16話:苦闘
あらすじ
遂に包囲を完成させることに成功する。しかし、最後の最後でドヌドらが意地を見せ、リエを負傷させることに成功してしまった。彼らのもとに、さらに苦難が襲いかかる……
「……よし、作戦は成功だ」
第三師団の一部を借り受け指揮を行っていたハリコフは、遠くから敗走する敵部隊と、合流する味方を見届け呟いた。
(後は包囲を強固にするだけだ)
相対していた部隊も崩壊させた。あとはこの部隊を包囲維持に流用するだけーー
「ん?」
ハリコフは、視界の端に砂煙を目撃する。目を凝らして見てみると、そこには別前線で突撃しているはずの敵機械化師団が存在していた。向かう先は、疲弊している両遊撃隊のようだ。
(早い、な。敵司令部が事前に命令を下していたか……まぁ、想定の内だがな)
作戦を練るときにこの事態は想定していた。指揮下の将兵に対戦車火器を持たせ、ハリコフらは坂を下っていく……
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「まさか本当に壊滅状態に陥ってるとはな……所詮民兵と侮っていたようだ……」
機械化部隊を引き連れ前線から戻ってきたカーリ戦車長は、戦場に横たわる味方だったはずの動かない鉄屑を見て戦慄していた。司令部から一時撤退の報を聞いたときは正気かと耳を疑ったが、今になって考えればとても恐ろしい事である。
だが悪いことばかりではないようだ。どうやら目の前の両遊撃隊ーーとくにリエ・シルヴァ隊ーーは、大きく疲弊しているらしい。この機会を逃すわけには行かない。
(仲間の弔い合戦、といかせてもらおうか)
仲間に全体通信を飛ばし、前進する。すると遠くに敵歩兵部隊が向かってくるのが見えた。その光景を見て、ふとここに配置されていたドヌドのことを思い出す。
(そういやドヌドのやつ、何をしているのだろうな……)
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遊撃隊のもとにはこちらのほうが早くたどり着いた。ハリコフがシャルル隊に協力を仰ごうと彼らの下に走ると、何やら異変が起きていることに気づく。その中心にはーー
「!? リエ!」
シャルルに支えられ、横たわるリエの姿があった。親友の傷つく姿に焦りすぐに駆け寄ると、リエが声を震わせ、話し始める。
「っ……、ごめん、少し、ドジを踏んじゃった……」
「っ、喋らなくていい、すぐ支援兵の下へーー」
突然、シャルルが顔を赤く膨張させて怒号を発する。
「ハリコフッ……、貴様ぁ! どの面下げてここへ来たのだ!?」
「……は?」
突然のことで、ハリコフは動揺を隠せなかった。シャルルはお構いなしに獣のような声で恫喝する。
「貴様の机上の空論のせいで、リエがーー彼女が重傷を負ったぞ! これが貴様の言う『想定の内』なのか!」
「なんだと……そんなわけ……!」
言い返すより先に、到底我慢ならんとシャルルは胸ぐらを掴んでくる。リエ隊の副隊長であるヤードラーが慌てて仲裁に入るろうとするも、シャルルは邪魔だと言わんばかりに片手で押し飛ばす。
「大体貴様はいつもそうだ、リエのことを軽んじて、彼女のことも、我らの命のこともどうでもいいと思っているのだろう!?」
その言葉が頭にきたハリコフは、身長差にもかかわらずシャルルの腕をつかみ返し、冷徹な目で怒声を放つ。
「そんなわけないだろう……! 戦友と、リエを守りたい一心で、俺がどれだけ悩んで考えて作戦を立案しているか知らないくせに……! お前の方こそ、リエのことを守れてないだろうが!」
「っ、きっさま……!」
熱が、上がっていく。その光景を周りはただ見守ることしかできない。相対して、空気が凍りついていく、その時。
「いい加減にしろ、お前ら!!」
頬に強い衝撃を感じ、言い争っていた2人は地面に転がる。頬を抑えながら顔を上げると、リエが満身創痍で立っていた。肩を揺らしながら、彼女は説教し始める。
「そんなくだらない言い争いをしている暇なんて無い事を分かっているのか!? もうすぐ近くまで敵が来ているんだろ、さっさと持ち場に……ゲホッ!」
リエが血を吐いて倒れる。咄嗟に駆け寄ろうとする2人を、彼女は血に濡れた手で制止する。
「さっさ……と、行きなよ……! でなきゃ……二人とも、絶交だから……っ!」
愛すべき戦友の、怒りと悲しみが混じる声を聞き、頭が急速に冷えていくシャルルとハリコフ。確かに言い争いをしている暇なんてなかった、一刻も早くーー
最中、ハリコフは先ほど見た機械化部隊とは逆の方向から、とてつもなく多くの、キャタピラ音のようなものが聞こえるのを確認した。
(そんな馬鹿な、計算では後1時間は現れないはず……!)
次いで認識したシャルルも眉間にシワを寄せる。そしてこちらに顔を向けて吐き捨てる。
「さっきの件、今は置いといてやる。すぐに連邦軍どもを撃退するぞ」
「言われなくとも、最初からそのつもりですよ!」
2人は持ち場に駆け出した。将校たちもそれぞれの配置の下へ駆け出していく。
この絶望的な局面を乗り切るために。
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「あれが最近噂の遊撃隊どもか。ずいぶんと派手にやってくれたようだな」
指揮官車の上で金髪を煌めかせながら、ゾリオ連邦軍大将は撃破対象を睨んでいた。奥にはチャーターが引き寄せたであろう機械化部隊も確認できる。あの男の連絡通りに、状況は進んだようだ。
彼は横に佇む、自らが目をかけている2人の将校に話しかける。
「マーク、アキラ、再戦の時間が来たぞ、準備はいいな?」
「あぁ、次は負けねぇぞ!」
「同感だ、ここで討ち取ってやる」
血気盛んな部下たちを見やり、ゾリオは笑う。そして前に目線を戻し、静かに攻撃開始の合図を送った。
今、ハリコフたちの下に最大の危機が訪れる。
6月6日 ゾリオ・N・アルフレッド……「稀代の軍師」。駐在武官として紛争地域に赴き、大きな戦果を叩き出す怪物。ヤツが本格的に独立闘争に参戦してきたのは、この戦いが初めてだったな……




