21話:協力者
連盟軍中佐:カイゼル・アリューナー:男:31歳
大佐:ミッシェル・ヴァージナム:男:34歳
大佐:モーク・ボリバン:男:33歳
あらすじ
メナスの戦後処理を終えた後、ハリコフは本来の目的である密告者の存在の“特定”に取り掛かった。次々と容疑者を絞っていく。その過程で残った者の名は、サイゼム・メソッド中将と、ハリコフの部下であるジェームズ・ディメンソンだった。
この2人は、どれほど調査を進めても嫌疑が晴れる証拠が見つからなかった。どちらも凄惨な過去があるわけでもなければ、創設メンバーであるわけでもない。
強いてこの二人を比べるならば……
「戦いの激しさ……だな」
読み取れるか怪しいほど杜撰に文字の羅列が綴られているメモ用紙を見て、俺は呟いた。
サイゼム中将が率いる第二師団は、死守命令により損耗が激しいのに対し、ジェームズは機械化部隊と相対しておきながら損害が少なすぎるのだ。
「……」
できることなら気の知れた部下を疑いたくはない。本音を言うのなら、連盟内に裏切り者がいるなんて考えたくなかった……。
背もたれに体重を預ける。蛍光灯の点滅音を耳に、俺は独り溜息をついていた。
翌日。昼ごろには完全に書類仕事を終わらせることができ、気分転換にとメシア郊外を散策していた。勿論、昨日の推理の続きも兼ねて。
とりあえず、だ。このことを誰かに共有しておく必要がある。
(一体誰に?)
肝心な部分だ。だが結論はいくら頭を捻っても出てこない。
(ミハイル元帥か……? それともリエ? いや、あいつは休ませてやりたいな……)
できることなら軍人には伝えたくなかった。どこかで勘付かれる可能性がある。
どうしようかと悩んでいるとーー
向こうから、一台の車がやって来る。その雰囲気は尋常ではなかった。黒き車体に多数の装甲が張り巡らされている。
(幹部の方々が乗る専用車両……!?)
即座に車に敬礼をする。するとその車が甲高いブレーキ音を響かせ、止まる。なぜだか分からず混乱していると、ゆっくりと後部座席の窓が開く。
「このような場所で何をされているのですか?」
「! サレンダ政務官でしたか。少しばかり頭を休憩させたくて、散策を」
それを聞いた彼は、なるほどと呟く。そして口を開く。
「それはいいですね。私も久しぶりに歩いてみましょうか」
……ん? 今、「歩く」って言ったよな。聞き間違いか?
その疑問に答えるように、サレンダ政務官は座席から飛び降りる。彼に何かを言われた運転手は、その車を何処かへ走らせていった。その一連の流れをただ見つめることしかできなかった。
「さぁ、少し歩きましょう。積もる話もありますしね」
そう言って彼は歩き出す。俺は聞こえないように溜息をつき、仕方なく付いていくことにした。
政務官が話しかけてくる。
「お聞きしましたよ、メナスの決戦でのご活躍。おめでとう御座います」
「いえ、祝われる程のことでは。自らの采配で将校たちが死にかけましたし、精進あるのみです」
「……素晴らしい。とても19歳とは思えないです。貴方を対策本部の副長に推薦した甲斐がありました」
「! あなたが俺を!?」
俺は驚愕した。目の前の上官が、まさかこれほど自分に関わっていたとは。彼は続ける。
「えぇ。専守防衛案、なかなかのものでした。加えて高官たちの前で自らの意見を堂々と主張できるその胆力。“神童”の名に恥じぬ、立派な姿でした」
「あ、ありがとうございます……」
ここまで褒められると少し恥ずかしくなってくる。顔を少しだけ赤らめる俺に構うことなく、政務官は言葉を紡ぐ。
「私だけではなく、元帥もリーダーもあなたのことを認めていましたよ。唯一スケーロ殿だけは反対しておりましたが……」
「スケーロ……、あの、眼光の鋭い茶髪の方ですか?」
それを聞いた政務官は少し笑った。とても優しい声だった。
「そうですね。彼はよく自らの眼光をとても気にしておられましたよ」
「そうなのですか。少し悪いことをしてしまいましたね」
「気にしないで結構ですよ。耳に入らなければよいのです、ここには私とあなたしかいない」
その言葉を聞いた俺は、カチリとピースがはまった気がした。この人なら。
足を止め、彼に向き直る。
「どうしましたか? ハリコフ殿」
「サレンダ政務官、少しお願いがあるのです」
一拍置き、告げた。
「密告者の発見に、協力していただきたい」
6月11日 使っていた端末が壊れてしまった。ふとした拍子に落としてしまうとは、老いとは恐ろしい。




