8話. 紅白交わる
あらすじ
北部、東部方面軍と合流したアレクたち。そこで、今後の作戦の概要を話し合っていく。
「――ここで降ろしてもらえると助かります」
車がブレーキ音を鳴らして急停車する。ジェームズとアレクはドアを素早く開け、地面へと着地した。蒼いコートがひらりと揺れ、弾痕のつく裾をちらつかせる。
車を降りた二人の視界に、リエとシャルルの姿が飛び込んできた。各々持っている情報を交換し合っていたようだ。
「すみません、遅くなりました」
「まったく、女性を待たせるなと学校で教わらなかったのか?」
「……」
言葉に詰まるアレクに、リエが助け舟を差し伸べる。
「まぁいいじゃないですかシャルルさん。私、別に気にしていませんし。それよりも、今はこの先――奪還すべき土地について話しましょう?」
「是非そうしよう!」
なぜ、自分にだけこうも反抗的なのだろうか、何か仕出かしただろうかと、アレクは内心で首をひねった。
迷走するアレクの思考とは対照的に、シャルルとリエは歩き出す。ジェームズとともに付いていくと、シャルルが目を細めながら親指で奥を指し示した。
「向こうの天幕にソート西部総司令ら現地将校がおられる、準備ができたなら行くぞ」
「既に終わらせましたよ。と言っても、少し内容は変わりましたが……」
シャルルが興味深そうに応じる。暫く歩き、天幕の前に到着した。シャルルが垂を掴み、引き上げてアレクたちを先へと通す。
中に入ると、そこには北、東部方面軍の将校たちが机を囲んで並んでいた。淡く光るランプが、彼らの顔を照らしている。
奥に佇む一人の老将が、重々しく口を開いた。
「久しいな、アレク君」
「お久しぶりです、ソート司令。皆さんも」
アレクが挨拶すると、多くの将校が手を振ったり軽く頷いたりして応答する。奥に立つサイゼム中将が腰に手を当てながら話し出す。
「聞いたぞアレク、対策本部副長に昇進だってな。おめでとう」
「ありがとうございます。精進します」
「リエを支えていた副隊長が、私たちを指揮するなんて、夢みたいな話ですね。本当に……」
リーン中将が感慨深そうに呟くのを、トーマスが視線で制止する。
「今は時間が惜しい、すぐに会議に入りましょう」
将校団が気を引き締める。付き添いの兵士が地図を広げるのを確認した後、全体会議を始めた。
「それで、敵軍の配置はどうなっていますか?」
「それについては、私が。ピューリ川以西の三都市にそれぞれ一万弱が駐屯。丘陵付近に機械化師団を含む三万の軍勢が待機しているのを確認した」
北部将校のバクフォ中将が、歩兵や戦車を形どったプラスチック質の駒を盤上に並べていく。それは、血をかぶったように紅く染められていた。
「それと、斥候が潜伏中の連隊を発見した。場所はリンドウ山脈最東部、おそらく迎撃用だな」
「連隊も含めて約六万強……我らは確か――」
「遊撃隊を含めても三万にも満たないな」
サイゼムが地図に目を落としながらため息をつく。眼下には半数以下の自軍の駒が敵を射殺さんと睨みつけていた。
「我らは敵を弱体化させれば良いだけ。半数だろうと問題ない」
「いや……我らだけで攻めきりましょう」
アレクの発言を聞き、天幕内に動揺の声が広がる。ソートが目を細めながら、シワのある口を動かした。
「可能か?」
「はい」
「いいだろう、ハリコフ君の意見を聞かせてもらう」
「ありがたく」と言って頷くと、アレクは自軍の駒を動かし始めた。白く塗られた自軍の駒は、北へ、北へと動かされてゆく。
「攻めきる、と言っても全ては無理です。なので、目標をピューリ川以西全域に設定しましょう」
「配置する部隊は」
「リーン中将、サイゼム中将、バクフォ中将の三軍です。それぞれ一都市を落として頂きたい」
作戦を伝えた後、ジェームズが書類を手渡していく。自らも手に取ったその書類には、情報局から送られてきた敵駐屯部隊の兵装が載っていた。
リーンが感嘆の声を漏らす。
「……ここまでされたなら、必ず奪還しなければですね」
「俺は自軍――五千だけあれば十分だ。雛っ子なんぞ相手にならん」
書類を睨みつけつつ、サイゼムは笑う。
「ただ、厄介なのは敵空軍です。敵戦闘機のkh-45は空対地において世界屈指。なので、東部側で引き受けます」
「いけるのか? 連邦の鷲は群れで来るぞ」
「……つまりは、狙撃特科兵団が相手取ればいいのだな? アレクよ」
ソートの問いに答えるように、トーマスが確認をとる。
「……話が早くて助かります、トーマス司令。対空訓練の数値から、私は可能だと踏んでいるのです」
「そこまで言われたら、受けないわけにはいかないな。本気でやらせてもらおうか」
開く片目に炎を宿して、トーマスは了承した。
「しかし……本当に一万と少しで問題ないのですか? いくら遊撃隊とは言え、三倍差……厳しい気はしますが」
バクフォが顎髭をさすりつつ提言する。アレクは不敵な笑みと、揺るぎない視線をもって返した。
「勝算がなければやりませんよ」
「……分かりました、信じましょう」
「よし、ならば決まりだ。各戦況は現地に委任する。北部は東部より遅れて出撃、いいな?」
ソートの低く力ある言葉に、配置された三人が頷く。
「アレク君、必ず耐えてくれよ? 君が要だ」
「お任せを、ソート司令。寧ろ、敵に損害を与えてやりましょう」
その言葉を聞き、ソートがしゃがれた声で笑う。そして――
「作戦名は、鷲裂作戦とする。肥大な鷲を撃ち殺せ」
その宣言とともに、歴史的会戦の幕は上げられた。
――Shuáriñ mejji lá viváck £ácihḡ-hemḡer, pȳ £-hárñds.
(――シャーレーンはその手を以て、愚鷲の翼を引き裂いた。 )
出典:『聖抵神話』 第二章 "神座と道化師"より




