい。昨日午後3時より連邦各地で通信障害が発生、同時に首都マルハッタンで多数の軍勢が蜂起、国会議事堂を包囲しました。
当時は総選挙の為にほぼ全ての議員が結集しており、内部との連絡は途絶している模様です」
「拘置されたか、処刑されたか……真相は知る術もないな」
その足取りは早くなる。完全なるイレギュラーを前に、どのように対応すべきか……
追加で情報が告げられる。
「先程、ほぼ全ての議員と言いましたが……例外がいるのです」
「どこの党だ?」
「未来革新党……近年台頭した、未来主義を掲げる派閥です」
「……考えうる中で最悪のシナリオだな。もし、奴らに敗れたら――全ての文化は破壊される。祖国は完全に消滅することになる」
ふいに、胸ポケットをまさぐった。当然そこには何もない。
(……タバコは、やめたのだったな)
視線を上げると、少し先に目的地を見つける。従者に待機するように指示し、冷静を装ってドアノブを捻った。
「すまない、遅くなった。集まれたのは何人だ?」
その声に、立ち上がったチナン調停部長が応えた。
「私にバクフォ北部副司令、西部方面のガカ中将、ボン臨時政務官、そして対策本部員のライアンの五名です。各総司令やミロ長官は、万が一のために現場に常駐しております」
「そうか、分かった……十分だ。ハリコフは療養中だったか?」
「はい、先程トーマス北部総司令から連絡が。しばらくは安静にさせるべきだと」
「分かった」と返し、席に着く。前置きをも省いて、さっさと本題に入った。
「昨日、連邦でクーデターが発生、成功してしまった。まずは自分たちが置かれている状況を整理したい。各部門から説明を頼む」
その発言を聞き、白髭を触りながらバクフォが腰を上げる。
「……では、私から。昨日未明、北部方面側に常駐していた連邦軍が突然退去しました。西部でも同様のことが起こっており、万が一に備えて前線の要塞化を進めております。メナスでの戦いで負傷した人員も戦線に復帰し、兵力は申し分ありません」
「西部、南部でも同様の現象が起こっておりました。西部に至っては兵1人おらず、民衆の蜂起により一帯が我らに復帰しました」
バクフォに追随するようにガカが声を上げる。その事実を前にざわめきが広がった。
「そんなことがありえるのですか? 戦線の放棄など、二流でもやりませんよ」
「私も耳を疑いましたよ、ボン殿。目の当たりにするまでは……」
眉間を揉みながら、ガカは溜息をついた。その反応から、事実なのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。
「前線の状況は分かった。国内の方はどうだ? ボン政務官」
「アイジニアらの支援により、物流は滞りなく。問題としては、捕虜の返還がまだ3分の1程度しか完了していないことが挙げられます」
「分かった、引き続き治安維持を頼む。それで……ライアン、対策本部の方はどうだ?」
ルヴィカがライアンに目線を向けると、緊張した様子で立ち上がり、説明を始めた。
「現在、情報局の業務を引き継ぎ情報の収集に努めておりますが、成果は芳しくありません。今回の蜂起の中心人物の名前ぐらいしか……」
「十分だ、教えてくれ」
ライアンは一息置き、告げた。
「アリオス・アルファハード国軍元帥です」
全員が息を呑んだ。ルヴィカは手を顎の前に添えて微動だにしない。
チナンが深刻そうに呟く。
「実在していたのか……彼が表舞台に立ったとなると、実質的な軍部クーデターだな。今までの連邦とは明らかに違うぞ」
「しかしなぜ、蜂起を起こしてまで未来主義派閥の味方を……?」
ボンが腕を組み唸る。その時、ルヴィカがボソリと呟いた。
「……おそらく立場が逆だ。アリオスが未来革新党を神輿に祭り上げ、裏から操っている……奴なら十分にあり得る」
「リーダー、アリオスと面識があるのですか?」
バクフォの問いに静かに頷き、ルヴィカは真実を口にした。
「12年前……私の所属していた隊と奴が率いた隊の激突が最後の戦いだったのだ。そして、私の上司はそこで殺された」
そう話すルヴィカの目は、冷徹な光を放っていた……
◇◆◇
――連邦国会議事堂内、閣議会議室にて。
照明が暗く点滅する。壁に血がこびりついているその部屋に、幾人もの将校が鎮座していた。扉がゆっくりと開かれた。
老齢の男が、ゆっくりと上座の席に歩み寄る。緩やかにその腰を下ろすと同時に、まばらな拍手が部屋を満たした。
側近の1人が恭しく述べる。
「おめでとうございます、閣下。遂に勝ち取りましたな」
「あぁザンベス。漸く忌々しい保守派を一掃できた……これからは我々がこの国を導くのだ。あるべき道へとな」
満足気に頷くザンベスを見て、その男――アリオスは前を向いた。
「さて、国内の問題は粗方片付けた……次にやるべきことは、言わずとも分かるな?」
その言葉に、若手の勇将シリトンが応える。
「はっ。忌々しきカーディナンどもの殲滅……この国を正しき未来へと導く為に必要なことだと理解しております」
「そうだ。奴らは同じ国民として扱ってやったにも関わらず、こうして無礼にも反乱を起こしている。こんな野蛮人どもは生かしておく必要もない」
冷徹な視線を前に、女傑ミリアが拳を叩く。
「早くやろうぜ大将! 停戦なんて必要ない!」
「そうだなミリア。保守派が結んだ停戦なんぞ意味はない。一気に叩き潰してやろう」
アリオスは皆を見据えて告げた。
「反乱分子どもを、愚かな夢から引きずり出してやれ」
私の原点。全ての始まり、そして終わり。




