2話:今後の方針
現在判明している者の名前・齢などを、少しずつ記しておくことにする。
異能対策本部副長:ハリコフ・アレクセイ:男:19歳
第1遊撃隊隊長:リエ・シルヴァ:女:19歳
あらすじ
会議室において、今後の方針を決める会議が始まる。と、思いきや、遠くでいきなり未知の爆発が起きる。ハリコフが様子を見に行くと、親友のリエがなぜか爆発を起こしていた……
リエは「ありがとう」と差し出された手を取って立ち上がった。身体に異常がないことを確認し、早速質問をぶつけてみる。
「それはそうと、なんで爆発なんか起こしてたんだ? 幹部の人ら皆慌ててたぞ」
リエが少しだけ申し訳なさそうに俯く。
「起こしたと言うか起きちゃったと言うか……ちょっと能力の実験をしてたんだよ」
「能力の実験って……お前、まだ上層部から何も言われてないのに勝手にやっちゃってたのかよ」
ため息をついてしまった。こいつの自由奔放さには毎度手を焼かされる。本当に。
(……しかし、何か引っかかる。本当に「爆発する能力」なのだろうか……)
「とりあえず戻ろう。30分くらいの説教は覚悟しとくんだな」
「うげぇ……もうおじいちゃんの説教聞き飽きたんだけど……」
「30分くらいで済みそうなだけありがたく思え!」
(まぁ、かくいう俺も説教をくらいそうだが……)
そんな他愛もない会話をしながら坂を下っていく。町通りにつき、会議室に向かう道中でも、リエは多くの人々から話しかけられていた。
「リエさん、こんにちは!」「リエちゃん、あんまり無茶しちゃダメよ〜」「おいお嬢、また説教されるようなことしてるのかよぉ」
それに対して「こんにちは〜」「気をつけまーす」「うるさいうるさい」と彼女はテンポよく返していく。リエはルヴィカの明るい姪として、兵達からは親しみを込めて"お嬢"と呼ばれている人気者だ。……時々やらかすのが玉に瑕だが。
だが、それも会議室の扉を開けるまでだった。
真相が分かると、すぐに別室に連れて行かれ怒涛の説教タイムが始まった。白髪を逆立てて激怒するミハイル元帥と、見る影もなくしおしおになっているリエ。実の祖父であり最高幹部でもある老人には、彼女も形無しだ。
俺は比較的軽く済み、早く会議室に戻ることができた。激しい怒号と、こちらを恨めしげに見るリエの顔を横目に、俺は会議室に戻って机の上の地図を見つめ、現在の戦況を頭の中で整理し始めた。
(半年前、ついに始まった連邦へ向けての反乱。その最中に起きたのが「カオス」。そして今の問題は、兵の混乱、敵の不透明な動き、そして深刻な物資不足、といったところか)
なら、まず最初になすべきことはーー
と、俺なりに問題の分析を行っていると、どうやら説教が終わったらしく、シナシナになったリエが横に座ってきた。
「今回のだけじゃなくて日々のこと丸ごと言われたんだけど……!」
「……どんまいな、長さに関してはお前が悪い」
小声で告げて、会議に戻る。説教やらなんやらで中断していたが、今後を決める重要な議題なのだ。心してかかる必要があった。
「さて、再開するとしよう」
ルヴィカの一言で、皆が襟を正す。
「私は、原則としては私たちを含めて能力を使わせない方針で行こうと思っている。秩序に亀裂が生じかねないし、むやみな使用による戦闘の激化は、寡兵の私たちにとって不利な状況を生みかねない」
ミハイル元帥の視線が鋭くなった気がした。リエは涙目になって俯いている。……あとで慰めてやったほうがいいだろうか?
