第26話 魔力師とは
「生き物には魔物を含めて全てが、体内に魔力を生成する器官があります。しかし、魔力師の始祖となった者たちにはそれが存在しません。所謂、奇形児と言われる者だったのです」
「…続けよ」
掴みはバッチリみたいだな。国王が許可したんだから他の奴は口出しできないしな。
「当然ながら、生命活動に欠かすことのできない魔力を作れない赤子は、生まれてすぐに死んでしまいます。このような事案が報告されるようになってから500年が経った頃、魔力生成の器官を持たないにもかかわらず死なない子供が生まれました。この子供は体内で作れない魔力を、空気中に存在するマナを吸収することで補っていたことが分かったのです。これが魔力師誕生の瞬間とされています」
ここまでくると謁見の間にいる全員が俺の話に食いついている。国王なんかは身を乗り出してまでいる。
「しかし、当時はマナを吸収するだけで魔力を操ることはできませんでした。魔力師がこの能力を得ることになるのはもう少し先です。それに今まで生まれてすぐ亡くなっていた彼らが、魔力を吸収する術で得たのは命だけではなかったのです。彼らは迫害を受けるようになりました。奇形児とはつまりは異端。人間はその特性として異端を嫌う。その結果、彼らは自分たちだけの集落を作るようになったのです」
「しかし、そんなことで止まるほど他の人間たちは甘くなかった。奴らは彼らの集落を見つけては悉く破壊していった。魔力を持たない彼らは魔術を扱う奴らにあらがうことが出来なかった」
「そんな地獄のような状況が続いていたある日、まだ年端もいかない1人の少年が“あること”に気付いた。空気中のマナを体内に吸収しているということは、つまりマナを操作しているということ。そしてその力を使えば魔術師に対抗できるということ」
「事実、この能力を得てからの魔力師たちはその勢力を拡大していき、遂には魔力師の国を建国にまで至りました。魔力師が武力を手に入れたことにより、2つの勢力が牽制し合って一時の平和が訪れました」
「しかし、ここで再び神の悪戯が起きました。それは魔術師に生まれた“とある天才”が切っ掛けです。その人物は魔術を行使する際に詠唱も陣も必要とせず、これまで魔術では不可能とされていた壁を簡単に超え、新たな魔法を完成させました」
「その天才というのは……」
「おそらく陛下の考えている通りです。彼が使った魔術が後に想像魔法と呼ばれるようになる魔法です」
皆の視線がリサに集まる。
「そしてこの想像魔法は魔力師による干渉を受けず、魔力師の天敵が誕生しました。それ以降、魔術師側は勢力を盛り返し、魔力師は滅亡したのです」
俺の話が終わり三度謁見の間に沈黙が流れる。
「……確かに説得力はある。しかし、何故そなたはそのようなことを知っている?」
来た。これは絶対に聞かれるであろう質問だ。だからこそ、このための答えは既に用意してあるんだなあ。
「それは私が王族の末裔だからです」
謁見の間に動揺が走る。このカミングアウトにはさすがの国王も驚きを隠せないでいる。ああ後ろを向きたい!絶対ユイさんも驚いているはずなのに、国王の前で後ろはむけない。
「どういうことだ?」
国王がやっとのことで言葉を絞り出した。というか、さっきから国王しかしゃべってないんだけど、他の奴はどうした。まさか口が聞けないほどの馬鹿じゃあるまいし、国王の手前遠慮してるのかな?
