9話. 紅白交わる。出づるは藍
あらすじ
味方が敵の猛攻で危機にさらされている中、ハリコフは、両遊撃隊を招集した。ここに、ハリコフの策が始動する。
サルーディア丘陵北部にて――
すでに集まっているリエ隊、シャルル隊のもとに俺は到着した。運転手に軽く礼を言い、ドアを強く叩き閉めすぐ天幕に向かった。
天幕に着き、勢いよく扉を開ける。
「お、きたきた」
「……!」
リエとシャルルが待機していた。各々持っている情報を交換し合っていたようだ。
「すみません、遅くなりました」
「全くだ、レディを持たせるなんて言語道断だぞ! 参謀部員である君はそれを理解しているのか!?」
「謝っているじゃないですか! それと、今は異能対策本部所属ですよ……」
ため息をつく。俺が苦手なのはこういうところだ。この熱血貴公子は何かあればすぐ小言を言ってくるのだ。しかも俺限定。理由は未だに分からないが……なぜだ?
危うく思考が脱線しかけるところで、リエが仲裁に入る。
「まぁいいじゃないですかシャルルさん、私別に気にしていませんし。それよりも、今はこの先の友軍ではありませんか?」
「それもそうだね!!」
おいおい、明らかに俺のときと態度が違うぞ、と脳内で突っ込む。ふとリエを見やると愛想笑いをしていた。あのリエに愛想笑いをさせるとは、さすがはシャルルといったところか……
「それで? 私たちをここに派遣してきたのだ、それ相応の目的があるのだろうな?」
振り返ったシャルルが尋問してくる。その目線にめげることなく、俺は不敵に笑う。
「はい、二人の隊にしか頼めない重要な役です。それは――」
◇◆◇
時は過ぎ、包囲下の第五師団で。
「倒しても倒しても、湧いてくる……」
迫る敵兵を斬り倒し、包囲下のサマル少将は呪詛を吐く。不意打ちで襲ってくる刺客を、地中から生み出した岩礁で跳ね飛ばす。
目の前には焼けた森と赤く染まった肉塊が散らばっている。どちらの軍のものかも判別つかない。かれこれ二日間はこんな戦いを続けている、限界だ。
末端の部隊に退却指示を飛ばそうとし――敵狙撃兵の集中攻撃で、戦友は爆音とともに燃え盛る炎の中へと消えていった。
「……クソッ!」
胸を埋め尽く悔しさに歯噛みしながら、全隊に何度目かも分からない後退命令を出そうとした瞬間。
戦場を、純白で統一されたマントを背負う部隊が駆け巡る。瞬く間に、敵に対し熾烈な攻撃が始められた。
防御力のある前衛は烈風や爆炎で吹き飛ばされ、狙撃兵の眉間には一発の銃弾が撃ち込まれる。反撃することもままならず、敵部隊は壊走を始めた。
「あれがシャルルの"白撃隊"、間近で見るのは初めてだな……」
サマルは呆然とその光景を見届ける。いや、今はこの機会を無駄にしてはいけない。即座に生き残った兵を集め、部隊を再編成する。その最中で。
前線に爆発が起き始める。目を凝らしてみると、赤い粒子が広がっていくのを確認できた。紅いバンダナを腕に着けた兵が敵を蹴散らす様も見える。
「お嬢の隊も……まさか、両遊撃隊が加勢に来たのか!?」
死を覚悟していた部下たちの目に希望が宿るのを感じる。事実、彼の心の内も高揚していた。この局面での加勢は、神の救いにも感じる。だが――
「なぜここに……」
一つの疑問が浮かび上がる。正直言ってここは死路だ。残れば帰れない地獄への道。そんなところにわざわざ貴重な遊撃隊を送るなんて……
思考を続けていると、敵軍を追い払ったのか両隊長が自分の前に現れる。シャルルが率先して挨拶をしてきた。
「サマル少将、お久しぶりです」
「あぁ。二人とも、救援感謝する。このままではこの部隊は全滅していたところだっただろう」
感謝の意を述べる。だが、それはそれとして、だ。
「しかし、なぜこちらの加勢に? 殲滅されかけて兵の少ない我らよりも、主戦線に加勢するのが得策と思っていたのだが……」
率直な疑問をぶつけると、合流したリエが説明をしだす。
「救援も主要目的の一つなのですけど、ここに来た最大の理由は反撃作戦のためなのです」
「反撃作戦? ここからか?」
「はい、ハリコフの案なのですけど。そしてあなたがたはその"鍵"となる役割を担ってもらいます」
その言葉を聞き、胸が高鳴る。
(やられてばかりで絶望しかけていたが、ようやく反撃が始まるのか。それも我らを起点に!)
武者震いするサマルを見て、シャルルは楽しそうに呟いた。
「さて、鷲狩りの開始といこうか」
最近は筆記用具も手頃に買えるようになった……復興が進んできたな。




