3話:見えない不安
指導者:ルヴィカ・フォン・ワーグナー:男:36歳
情報局長:スケーロ・シッチ:男:42歳
内政・外交官:サレンダ・ナロアーデ:男:51歳
元帥:ミハイル・シルヴァ:男:74歳
異能調停部長:チナン・サリズム:男:56歳
あらすじ
方針を決める会議が始まった。各々意見を出し合うが、なかなか決まらない。その中でハリコフの専守防衛案とリエの調査案が採用され、異能対策本部が設立された。
彼らの尽力と方針の明示化により、混乱は一応の収束を見せる。しかし、問題は終わらない。
「今日も会議なのか?」
「あぁ、お偉いさん方の会議は一つも進展していないらしい」
清潔に保たれた連邦軍最高司令部の廊下を2人の大尉が歩いていく。
「その状況どっかで聞いたな。あぁ……と、何だっけ。何とかは踊って……」
「会議は踊る、されど進まずだな。……まぁそれよりかはマシか」
銀鷲のエンブレムを煌めかせて青年はため息をつく。もし自分が上に立てたなら、もっと迅速に行動に移せるのに……
もう一方の男も丸太のような腕を組んで呟く。
「会議なんてしなくても、超能力なんてバンバン使ってったほうがいいと思うのだがなぁ」
「そんな簡単な話じゃないさ。まぁその意見には賛成だが……」
軽い会話を続けていると、いつの間にか部下たちのもとについていたらしい。彼らに声をかけ、部隊の訓練に戻る。この未曾有の脅威に対処して、祖国を守るために。
若き鷲たちは爪を研ぐ。敵に使うその日まで。
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一方、連盟本部。
方針が決められ異能対策本部副長になった俺は、横にいる上司のミロ長官とともに山積みの書類を前に頭を抱えていた。
「や、やることが多すぎる……」
「お前のせいだぞ? 確かに作戦を考える上で参謀本部の統合は必要だが、調査全般請け負う必要なかっただろう! ただでさえ急造の組織だってのに……」
「しょうがないじゃないですか! 調停部ときたら、別の件についていて動けないって言ってきたんですよ、うちがやるしかないでしょ!」
「絶対にうちだけじゃ人手が足らないな……」
事実、部下たちは業務量の多さに疲れ果てていた。それでもなお紅茶を片手に徹夜で取り組む。
「今度人手を増やしてもらうよう伝えにいきましょう……」
「そうだな、頼むぞ」
少し休憩してきます、と言い残し、外にでる。そよ風が気持ちいい。「カオス」による混乱から戦闘が停止していることで静けさを保っている街並みを見ると、ついつい戦争のことを忘れてしまいそうになる。
こんな平和が続いてくれればいいのに……
感傷に浸っていると、遠くから喧騒が聞こえてきた。騒ぎのもとに足を運ぶと、そこではーー
「てめぇ、異能は使用するなって言われていただろ!」
「違うんだ、わからないけど、勝手に出ちゃったんだよ!」
複数の兵士に一人の男が言い詰められていた。よく見ると男の腕は火傷を負ったように爛れていた。放置するのもまずいと感じ、間に入る。
「そこの兵士たち、少し待ってくれないか」
「……その腕章、参謀本部の上の人か。いや、今は異能対策本部だったけか」
「そうだ、ハリコフと言う。何があったのか説明してほしい」
兵士は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに話し始めた。
話によれば、この言い詰められていた男が規則にも関わらず勝手に異能を使用したから、対策本部に連れて行こうとしたらしい。
話し終わる直前に、男が顔を引きつらせて叫ぶ。
「本当に違うんだ! 故意じゃない!」
「……だいたいは理解した。そこのものは本部に連れていく。ただし保護と調査を行うだけだ。」
男はへたり込んだ。それが安堵から来るのか、はたまた別の何かから来るのかは分からない。
「別にそうしてくれるのなら異論はないが……」
「……? まだ何かあるのか?遠慮なく言ってほしい」
するとほかの兵士が口を開いた。
「あんたが上の人に掛け合えるなら、調査をもっと早くするように言ってくれねぇか。自分の異能もろくに調べられないと、おちおち眠れもしねぇ……」
そんな台詞を吐き捨てて、兵士達は持ち場に戻っていった。俺は一歩もその場から動けなかった。胃の中が重くなったように錯覚する。たまたま来ていた部下に座り込むその男を任せ、流されるように足を進めた。
気がつくと草原に来ていた。少し前のクレーターがまだ残っている。体を横にしてみる。草の匂いと、頬に当たるそよ風が心地よい気がした。
「何やってるのさ」
突然の声に飛び跳ねる。リエだった。聞けば、いつものように特訓していたらいきなり俺が来て寝転がり始めたから、声をかけてみたらしい。
知った顔に安心し、再びドサッと背中を地に預けた。
「……疲れたから休憩してる」
「よっぽどお疲れのようだねぇ。話、聞こうか?」
「あー……」
横に座った彼女がそう告げた。少し逡巡する。正直胸の内を吐露したいが、仲のいい異性相手に弱みを見せたくないというプライドが邪魔をした。
気持ちが伝わったのか、彼女は何も追求しなかった。ただ静かに、横で風に吹かれていた。
「……なぁ」
「……なに」
「ありがとな、そばにいてくれて」
彼女は少し目を見開くと、そっぽを向いた。耳が少し赤くなっていて、どんな顔をしているのか気になった。きっといい顔をしているに違いない
どれほどの時間が経っただろうか。心の内も落ち着いてきた頃、何かが気になった。
……何か致命的なことを忘れてる気がする。
「あ!」
思い出した。業務、放り投げたままだ。
「すまん先戻る!」
「うえぇ、ちょ!?」
リエをおいて全速力で走る。いや、その前に。振り返ってありのままを叫ぶ。
「俺、がんばるわ!」
「……うん、その意気だ!」
声援を背中に受け坂を下った。が、当然間に合うわけもなく、疲労も怒りも限界に達している長官にしっかりと怒られるのだった…。
5月21日 1日、1日の執筆間隔にズレが生じている。自らのペースで進める、というのはこうも難しいものなのだな。