「何か意見のある者はいないか?」
ルヴィカのその発言を聞き、スケーロが眉間にしわを寄せて口を開く。
「能力の不使用は早計ではないか? 今のところは使用する方針ではないようだが、もし連邦側が大々的に使用する方針に転換してしまえば勝ち目はなくなるぞ」
「その発言も一理あるな」
「加えて物資担当の私から申し上げるならば、確認されるいくつかの能力を合わせれば一定数の資源を自力でまかなえるようになります」
スケーロの発言に沿うように、サレンダが意見を連ねる。
「秩序の崩壊に関しては同意見だ。だが時には博打を打たねば勝負には勝てないぞ」
スケーロの追い打ちにルヴィカは頭を悩ませる。彼らの意見は確かにそのとおりではあるのだが、それは彼の意見の真反対であり、どう帰結させるか決めかねているのだ。
見かねたミハイルが声を上げた。
「そこの2人はどうなのだ。何か意見はないのか?」
横の少女を見てみる。すぐに目を逸らされた。当てにならなさそうだ。仕方がないので自分の意見をありのまま伝える。
「私は同志スケーロの考えに"部分的に"賛成です。確かにあちらが能力を全面的に使用し始めたら既存兵器では太刀打ちできません。加えて兵達に不満が溜まる可能性があります。従って能力の不使用は強制すべきではないと考えます」
「……? 部分的とはどういうことだ?」
ミハイルが尋ねる。
「能力の使用を防衛のみに留め、体制を立て直すべきです。そうすることで敵が能力を使用してきても最悪の事態には決してならないでしょう」
一同は思案する。自分の出した意見は確かにスケーロの不安を解消するものであり、ルヴィカの方針に沿うものだ。しかし……
「それでは、後手に回りませんか?」
サレンダが少しだけ目を細めて疑問を投げかけた。この点に関しては十分承知していた。
「はい。なのでその間に力をため込んでおく必要があります。"未来"を勝ち取るために。……尤も、具体的な案はこれから考えようと思っていたのですが」
それを聞いていたルヴィカは少しだけ目を見開いていた。サレンダももう異議を唱えることはない。このあとはその細部を決める会議となりそうだ、と一同は感じていた。
ただ1人を除いて。
「先に調べちゃえばいいんじゃないですか?」
全員が声の主、リエに視線を飛ばした。彼女は少し身じろぎしつつ言葉を紡ぐ。
「さっきサレンダさんも言ってましたけど、能力の掛け合わせで物資面の問題とか解決できそうなんですよね? 掛け合わせじゃなくても、それぞれの能力とかを把握すれば防衛にも流用できるし、戦略に組み込めるようになるまで耐えればその後がかなり楽になると思ったのですけど……」
その発言で方針は決した。その後、俺やリーダー、参謀本部の部下たちで協力し、細部を上手くまとめていった。
まず能力の使用は次の令が来るまで"原則厳禁"とし、自身の命が危ぶまれたとき、軍事、内政面において必要であると判断されたときにのみ使用可能とする。
加えて、全ての兵の能力を統括し、作戦を考える「参謀本部」と裁判を行う「調停部」を統合して能力関連の事象を扱う「異能対策本部」の設置を行うことになった。
この方針が情報部を通じて即座に兵達に伝えられたことにより、兵達が混乱することはなかった。兵達は自分の役割を全うするだろう。
そして俺はと言うと……
「なんで俺が対策本部の副長になるんだよ……」
会議の帰り道、俺はリエに対して愚痴をこぼしていた。チナン参謀次長は調停部部長を務めることになったからまだ分かるが、なぜ俺が抜擢されたのかが理解できない。
「まぁいいじゃん。私は嬉しいよ? 親友がいきなり大出世したのだし。書類仕事頑張って〜〜」
リエの煽りに俺は天を仰ぎ見るしかなかった。この先の苦難がどれほどのものかも知らぬまま……
5月20日 執筆は順調だ。時々家族が見に来るが、何とか隠し通して続けることができている。何せ、彼らに贈るためのものなのだ、バレては格好がつかないだろう?




