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独り立つ 〜残された未来へと贈る英雄譚〜  作者: ルヴィカ・フォン・ワーグナー 訳:春の嵐
異想の会談編
29/48

22話. 窮鼠

前回

ハリコフの本当の作戦が始動する。ハリコフとルヴィカが『異想の会談』と呼ばれる交渉を成功させ、遂に決戦段階へと事を進めたのであった。

会談より、約一週間後。連邦軍臨時司令部にて。


「報告! 反乱軍に動きが!」


その伝令を受け、天幕内を緊張が駆け抜ける。ゾリオが机に寄りかかり、目を細めて尋ねた。


「規模は?」

「……反乱軍約十万、加えてアイジニア軍約十万です……!」


将校の間にざわめきが広がる。アキラが信じられないと言いたげに叫んだ。


「バカな、早すぎる! そんなに早く増強できるわけがない! しっかりと確認したのか!?」

「確かです! あちら側の密告者と確認も取りました、真実で間違いありません!」


そのやりとりを聞き、マークが苦しげに呟く。


「……不味いな、今うちらが保有している軍勢はせいぜい5万程度だ。勝ち目がない」

「敵軍の動向には十分に目を光らせているつもりだったが、見通しが甘かったか……悔やんでも仕方がない。サイモン! 今すぐ全兵に伝達、防衛体制に入れ!」

「了解しました、直ちに!」

「他の者も即座に各地の持ち場に戻れ! カーディア共に絶対に我らの祖国を踏ませてはならんぞ!」


はっ! という応答とともに将校らが慌ただしく天幕を出ていく。マークとアキラもそれに続いていく。

ゾリオが一人残った時、突如天幕内に電話のコール音が鳴り響いた。


「誰だ、こんな重要な時に……」


乱暴に電話を掴み、耳元に当てる。


「サルーディア丘陵地域、臨時司令官のゾリオです」

(――ゾリオか、ちょうどいい。私は元帥のアリオスだ)

「……元帥でしたか、今回は何のご要件で?」

(――そちらに反乱軍どもが向かっていると聞いてな、援軍を送った。間もなく到着する)

「……何ですって? そんな事が――」


あり得るのですか、と続けようとし、遠くで歓声が沸き上がるのが聞こえる。天幕の外を見ていると、確かに大軍の味方が到着していた。


(五万人の援軍だと……? 手回しが余りにも良すぎる……事前に知っていないとあり得ない早さだ……!)


「……何故、敵軍の動向が分かったのですか、元帥」

(――反乱軍の中心に協力者がいてな。お前のとこよりも更に重要な役職にいる人物が。今回の戦いで、恐らく全てが終わるだろう……勿論我等の勝利でな)


無線の先から掠れた笑い声が聞こえてくる。目を細めながらゾリオは応えた。


「成る程……分かりました、準備を整えます」

(――あぁ、それと山脈沿いにマークとアキラを配置しておけ。どうやらリエ隊がそこから突撃をして始めるらしいからな。では頼むぞ。全てはファミナスの、繁栄のために……)


そう言い残して電話は切られた。受話器を置き、ゾリオは独り考える。


(おそらく協力者の話は本当……このまま進めば我らの勝利は確実だろう。だが――)


得体の知れない不安が、ゾリオに付きまとって離れない。同様に、脳裏からあの神童の顔が焼き付いて離れなかった。


(奴が、それを許すか……?)


ゾリオは、自分でも驚くくらいにハリコフのことを評価していた。深謀遠慮、しかしその慎重な性格に合わぬ熱き意志も兼ね備えるあの青年が、ただで終わるとは思えなかったのだ。


だが、指示に従うに越したことはない。もし狙われたとしてもあの二人なら逃げ切れるだろう。


「ハリコフ……お前はどう出る?」


迫りくる連盟軍に向けて、ゾリオは静かに呟いた……



◇◆◇



両雄が、決戦の地に並び立った。連盟側二十万、連邦側十万が相対するその空気は、兵士の喉をひりつかせる。

その中で、ある人物が連邦側に連絡を入れていた。


「ゾリオ殿、準備は整いましたでしょうか?」

(――あぁ、伏兵も置いた。後はそちらの蜂起だけだ……サイゼム殿)


受話器を握る人物――サイゼム・メソッドは、静かに頷いた。


「了解しました。お任せを」

(――しかし驚いたぞ。この計画について、君は全く報告をしてくれなかったではないか。伝えてくれればこちらとしても動きやすかったのだが)

