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独り立つ 〜残された未来へと贈る英雄譚〜  作者: 不明 訳:春の嵐
厄災の発生編
4/50

2話. 二の舞

あらすじ

病床に横たわるアレクのもとに、ミロ参謀総長が見舞いに来る。丸一日寝ていたアレクに、現在の状況を説明し始めた。

「――さて、何から聞かせようか。伝えるべきことは山程あるのだが……」

「不躾かもしれませんが、街の現状をお聞きしても?」


アレクの問いに少しだけ苦笑した後、ミロは言葉を紡ぎ始めた。


「概ね、落ち着きを取り戻した。見せかけの平穏にすぎないかもしれないが……街には静けさが戻っている。私たちが取り戻した地域も同様にな」

「……街だけでは、無かったのですね。けど、被害が出ていないのなら、良かった」


アレクは安堵のため息をついた。その間、事前に淹れておいた紅茶を啜りながらミロは報告を続ける。


「前線の兵士も同様に、ミハイル元帥や各方面軍総司令がうまく対応してくれたようだ。お嬢(リエ)も独自に動き回ってくれていたらしい……本当に、君たちは似ているな」

「はは……あいつらしい」


自然と笑いが漏れ出ていた。驚きはなかった。リエならそうすると思ったから。


「だから、今回の超常現象――『カオス』で、我々は奇跡的に被害を受けていない。あくまで、我(・)々(・)は(・)」

「……他国では、大きな影響が出ているのですね」

「話が早くて助かるな」


既に中身の無くなったティーカップを置き、彼は目を細める。


「この組織は、お前がいち早く解決方法を見つけてくれたから何とかなったが……諸国は混乱に巻き込まれているようだ」


「これを」と呟いて、ミロは小さな無線機をアレクに渡した。アレクは何も言わずに再生ボタンを押す。多少のノイズが流れた後、音声が流れ始めた。辿ったかもしれない未来の音声。


『――……ちら……ザザッ……軍■■隊! 援軍を寄越……くれ、頼ガガッ』

『――こちら……管制……ガガ……そち■■状況は……だ!? 説明を頼……over……』

『――ザー……会議事堂前、暴動の人数が多……ピッ、銃じゃ■■できな……ザザー……早く援軍……を寄越しガガ……な、お前らどこか』


悲痛な叫びは、無慈悲にも一瞬で途切れた。目を伏せるアレクに、ミロはその傍受した音声の子細を伝え始める。


「……それは西欧諸国の中核、シャートラ民主国から発信された音声だ。この通信をキャッチしてから約一時間後、彼の国は崩壊した。――西側諸国は、その全てが無政府状態へと陥っている」


その事実を前に、アレクは脳を殴られたかのような衝撃を覚え――震えを抑えることができなかった。


「……こんなこと、絶対にここで起こしてはならない」

「分かっている。だから明日未明、幹部によって秘匿会議が行われる手筈だ……そこでだ」


ミロはアレクの目をしっかりと見据えた。


「その会議に、お前も出てくれないか?」


アレクは、自分が何を言われたのか理解できなかった。ありがたいことに、ミロはその頼みについて詳細を説明してくれた。


「お前はこの異常をいち早く掴んだ重要な人間(キーパーソン)だ。全体を決める会議にて、お前が得た情報と、意見を、素直に伝えてほしい」

「で、ですが……」


言い淀むアレクの前で、ミロは頭を下げた。


「お前が重体なのは重々承知している。だが……どうか頼まれてくれ」

「……分かりました。私で、良ければ」


ミロが顔を上げると、覚悟を決めたアレクの姿があった。ミロの心を、安堵の念が駆け抜ける。


「……そうか。すまないな」

「いえ、確かにいろいろと伝えなければいけないこともありますし、むしろありがたいです」


アレクは感覚のない両腕を見つめる。資料を用意することはできないが――脳内で保管して説明するしかない。


一呼吸置いて、アレクは口を開いた。


「参謀総長、私を資料室に連れて行って頂けませんか?」



◇◆◇



翌日――参謀本部の防空壕のさらに深く、一般兵士には立ち入りできない地下会議室にて。


昨夜、資料室で記憶の擦り合わせを終えたアレクは、ミロとともに湿気に満ちた廊下を進んでいく。


ドアをくぐると、既に三人――ミハイル元帥や、内政を司るサレンダ政務官、スケーロ情報局長ら連盟の重鎮が待機していた。


サレンダが興味深そうにアレクを見つめる。


「あなたが、アレク殿ですか?」

「は、はい。アレク・フォスターと申します。新参者ですが、本日はよろしく――」

「噂は聞いていますよ。嬢様とも仲良くして頂いて」


にこやかに笑いながら席を立ち、サレンダはアレクの手を取った。アレクが呆気に取られていると、ミハイルが目を細めながら呆れ声を漏らす。


「やめてやれ、サレンダよ。アレク君が困っているだろう?」

「おっと失礼。では私は、席へと戻らせて頂きましょう」


飄々とした足取りで、サレンダは席へと戻っていく。平静を取り戻したアレクは、ミロに続き自分の席へと座ろうとした、その時。


「すまない、遅くなった」


凛としたその声とともにドアが開かれ、赤髪が似合う一際背丈の高い人物が入ってきた。どことなく気品を感じるその佇まい――連盟を率いるリーダー、ルヴィカその人である。


すぐさま全員が起立し、敬礼した。


「非常事態だ、畏まらないでもいい。座ってくれ」


その声を聞き各々が席に座るのを確認し、自らも座ったルヴィカは会議を始めた。


「……皆も知っての通り、数日前からほぼ全ての人間に異常な能力が発現している。中には、従来の兵器とは比較にならない攻撃力を有するものもある」

「そうだな……誤って暴発を引き起こした兵によって、小隊が壊滅しかけた話も聞く」


ミハイルがしわを寄せて重々しく呟く。照明は点滅し、今にも消えてしまいそうだ。


「現象……民の間では『カオス』と呼ばれるものが発生して数日、兵達の緊張と混乱が最高潮にまで高まってしまっている。

これ以上放置すれば、この独立闘争はおそらく"崩壊"するだろう。それだけは、絶対に避けなければならない」

「……なるほど、今日はその事態に対応する方針を決める会議ですね?」


先程までとは打って変わって、顎前で両手を組んだサレンダが静かな声で問い質す。リーダーは軽く頷いて、召集の理由を明らかにする。


「今回はそれぞれの分野から情報を持ち寄って来てもらった筈だ。各々出し合い、総合的に鑑みて判断を下すぞ」


ルヴィカの発言に全員が頷いた。今後の命運を決める最重要の会議が始まった。

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