13話:檻
連盟軍中将:サイゼム・メソッド:男:43歳
あらすじ
西部方面軍司令部にて、ハリコフはその作戦の概要を告げる。今まさに、連邦に対しての、カーディア国家解放連盟きっての反撃が始まろうとしていた……
連邦軍臨時司令部ーー
「報告! 敵師団に動きあり! 真っ直ぐこちらに向かってきております」
その報告を受け、チャーター大将以下連邦軍将校たちは急ぎ足で天幕の外に足を踏み入れる。その先では、確かにカーディア軍の奴らが守備隊と戦闘を行っていた。
「驚いたな。消耗の仕方から、反撃はないものと踏んでいたが……」
「おかげで手間が省けましたな。近くの部隊に増援を頼み、一気に殲滅してしまいましょう」
後ろに侍る将校の一人が、しわのある顔で笑みを浮かべる。その発言通り、これは絶好の機会。即座に指示を出そうと手を挙げーーその腕は再び項垂れる。
「チャーター殿? どうかされましたか」
周りの将校の心配も耳に入ることなく、彼の意中は底しれない違和感に支配されていた。
(おかしい、あまりにも我らに有利な展開だ。あのときと同じ、誘われているのではないか……?)
サシルの戦いにて、圧倒的に有利だった状況にも関わらず、連邦軍は大敗を喫している。その状況と、あまりにも酷似しているように感じるのだ。
ハン中将は、確か更迭される前にこう言い残していた。
『"カオス"後の奴らは、もはや反乱軍の規模ではない。常識をもってかかれば全滅するぞ』、と。
"常識"。彼の言葉を聞いてから、この2文字がずっと頭から離れなかった。
(自らの物差しでは測れない何かを、反乱軍どもは持っているのか……?)
それが何なのか、彼には理解できなかった。しかし、もし懸念していることが起きたならば……
思考が、廻り続ける。狂いだす歯車を止めるために彼なりの最適解を見つけようと、必死に、必死に…………
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将校たちは、彼の上司であるチャーター大将が腕を組み虚ろな目で黙り込む姿を見て、ひどく動揺していた。こうしている間にも、戦闘は続いている。焦燥から、若年将校の1人がしびれを切らして肩に手をかけようとした、その刹那。思考が止まる。
「……させろ」
「え?」
「カーリの機械化部隊を、前線から撤退させろ!」
愛する上司の妄言に、彼らは固まる。有能な将校たちは、口早に捲し立てた。
「しょ、正気ですか!? 前線を押し上げる機会なのですぞ!」
「ただの民兵の特攻です、わざわざ前線から戻さなくても、近くの機械化部隊で間に合います!」
「それにかなりの距離があります、戻したところで、特に意味は……」
多数の喧騒に動じることなく、チャーターは話し始める。
「……サシルの戦いを、忘れたか?」
「……っ! あ、あの時はリエ・シルヴァの奇襲とジェメニの狙撃隊に足元をすくわれただけです! 今回は地形も違えば、我が方には機械化部隊も控えているのですよ!」
部下の必死の反論に、チャーターは静かに首を横に振る。確かに両部隊の練度は凄まじく、彼ら無くしてカーディアどもの勝利は無かっただろう。だがーー
「……そこではないのだ。増強された彼らを、十割の力で運用できる頭脳がいる。サシルの戦いで、初めてその人物が軍を運用しだした、と考えたら?」
その場の全員が押し黙る。もしそれほどの天才がいるのなら、果たしてこの戦線を放置するのか?
「杞憂ならそれでいい、あとで私が責任を負う。最悪の事態だけは回避しなくては……!」
異論を唱えられるものはもういなかった。その後、チャーターの命令により、1人が慌てて通信兵に伝令を伝えに行った。
彼の決断は、決して間違ってはいなかった。
そして、完全に対処するには足りなかった。もし止めようとするのなら、全部隊を撤退させなければならなかったのに。
十数分後、戦姫の剣と騎士の銃が、連邦軍を穿ち始めた。
歯車は、回り続ける。
6月3日 チャーターというこの男、有能なのか無能なのか……。やっていることが中途半端すぎるな。だがこの判断がなければ被害はもっとひどいものになっていただろうな。そこは称賛すべきことかもしれん。




