31話. 絶たれぬ望み
あらすじ
ときは少し遡り、オルレアン駅出口。怪物と化したソリテールを前に、北部方面軍の精鋭達は苦戦を強いられる。
目の前の怪物に向けて、私を含めた五名による一斉掃射を行う。しかし――
「そっ、総司令! ほとんど弾かれます!」
部下の1人、ミグナスの絶叫が響く。事実、ほとんど全ての攻撃がその腫れ上がる肉体によって明後日の方向へと飛ばされる――私の異能を除いて。
それを察知したマルツォがミグナスに向かって叫ぶ。
「待てミグナス! 総司令の攻撃だけは効いている! 援護を行うぞ!」
「援護するって、どうやって!?」
「放つ物体の質量を上げたら、振り下ろされる腕を弾くことぐらいはできるだろ! 踏ん張りゃ意識誘導だってできるはずだ!」
部下達は視線だけで作戦を共有する。マルツォが私に確認を取ってきた。
「総司令! 我々が――」
「全て聞いている! 頼んだぞ!」
そう告げると、私は後退して精神を研ぎ澄ます。異能用砲塔から、微弱な光が生まれ出す。それを確認した彼らは、怪物の前へと躍り出た。
「こっちだ化け物!」
怪物は雄叫びを上げて肉の塊を振り下ろす。近接に慣れていない狙撃兵である部下達は、必死にそれを躱す。
「うおぉ!? 死んじまうぞこれは!」
「弱音を吐くなナックル! 敵に集中しろ!」
「お前達、ここで生き残ったらあとで酒でも奢ってやる!」
「言質とったからな総司令!」
軽口をたたきながら、それぞれの役割を果たしていく。
◇◆◇
――しかし、数分も経てば彼らの気力は限界に近づいた。バンダーが息も切れ切れに呼びかける。
「総司令、まだですか……!」
「まだだ、まだ足りない……!」
目の前に輝く光を必死に保ちながら、苦渋に満ちた声を上げる。
(あと、少し……!)
その時、怪物の行動パターンが変わった。攻撃を弾くのではなく、飲み込み始めたのだ。近くの木ですらも取り込むその姿に、部下達は警戒を最大限引き上げる。が――
「ぉぉぉぉおおおお!」
聞くだけでも吐き気がするような濁った声を上げて、肉の中からぐちゃぐちゃな何かを放ってきた。向けられたマルツォは必死に避けようとするも、間に合わずに転倒する。その彼に、大質量の肉の追撃が迫る。
(もう、放つしか――)
まだ威力はたまっていないが、一か八か撃つしかない! そして放とうとすると――
「うおおおおおお!!」
後ろから、絶叫に近い雄叫びが聞こえた。確認するまでもなく、私の視界の中に警察官が姿を現す。その手にあるのは無論異能兵器ではなく、ただの拳銃だ。
(だ、誰だ!? 一般人か!?)
私が制止しようとするよりも早く、彼は弾丸を怪物に向けて放ち始める。それが効かないと分かると、その拳銃を怪物に向かって投げつけた。怪物は先程と同じようにそれを飲み込み、一瞬だけ硬直する。
その隙を見逃さず、彼はマルツォの襟首を掴むと迫る肉の腕をスライディングで躱して駆け抜けた。
ミグナスが声を張り上げる。
「総司令、今のうちに!」
「……誰かは分からんが、感謝する!」
今の時間稼ぎで、必要最低限をためることができた。砲塔の先を怪物に向ける。
「さらばだ、ソリテール……!」
――辺りに眩い閃光が走る。瞬間、耳を塞ぎたくなるような轟音が発生した。木々が折れ、土が抉られる音がする。数秒と経たずして闇がその場を支配し始める。
全員の目が慣れるころには、怪物の姿は跡形もなく――抉り取られた山肌と、血塗られた情報局章が転がっていた。
私は疲労感により崩れ落ちる。大技を打った反動からか、身体が所々痙攣している。立てるようになるまで、かなりの時間がかかりそうだ……
部下達が駆け寄ってくる。
「総司令、怪我は?」
「問題ない、疲れただけだ。それで、マルツォは大丈夫なのか」
その声に、警察官の肩を借りながら、ヨタヨタとマルツォが歩いてくる。
「……足を捻りましたが、大きな傷はありません。この方のおかげです」
全員の視線が、警察官に向けられる。私は皆の気持ちを代表して彼に問いかけた。
「……それで、君は誰だ? なぜここに……?」
「……ダグヴォ街駐在の警察官、アルフォン・ヤラーです。付近をパトロール中にここを通りかかり、バイクを奪ってきた青年に加勢するように頼まれました」
「……事情は何となく分かった。取り合えず、君のおかげでマルツォは助かった。礼を言う」
部下一同も頭を下げる。
「い、いえ。国民を危険から守るのが我々の役目ですから」
そう告げる彼は、まんざらでもなさそうだった。
頭を上げた私は、ハリコフに思いを馳せる。
(頼むぞ、ハリコフ……!)
旧友と飲みに行った。医師からは自粛するように言われていたが……酒に勝る娯楽などないな。




