1話:始まり
現在、カーディア国家解放連盟は、支配元のファミナス=リトヴィルド連邦に向けて反乱を起こしている。その中で起きた奇怪な現象により、街は大混乱に陥るも、何とか対応を続けていた。
この事象に対処するため、幹部による会議が行われることになった。しかし参謀本部から出席するのは、ミロ長官ではなくーー
「え、私が会議に出席するのですか? 長官やチナン参謀次長ではなく?」
部下からの報告をまとめたあと長官から呼び出された俺ーーハリコフ・アレクセイは、長官から告げられたことをすぐに受け入れられず、思わず聞き返してしまう。
「あぁ、元帥からのお達しでな。私にも理由は掴めなかったが、いい経験にはなるさ」
行ってこい、と長官に背中をお押され、俺は止むなく指定された場所に赴く。
(この建物か……意外と普通の街通りにあるのだな)
扉を開け、何の変哲もない階段を下りて入り組んだ地下を進み、会議室らしき部屋に辿り着く。中に入ると、すでに3人ほど席に座り待機していた。そこには俺を指名したミハイル元帥や、内政を司るサレンダ政務官もいる。他の一人、茶髪の男が口を開く。
「参謀本部の腕章……ミロやチナンではないのか」
「はい、所属のハリコフ・アレクセイといいます。本日はよろしくお願いいたします」
「……ふむ」
彼は空いている席を指さす。おそらく、そこに座れという指示なのだろう。座ってみると、ゴツゴツとしたクッションのない椅子が痛く感じた。
(落ち着かない……)
とても室内は緊迫していた。失礼かもしれないが、この状態でこの方達はずっと待機していたのかと思うと、少し気の毒に思えてきた。
「指導者がお着きになりました」
突然、女性の声が響き渡る。"指導者"。その言葉が意味するのはーー
案内役であろう彼女の退出のあと、間もなくして背丈の高い男が入ってきた。我らのリーダー、ルヴィカその人である。すぐさま自分を含めた全員が起立し敬礼をする。
「いい。座ってくれ」
そういわれて席に座る。リーダーが声を発する。
「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。この不可解な現象についてだ。知っての通り、数日前からほぼ全ての人間に異常な能力が発現している。我らを含めてな」
皆の眉間にシワが寄る。誰にも把握できていないこの現状に歯噛みする。
「安易に異能、と呼称しようか。この代物はかなり厄介だ。従来の兵器とは比較にならない攻撃力を有するものもある。」
「そうじゃな。先んじて使用してきた敵兵1人にうちの小隊が壊滅しかけたそうで」
ミハイル元帥が苦渋の声を上げる。
「あぁそうだ。兵だけではない、この現象は明らかにこれまでの世界を大きく変えるものになる……さて同志ハリコフよ。この状況において、現在我々が最も対処すべき事実は何だと思う?」
「はいっ!?」
いきなり話を振られたものだから、変な声をだしてしまった……。が、即座に平静を取り戻し、少し咳払いをしてから話す。
「同志ルヴィカ、それは兵の混乱と恐怖、ですね」
「そうだ」
さして驚きもないようにリーダーは声を続ける。
「現象……『カオス』と呼ばれるものが発生して数日、兵達の緊張と混乱が最高潮にまで高まってしまっている。ハリコフの言うとおり、これ以上放置すれば、この独立闘争はおそらく"崩壊"する」
リーダーの言う通り、「カオス」は独立闘争を壊しかねないもの。それについてはおそらく皆感づいている。
「なるほど、今日はその事態に対応する方針を決める会議ですね?」
「あぁ。ある程度決めてはいるのだが、一度皆の意見を聞きたいと思ってな」
確認を取るサレンダ政務官に対するリーダーの発言に、"スケーロ情報局長"と刻まれたコートを背負った先ほどの茶髪の男が、眼光を鋭くして口を挟む。
「その方針というのは?」
「あぁ。私の考えはーー」
瞬間、鼓膜を鋭く穿つような爆音が響き渡る。
会議室は混乱に陥った。
「な、なんだ今の爆発音は!?」
「敵の奇襲か!」
「弾薬庫への破壊工作では」
「いや、その方角ではなかった!」
俺含め全員が敵の攻撃を疑ったが、少しずつ、俺の頭の中を、1つの予感が支配していく。
程なくして伝令が飛び込んできた。
「爆発元を確認! サルーディア丘陵、敵影確認できません!」
"サルーディア丘陵"、その言葉を聞いた瞬間、脳裏にある"親友"の顔がよぎる。あそこはよくあいつが特訓に使う場所だ。
「……私が確認しにいきます、同志たち」
「なっ、おい待て、ハリコフ!」
元帥の制止も聞かず、俺は会議室を出て、大空のもとに降り立った。軍規違反だが今は関係なかった。すぐに黒煙を確認し、そのもとへと駆け出す。
丘陵につくと、草原に大きな、大きなクレーターができていた。周囲は焼け焦げ、荒れ地が広がっている。しかしそこにあるのは隕石ではなく、一人の煤だらけの"少女"。やはり予感は的中していたと、内心苦笑した。
「失敗しちゃった……」
土埃を払いながらへらりと笑う彼女に、ため息をつきながら手を差し出す。
「何やってんだよ、会議中だぞ。早く戻ろうぜ、リエ」
彼女の名前は『リエ・シルヴァ』。俺の厄介な、一番の親友である。
この名前が後々語り継がれる事になることを、この時の俺とリエは、まだ知らない。
物語が、動き出した。
5月19日 執筆を開始した。あの戦争を通して動けない身体になって以来、やることもなかったので、ちょうどいい暇つぶしになるだろう。空も綺麗だ。




