トラブル
学園祭が終わってからも素直は名前も知らない彼女のことが忘れられず、やはり紫苑に通うひとつ下の妹、結城未央にそれとなく女子部に該当する生徒が居ないか尋ねてみたが、期待したような答えは得られなかった。
彼女はまるで忽然と姿を消したように何の手掛かりも掴めなかったのだ。
(あの顔……何処かで見た気がするんだけどなぁ……)
素直は何か引っかかるものがあったが、それも漠然としていて霧がかかったようにもやもやとするだけだった。
そんなある日のこと、未央が下校時に圭司とトラブルを起こしてしまう。
未央は女の子どうしのお喋りに夢中なあまり、携帯を弄りながら門柱にもたれて友人を待っていた圭司に気付かずぶつかってしまったのだ。
その弾みで彼の手から携帯が落ち、派手な音を立てて壊れてしまったようだ。
「あっ!すみません!!」
未央は慌てて頭を下げた。
圭司は黙って携帯を拾い上げると、眉を顰めた。
携帯には保護フィルムが貼られていたにもかかわらずヒビが入っていて、電源ボタンを何度か弄ってみたが、ウンともスンともいわなかった。
「おい、画面が真っ暗だぞ……どうしてくれるんだ?」
「すいません、あの……弁償します……」
「これ最新機種だから15万するんだけど、自分で弁償出来んの?」
圭司が携帯から未央へ視線を移してしかめっ面をしたままじっと睨んでいる。
「じゅ……う……ごまん……」
未央にとって、いや、普通の高校生にとって15万は大金だ。
「お前、名前は?」
圭司は未央の顔を見て何かに気付いたのか唐突に尋ねた。
「結城未央です……」
未央がおずおずと答えた。
「結城……お前、兄ちゃんいる?」
「はい、います」
「結城素直?」
「はい」
(やっぱり……)
圭司は改めて未央の顔を見た時、素直に似ていると思ったのだ。
それで聞いてみたのだが、やはり圭司の感は当たっていたようだ。
「で?一括で払ってくれるんだよな?」
「え……それは……」
未央は直ぐには返答が出来ずおどおどしている。
「じゃ、こうしよう……一括で払えないなら……俺の相手をしろ」
「それはどういう意味ですか?」
「一回三万として、五回……俺と寝ろ、そしたら許してやる」
圭司は未央が素直の妹と分かると、意地悪な悪戯心が湧いてきて無理難題をふっかけていた。
「そんな酷い……」
「そんな理不尽なこと聞ける訳ないわよ!!」
「そうよ、そうよ」
心配そうに側で聞いていた未央の友人達が騒ぎ立てる。
「お前等は黙ってろ、俺はコイツと話してるんだ!!」
圭司の迫力に圧され皆体を寄せ合い縮こまって黙り込んだ。
「二日待ってやる、その間にどっちか決めろ。一括で払うか、五回寝るか……兄ちゃんにでも相談しろ」
「二日……」
未央の顔は今にも泣きだしそうだ。
「いいな、二日だぞ……俺は二年の尾形圭司だ、今日はもういいから帰れ」
圭司は携帯をポケットに突っ込むと、未央達に背を向けて歩き始めた。
彼は未央を抱く気など毛頭無かったが、難題を突きつけける事で少しでも素直と関わりを持てるのではないかと目論んだのだ。
「お〜い待てよ圭司!」。
圭司が待っていた友人だろうか? 突然出て来た男子生徒が慌てて彼を追いかけて行った。
「どうしよう……」
残された未央は去って行く圭司の後ろ姿を見詰めながら、呆然と立ち尽くしていた。




