第27話 暇
国王との謁見から数日が経った。着任の儀を執り行うには準備に2週間ほどかかると言われ、その間はローラの屋敷で生活をすることになった。
まだ正式に近衛の位を持っていないので特に仕事もなくて暇を持て余していたとき、隊長のリサが転移魔法を使えることを思い出してある事を頼んでおいた。今日はその成果が実る日なので昨日から楽しみでしょうがなかった。
俺はまだ太陽が出て間もない内に目を覚まして身支度を整えると、軽い足取りで目的地を目指す。
目的の場所は屋敷の庭に作られた小さな花壇だ。そこには5種類ほどのみずみずしい野菜や果物が鈴生りになっていた。
ここはあまりにも暇だったためローラから許可をもらって借り受けた畑だ。リサに頼んで実家の畑の土と野菜の種や苗を少し持ってきてもらったのだ。
「流石にまだ土が慣らされてないから今までよりは出来が劣るか」
作物の出来自体は到底満足のいくものではなかったが、収穫できる喜びの方が上回っているのでそんなに気にならない。
「おはようございます、ユロン様。今日は随分とお早いですね」
「おはよう、ルー。まあ最近までただの農民だったからね。その時の習慣が残っているのさ」
身支度は済ませているもののまだ少し頭が働いていなさそうなルーが後ろから声をかけてきた。どうやらルーはローラから俺の専属メイドに変わったらしい。この屋敷にいる間はずっとルーの世話になっている。先日の国王との謁見用の服もルーが買ってきてくれていたのだが、結局使わずじまいだった。悪いことをしたな。
「そうだ。ルー、今採れたばかりの野菜食べてみるかい?」
「良いのですか?何やら大事そうに育てていらっしゃいましたのに」
「良いも何も食べてもらうために育てたんだから。それにルーにはいつも世話になってるしね」
「それが私の仕事ですからお礼なんて必要ありません」
「まあいいから。じゃあ早速どうぞ」
そういって俺は手近にあった野菜を1つ取ってルーに渡した。
「これは見たことがありませんね。何という野菜なのですか?」
ルーは渡された野菜を警戒の目で穴が開くほど見ている。
「それはトマトという野菜だ。確かに見た目にインパクトはあるけど毒なんて入ってないからそんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
「!!・・・失礼しました。ユロン様が作った野菜を警戒するなど…」
ルーは自分の行動が俺に対して無礼であることに気付いて慌てて頭を下げた。まあこの辺りでトマトを育ててる人は俺以外いないし、それも村の中でほとんど消費してしまうから見たことないのはしょうがいことだ。
「気にしないでいいよ。誰だって初めて見る者には警戒心が湧くものだ。それが食べ物なら尚更だ」
「ありがとうございます。それではいただきます」
ルーはトマトを一口食いつくと驚いて目を見開いた。
「美味しい。凄く美味しいです!野菜なのに甘いなんて初めてです!」
「そうか!それは良かった。どうせならローラや近衛隊の皆にも食べてもらおう」
「それは良い考えです。皆様お喜びになると思います。早速料理長に食べてもらってこの野菜を使った料理を考案してもらいましょう」
ルーは美味いものを食べたおかげかテンションが異様に高くなった。
「そのことなんだけど料理に俺が作るから今から調理場を借りられないかな?」
「?・・・ユロン様の頼みでしたら使用はできますが、何のためにですか?」
ルーは可愛く首を傾げた。
「今日の朝食を俺が作ろうと思ってね。それに流石の料理長でも初めての食材でいきなり料理を作るのは大変だろう?」
「ユロン様は料理も出来るのですか?」
「まあね。親父が死んでからはずっと1人暮らしだったからね。ある程度のことは何でもできるよ」
「すみません。無神経な質問でした」
ルーはさっきとは打って変わってシュンとしてしまった。ローラといいリサといいルーといいこの幼馴染たちは表情がコロコロ変わる。見てて面白いが、疲れないのだろうか。
「親父のことだったら気にしなくていい。昔のとこだから。それより朝食を作るのをルーにも手伝ってほしいんだけどいいか?」
ルーは俯いていた顔を上げて笑顔になった。
「勿論です。何でもお申し付けください」
そのあと俺たちは収穫した作物を持って調理場に向かった。
料理長に事情を話すと快諾してくれたので、野菜の特徴などを説明しながら作った料理長は時折質問しながら俺の調理を真剣に見ていた。
因みに今回の料理で俺の野菜を気に入ったローラは庭の一部を畑にして、毎日美味しい野菜を納めるという条件で俺に与えてくれた。
さらに因みにこの話をローラから聞いた国王が俺の野菜を食べ感動して国営の大規模な畑を作ってしまった。結果クエリオス王国に新たな特産が出来て、種や苗を提供し農作のアドバイスもした俺にはその報奨金としてかなりの額が支払われた。




