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【独り立つ】  作者: 春の嵐
裏切者
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20話:漂う匂い

あらすじ

メナスの決戦後、ハリコフは後処理のために部下とともに基地メシアにて勤務することを決める。数日経ち、書類仕事はあと一歩という所まで来ていた。

「……ふぅ、今日の書類も片付けられたな」

夜になる前に対策本部に送付する用の書類をまとめ終わった俺は、基地メシアの自室で伸びをする。それに呼応するように、共に働いてくれているジェームズとラッタが話を繋げる。


「ですね、最初は量の多さに頭を抱えましたが、3人もいれば意外と早く終わるものなのですね」

「……まぁ、途中から4()()になったのですが……」

ラッタの呆れ声に俺とジェームズは苦笑いするしかなかった。実は、数日前からリエが書類仕事を手伝ってくれるようになったのだ。俺の脳内にリエの発言がフラッシュバックする。


[ずっと横になってるから暇なんだよね〜〜。だから復帰できるようになるまで、頭の運動をしたくてさ]

そう言って彼女は頭を指でトントンと叩いていた。

(問題はそこではないのだけどな……)

と、俺は心底思う。なぜ全治2カ月を1週間そこらで半分近く回復させているのだろうか……。助けられているから目をつぶっているが、戦慄物である。


(にしても、珍しいな。あいつ、書類仕事嫌いじゃなかったのか?)

そんなことを一瞬だけ考えたものの、すぐに煙のように消え失せた。少しの気分転換だってしたくなるものだろう。そういうことにした。


2人を帰らせ、ファイルを本部に添付して業務を終える。ゆっくりと歩き、自らのティーカップに紅茶を入れ、一口すする。ほのかなイチゴの香りが心地よい。

一息をつくと、机右の引き出しをおもむろに開ける。中には文章体と関係図が書きなぐられた書類がある。


「さて……始めようか」

まだ誰にも伝えていないここに勤めている本来の目的。それは――密告者の推定だった。

(今回、敵大将のゾリオ軍が救援に来るのがあまりにも早すぎた。明らかにおかしいんだ……)

前回のサシルの戦いでは、作戦によって大勝したことから、「幹部陣」に密告者はいないと断定してしまった。さらにあの後一般兵から複数嫌疑のある者が現れ、情報局の元対スパイ網を構築したため問題ないと思っていたが……今回の戦いで確信した。連盟内に"裏切り者"がいると。


独自に兵たちに取材した情報が入っている紙束を手に取り、俺は憎悪の炎を燃え立たせる。握りしめる力で、紙がぐしゃりとつぶされる。

(祖国に仇なす恩知らずが……必ず報いを受けさせてやる)

紙束を机にたたきつけ、俺は冷徹な執行人と成った。


まずは容疑者を絞り込む。まとめた欄には、あの会議に参加した者達と戦闘に参加したもの――リエも含む――が記載されていた。

(まず俺とラッタ、トーマス司令は外していい。勝因につながったあの二人を密告者とするには、被害と効果が釣り合わない)

名前に上から×をつける。すぐにほかの条件を探し始めた。


(次にサマル少将とシャルル、リエも外していい。兵たちの話を聞く限り、この三人は敵と命がけで渡り合っていた。味方とするには無理がある)

同じく十字で塗りつぶす。自らの光を疑わずに済みそうで安心した。思考を切り替え、推理を続ける。


(となると、自動的に会議に参加していた者たちになるな。リーン中将は……まだ外すことはできない)

仮に密告者が上の者の場合、八百長で騙すこともありうる。だからこそ、将兵の"違和感"が鍵となる。数日かけて聞き回りまとめたメモを見る。そこに書かれているリーン中将の動き、兵の実感を鑑みて、俺は再びバツをつけた。


次に、大佐以下の将校に目星をつけてみよう。あの場に集まっていたのはカイゼル中佐、ミッシェル大佐、モーク大佐の3人。

(カイゼルとモークについては会議の後すぐ持ち場に向かうのを将兵らが目撃している。連絡する暇があるわけがない)

残りのミッシェル大佐は、一度不自然に雑木林に入っているらしい。その点では怪しいと感じる、が――


「情報局の調査書は、と」

無造作に重ねられた紙束から、容疑者の“過去”が事細かに記されている書類を探し出す。紙特有のめくる音が響く。

(ダイバート・ミッシェル、35歳。過去に両親がファミナスの憲兵によって殺害されている、か……)


勿論これで嫌疑が晴れるわけではない。そのため俺は彼に会いに行ったのだ。そこで彼と話しているうちに確信した。

俺と同じ、敵への憎悪に染まりきった“自分”を心の内に秘めている。俺は知っている、そのような人間が意志を変えることは絶対にないと。

可能性は十分に低かった。三人の名簿に、まとめて炭素の塊を塗りたくる。


そしてソート司令に焦点を当てた際、トーマス司令とのやり取りを鮮明に思い出す――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昨日のことだった。


「密告者の特定をしているのか?」

「……なぜお分かりに?」

トーマス司令の発言に、俺は驚きを隠せなかった。トーマス司令は話を続ける。


「その目は私情を織り交ぜた探偵の目だ、おおかた今回の作戦に違和感を持ったのであろう?」

「おっしゃる通りです。何か知っていることはありませんか?」

その問いに、顎髭を触ってトーマス司令は考え込む。数秒後に、とある回答をしてきた。


「おそらくソート司令は違うな」

「なぜでしょうか?」

「あの方は連盟創設メンバーだ。加えて元帥に大きな恩があると聞いた。そのような裏切り行為をする方ではない」

その断定するような力強い説明にただ頷くことしかできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後ソート司令との馴れ初めやら何やらを小一時間は聞かされた気がする。メモ用紙一枚を使い切ったほどだ。

……情報局からの調査票には載っていなかった。そこは腑に落ちなかったが、トーマス司令は信用に値する。

(つまりは、この二人のどちらかになる、というわけだ)

関係図を見下ろし、2人、丸で囲まれた姓名を確認する。


そこには、サイゼム中将と、見知った部下――ジェームズ・ディメンソン――の名が記されていた。

6月10日 創設メンバー……、志を共にした、家族とも言うべき仲間たちだ。

私は彼らに胸を張れる人物だっただろうか……。

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