幕間:星空 【マーク】
マークにまつわる話だ。
補足:ギブソンリーク…この世界で言うウェイトリフテ
ィング的なもの
俺の生まれは何の変哲もない木こりの家だ。両親と俺と、一人の妹。仕事は、木を切って、加工して、売る。その繰り返し。おやじはよく言っていた。
父ちゃんはこの仕事に誇りを持っている、って。
最初は俺もそう思っていたよ。汗水垂らして木を切って、人のために役立てる親父の姿はかっこよかった。俺も、もし世界が違えば、家業を継いでいたんだろうな。
転機が訪れたのは俺が6歳の時だった。
父が働く国境付近で戦争が始まった。おかげで林は全焼。おやじは職を失っちまった。
その時から、おやじは酒に手を染めるようになった。自分の中心がいきなり壊されたから、寄りかかるものがなくなっちまったんだ。当然のことだった。
そして8歳のとき、親父は犯罪で捕まっちまった。誇りを持つその手で、盗みを働いちまったんだ。顔をくしゃくしゃにして連行されていく親父を見て、俺は悔しかった。
自分にできたことはなかったのか?
もっと支えてやれたんじゃないか……?
悩んで悩んで、過去は変えられないことに絶望して。そして脳裏に痩せた母と泣く妹の姿が映ったとき、俺は静かに、焼けた林に向かって誓った。
俺が、親父の代わりになって、親父とあの頃の幸せを取り戻す、って。
そのためにはまず、日々を生きるお金が必要だった。9歳の頃に、戦争直後でボロボロだったカーディアのインフラ復旧事業に従事して、金を稼ぎ始めた。もともと体は頑丈だったから、大人よりかは劣るけど、ノルマを達成できるほどには働けた。だから死ぬ気で働いた。風邪を引いた日でも、母さんに看病してもらったあと、働けるだけ働いた。
ボロボロになった手で働いて、金を貰って、働いて、金を貰って……。その繰り返しだった。
そんな生活を続けていると、たまにぐらつく感じがするんだ。俺のことを支える何かが、崩れるような。この感覚はとても辛い。自分自身が否定されるような感覚がする。
そういう夜はいつも草っぱらに寝っ転がって、星を見上げた。不思議なもんだ、そうやって呆けていると、少しづつ心が落ち着いてくる。
どっかで聞いた話だ。星の数って、金の数よりも多いってな。
手を伸ばしてみる。けれど、まめに覆われた手は空を切る。少し笑った。馬鹿みたいな、でかい夢だ。でもいつか、成し遂げてみせる。
そう誓うと、決まって星々は煌々と輝いていた。
そういう生活が7年ぐらい続いた、16歳のとき。工事現場で休憩していると、同僚が何かを見つけて大騒ぎしているのを目撃する。気になって足を運んだ。
「どうしたんです?」
「お、マークか。見ろよこれ、報酬の額!」
そう言われて確認してみる。確かにとんでもない額だった。優勝すれば、約2年分の給料が手にはいるらしい。食い入って内容を確認すると、どうやら力自慢の大会であるらしい。
これだけあれば、家族に楽させてやれる。自然と笑みがこぼれ、やる気が湧いてくるのを感じた。
場所を確認して、現地へ赴く。しかし……
「だぁクソ、文字読めねぇ!」
記号の羅列にしか見えない案内板を前に、冷や汗が止まらなかった。最悪だ。肝心の現地までは行けたのに、開催場所がどこか分からない。ずっと働いて学校に行ってなかったせいで案内が読めねぇ!
(どうする……? 先輩に教えてもらった情報なら、あと10分で締め切られちまう……! 今までの積み重ねには、意味がなかったのか……?)
そんなはずはない! 絶対に見つけてみせると意気込むも、まったく分からずに悩んでいると……
「何しているんだ? アンタ」
軍服を着た見知らぬ男に声をかけられる。天の救いだと思った俺は、即座に事情を説明した。すると彼は開催場所に案内してくれるだけでなく、選手登録も手伝ってくれた。
「すまん、このご恩は一生忘れねぇ!」
「おぉ、頑張れよ〜〜!」
感謝の言葉を述べて控室へ。今思えば、これが人生の岐路だったのかもな。
待ちに待った本番で、俺はひたすらに、泥臭く勝ち続けた。腕相撲も、丸太上げも、ギブソンリークも全て。腕や足が折れそうでも、あの日々の"重み"に比べたら、なんてことはなかった。今までの親父の仕事の手伝いも、力仕事も、あの日の誓いも、全ての出来事が俺を背中から支えてくれていた。
そして表彰台で賞を受け取るとき。俺の目の前には、溢れんばかりの脚光と歓声があった。
全てが報われた気がした。視界が水でふやけていた。
控室で妹の作ってくれた応援飯を食べながら休んでいると、先ほど見た男が入ってくる。
「まさか優勝するとは。やるなぁアンタ」
「! アンタはさっきの! ……ありがとう、アンタのおかげで、俺、この賞を獲れたよ」
「そいつはよかった! それで、一つ提案があるんだが……」
彼の声が少し低くなる。その調子に自然と姿勢が正された。
彼はゾリオと名乗った。彼が連邦軍中将の一人であると聞いたにはさすがに腰が抜けた。
「それでなアンタ。俺が率いる部隊にに入らないか? アンタのその体格、そしてその煌めく目。磨けばとんでもない化け物になると俺は踏んでいるんだ」
「……いいんですか? 俺……自分はまだ学もない子供ですよ」
「いいんだ、アンタはもう十分証明した。それでも文句を言うやつは俺が黙らせてやる。……まぁ学は少し鍛えてもらうが」
そして彼は手を差し出した。
「アンタはこれで終わる人間じゃない。一緒に、世界を見てみないか?」
手を取らない選択肢なんて、なかった。
ゾリオ中将に連れられ、外に出る。
「外はもう夕暮れだな、泊まる場所が必要だ。探しに行くぞ!」
「は、はいっ!」
中将のあとに駆け出し、ふと空を見上げてみる。
群青の空に一番星が、強く輝いていた。
今度は、手が届きそうな気がした
マークと言う男……調べれば調べるほど、化け物だな。味方であればどれほど良かったか。




