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【独り立つ】  作者: 春の嵐
二章.鳥籠
19/29

15話:錠

連邦軍機械化部隊戦車長:ドヌド・ゲルミュッド:

            男:38歳

           :リヒター・シュタイン:

            男:42歳

第二遊撃隊副隊長:シャイセン:男:29歳


あらすじ

第五師団の包囲を解いた両遊撃隊は、作戦通り包囲を狙うために突貫を開始した。前線で、この戦いの行く末を決める戦いが始まる。

リエは部下たちに事前に指示を飛ばす。

「私の異能があっても砲弾直撃は致命傷! 各自生存を最優先に、肉薄さえすれば勝てる!」

それだけ言い残して先頭に躍り出る。多数の照準がこちらに向かってくるのを確認すると、戦姫は不敵に微笑んだ。


荒れた大地の上で、リエは舞う。敵の主砲から放たれる鉄の塊を、左右に、上下に躱してみせる。時には跳んで、砲弾が背中越しに飛んで行くのを感じながら、リエは少しばかり高揚していた。

1つ躱せば、10人を。5つ躱せば、50人を助けることができる。自らの行動で戦友を救えるのが、どれほど心地良いことか。

気がつくと、目の前の獲物が後退を試みていた。


「逃さない」

車体の前方に飛び移り、間髪入れず隙間に指をねじ込むと同時に粒子を放出する。直後、車体が大爆発した。


「……まずは一体目」

焼け焦げた鉄の機体の上で、次の目標を探そうと、彼女の目は動き続ける……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ば、化け物め……!」

ドヌド戦車長は覗き窓からその光景を見て絶叫した。リエ・シルヴァ。紅き戦姫。噂に聞いていたが、これほどとは……


響き渡る叫換が耳に入り、彼は、リエだけでなく彼らの兵士たちも肉薄し始めたことを認識する。車体の下やハッチに手榴弾を入れられ、味方の機体が破壊されてゆく。

「やはりリエ隊の兵に機関銃は効いていないか……となると迎撃は厳しい。後退するぞ! 左右の歩兵部隊と交代を行う!」


迅速かつ、的確に。己の打てる最善策を講じ始める。

後手に回った時点で、それらに意味がないことを知らぬまま……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少し北、連邦軍歩兵連隊にて。


緊急伝令を受けた通信兵が、上官に連絡を伝えに前線に現れた。

「司令部から緊急伝令! 第六機械化師団が攻撃を受け後退中、至急応援にまわれと!」


それを聞いた前線指揮官は振り返って、怒号を発する。

「そんな悠長なことをできる余裕などない! こっちは防戦一方で、下手を打ったら全滅するのだぞ! ほかの部隊に頼んでくれ!」


指揮官の忸怩たる絶叫に、通信兵は震えて続ける。

「し、しかし……ほかの部隊にもそのように断られ、ここが最後なのです……」


その事実を聞き、彼は戦慄する。

(ばかな、この状況がすべての地点で起きているのか……? まさか、先ほどまではただの陽動!)


受け入れたくない事実に冷や汗を流していると傷だらけの部下がヨロヨロと入ってくる。

「じ、上官、お逃げを……。敵がすぐそこまで……!」


部下は地面に崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。顔を上げると、視界にこちらの命を刈り取らんとする連盟軍の姿が見えた……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぜ援軍は来ないのだ!」

ドヌドは絶叫した。既に部隊の半数が手榴弾や超能力によって破壊されている。それなのにリヒターの率いる機械化部隊以外の歩兵が、来る気配が全くないのだ。


リヒターから通信が入ってきた。

(ーーまずいぞドヌド、分断される!)

わけも分からず後ろを見やると、敵歩兵と戦う自軍を確認してしまった。


(もう、こんなところまで……!)

車内に焦燥が広がる、その時だった。


『ねぇ、あなたたちが隊長機でしょ?』

車体の上から、女の声が響いた。車内の雰囲気が緊迫する。その声の主は分かりきっている。味方を蹂躙し尽くした、あの戦姫だ……!


「あなたたちを潰せば、この機械化部隊は崩壊する。申し訳ないけど、死んでもらうよ」

声色に見合わない、冷酷な宣言。彼は死を覚悟する、すると……


「う、うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁあ!」


部下達がハッチを開けて、彼女に突撃を始めた。

「!?」

彼らがリエに飛びかかったようだ。彼女の予想を大きく外れたらしく、捕らえることに成功する。


「っ、こいつら!」

「隊長、今のうちにお逃げを!」

「俺たちが抑えているうちに、早く!」

彼らの必死の嘆願が聞こえる。彼らの行動を無駄にはできない。ドヌドは腰から手榴弾を取り出す。


「がっ!」

リエは、彼女を押さえつける敵兵を蹴飛ばし、喉をきり裂いて拘束を解く。そして顔を上げると、ハッチから上半身をだし、涙を流しながら手榴弾を車内に落とす戦車長がいた。彼に、部下を置いて逃げる気など、毛頭なかったのだ。


「ファミナスの意地を思い知れ……!」

その言葉を最後に、彼の体は弾けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ドヌド、お前……!」

同じく戦車長であるリヒターは、少し高い場所に居座る機体のハッチから、彼の戦友の勇姿を見届けていた。しかし、燃え盛る炎の中から現れた一人の兵士により、彼は恐怖することとなる。


「なぜ、生きている……!?」

至近距離でまともに爆発を食らったはずの、リエ・シルヴァだった。生身の人間があれを生き延びられるはずがない。どのような超能力ならば説明がつくのか。彼の思考が恐怖でフリーズしかける。

だが、彼の思考は再び動き始める。

彼女がふらついたのだ。リヒターは目を見開いた。


「あっはは……さすがに、痛いや……」

リエは痛みに耐えきれず吐血する。あの爆風を異能で防ぎきれず、彼女の体は所々が焼け焦げ、破片が深く突き刺さっていた。さしもの戦姫も、苦悶に顔を歪めている。


(そうだ、無事なわけがない。ドヌドのためにも、この機会を逃すものか……!)

リヒターは部下に指示し、照準を合わせさせる。後は発射命令を出すだけだ。

(死ね、化け物め!)

振り上げた腕を降ろそうとする、瞬間。

彼の人生は、突如爆発する自らの戦車によってその幕を下ろした。


撃破した対象が燃え盛る様を、己の異能である風を起こし、白マントをたなびかせながら、シャルルは眺めていた。

「お前らの機体は、側面が最も脆い……、風に乗せた狙撃でも貫通できるほどにな。……相変わらず、無粋な鉄くずだ」


彼はそう言い残すと、対象へ向けていた狙撃銃を下ろす。特に目もくれることなく周囲を見渡すと、彼は最愛の兵士の傷ついた姿を見つけてしまった。我を忘れて彼女の下へ駆け寄ってゆく……。


この後、指揮官を失った機械化部隊はどうすることもできず崩壊、もしくは敗走してゆく。

ここに、連盟による包囲が完成した。

6月5日 この戦いは、両者奮戦していたな。戦車には、かならず随伴歩兵がついていなければならない。もちろんある程度いたのだろうが、それを上回る攻撃力を両隊は有していたのだな。

はて、敵の歩兵連隊を潰していたのは誰だったか……?

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