「申し訳ありません。情報局から、当日までは明かすな、との通達がありまして」

(――そうか、それは仕方がないな。まぁ何にせよ、これで我らの勝利は確実だ。よろしく頼むぞ)

「はい。では行動を開始します」

(――あぁ、では切るぞ)


通話が切れた後、サイゼムは受話器を置いた。"その時"が着々と迫っていることを自覚し、喉が渇くのを感じた。


(遂に、か……)


天幕の外に出る。そして部下に指示を下そうとしたその時。


「御機嫌よう、サイゼム中将」

「っ!?」


突然の声に、心臓が縮むのを感じた。その声の下に目を向ける。そこには、ハリコフ対策本部副長が立っていた。警戒を緩めずに、サイゼムはハリコフに声をかける。


「は、ハリコフ殿だったか。少し驚いたぞ。して、こんな所まで来て、いったい何の用だ?」

「えぇ、少し確認を取りたかったのですよ」


ハリコフの奇怪な言動に、冷や汗が垂れ落ちる。


(確認だと……? まさかバレたのか……!?)


余りにも、静かだった。天幕の揺れる音が聞こえるほどに。サイゼムがそれほどの深い焦りに陥っていることも気にせずに、ハリコフは話し続ける。


「最近は、少し暑くなってきましたよね。外に無防備に食べ物を置いていては、腐ってしまう」

「ま、まぁそうだな。だが、それに何の関係が――」

「しかし不思議なことに、愚鈍なネズミはそんな腐った(情報)にも食いつく様なのですよ。それが自らを破滅に追いやることも知らぬまま……」


ハリコフは、しっかりとこちらを見据えて、告げた。


「貴方でしょう? 密告者は」


その言葉を聞いた瞬間、サイゼムは末端から力が抜けるような感じがした。自然と呼吸が速くなる。何とかして弁明を試みた。


「ま、まさか。冗談を言わないで欲しいものだ。俺が連邦とつながっているなんて――」

「おや? おかしいですね、私は一度も()()()()()()とは言っていませんが」


もう弁明は不可能であることをサイゼムは理解する。即座に目の前の男を殺して、事を進めるしかない。


即座に銃を抜こうとして――利き手が鉛玉によって撃ち抜かれ、弾き飛ばされた。その痛みに彼は悶絶する。何が起こったのか分からない、少なくともハリコフは銃を抜いていない筈……!


混乱していると、天幕の影から、一人の青年が出てきた。


「まさか本当に密告者だったとはな……ハリコフの話を信じて正解だった」


それはシャルルだった。狙撃銃から煙を吹かせ、虫けらを見るようにサイゼムを見下ろしていた。ハリコフがシャルルに近づいて話しかける。


「協力感謝します、シャルルさん」

「……ふん、別に協力してやったわけではない。裏切り者の存在が許せないだけだ……部下の方も先程制圧した。後はこいつだけだ」


それを聞いたサイゼムは苦虫を噛み潰したような感覚に陥る。もっと早く気づいていれば……


(いや、せめて。付いてきてくれた部下達のためにも……!)


二人にばれないように、痛みで震える血に濡れた手で必死に銃を抜き出す。そして――


「うおぉぉぉ!」


全身全霊を込めて引き金を引いた。その弾は、シャルルへと正確に飛んでいく。その弾が、シャルルの頭を貫いた――


筈だった。ハリコフが決死の表情で彼を突き飛ばしたことで、間一髪頬をかすめただけに留まったのだ。共に倒れる二人を見て、サイゼムは混乱した。


(なんだ、今のは……?)


世界が、ズレたような感覚がしたのだ。例えるなら、数フレームだけ飛ばされた動画を見ているような――


即座にもう一方の手も撃ち抜かれる。再びその痛みに蹲る。両手を壊され、心も折られたネズミに、もうできることは残されていなかった。



◇◆◇



――完全に無力化されたサイゼムを見て、シャルルが俺に感謝の念を伝えてくる。


「済まない、ハリコフ。お前がいなかったら、俺は死んでいたな……」

「……良かった、本当に。しかし……今の感覚は、一体……」


一瞬だけ、世界が止まったように感じたのだ。そのおかげで間に合った。俺は、ふと右腕に視線を向けた。その手首には、時計の長針と、短針のようなものが刻まれていた……


混乱するが、今は置いておこう。先ずはこの計画を完成させることが先決だ。俺はリエの隊がいる方角に目線を向ける。


(頼むぞ、リエ……)

最後の総仕上げが、始まろうとしていた……

この時から身体に異変が起き始めた、と確かハリコフは語っていた。その能力は……ここで語るのはやめておこうか。

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