「世が世なら王座に座っていたのは私だったかもしれなということですよ」
流石にこの言葉は見過ごせなかったようだ。周りに待機していた騎士たちが槍で俺を囲み、武官たちも武器に手をかけている。しかも、さっきは出てこなかった国王や王妃の近衛であろう騎士たちも俺に対して警戒している。だけど残念。
「掌握」
途端に国王と王妃、ローラと近衛隊以外の動きが完全に停止する。ざっと50人ってとこかな。今の俺が制御できる最大数がこの人数だ。
「先程の話と現状この部屋で起きている事象を持って私が魔力師であるという証拠とさせていただきます」
「何をした?何故皆は動かんのだ?」
「それは私が魔力を操り、動きを制限しているからです。なんならこんなことも出来ますよ」
俺は1人の騎士に意識を集中させる。すると、その騎士が突然身動きの取れないランバルトへ向かって槍を突き出した。
「ひぃ」
ランバルトは情けない声を上げるが、体が動かずに逃げることが出来ない。槍がランバルトに刺さると思った瞬間、喉元から数センチのところでピタリと止まる。それと同時に集中を解いて皆の身体を自由にする。
ランバルトはその場にへたり込み、槍を突き出した騎士は慌てて居すまいを正して顔を青くしている。
「き、貴様!このようなことをしてただで済むと思っているのか!貴族に対する暴行は重罪だ!即刻死刑にしてやる!」
ランバルトは尻餅を付いたままの恰好で喚いている。さっきまでは好意的だった武官たちも今では恐怖と警戒の視線を向けてくる。これでいい。
「それでは私が魔力師だと認めて下さるのですね?」
「なに?」
俺の突然の発言にランバルトは困惑しているようだが、国王とローラは俺の言いたいことを理解しているようだ。
「そういうことか。今の襲撃で其方を処罰すれば、其方が魔力を操ることが出来ると認めていることになる。それは其方が魔力師だと認めているものと同義となるわけか」
「仰る通りにございます」
「ふむ。その力を使って其方は何を成し遂げる?我の首を取って王座に腰を据えるか?」
国王はあくまで余裕の笑みを浮かべながら尋ねてくる。さっきの意趣返しか。俺にそんな気が無いのを知ってて騎士たちを煽るようなことを言うんだから、この人も随分と底意地の悪い人だ。
「必要と…あらば」
「貴様!自分が何を言っているのか分かっているのか!国家反逆罪で即刻処刑せよ!」
何かバカが喚いているのでワザとらしく溜息をついてみた。
「はあ、お前何か勘違いをしているようだな」
「な、何だと」
俺の態度が急に変わったことにランバルト他多数の貴族と周りに控えていた騎士たちがたじろいだ。さすがに国王の近衛たちは落ち着いている。
「国家反逆罪も何も、そもそも俺はこの国にも国王にもましてやあんたら貴族にも忠誠を誓った覚えはない。俺が主と認めこの身の一生を捧げると決めたのはローラただ一人だけだ。もしローラが望むのなら、俺はこの部屋にいる者を一瞬で殺すことも世界を滅ぼすことも出来る。そんな俺の主たるローラに手を出す奴には相応の覚悟をしてもらう」
俺は脅しの言葉と共に殺気を周囲に飛ばす。殺気に慣れていない文官たちは気を失いかけて、慣れているはずの武官や近衛たちも怯んで体が動かないようだ。貴族たちも怯えているが、とりわけランバルトの様子が異常だった。身に覚えがありすぎるってか。
結局謁見はそのままお開きになり、着任の儀の準備が整うまではローラの屋敷で生活することになった。
+
コンコンコン
「入れ」
「失礼します」
国王が許可するとノックの主が入ってきた。
「お呼びでしょうか?お父様」
ここは謁見の間の裏にある小さな部屋だ。謁見でのことを王族だけで話し合うための部屋であり、近衛隊すらも入室を禁止されている空間だ。
「ああ、単刀直入に聞こう。お前はあの男を御することが出来るか?」
国王の突然の質問にローラは言葉に詰まる。あの男などと言葉を濁しているが、それがユロンを指していることは明らかだ。ローラはさっきまでいた謁見の間での出来事を思い返す。
「無理です」
それがローラの答えだった。ユロンは魔力師という伝説の種族で、数十いた魔物の群れを一瞬で屠り、王国が誇る精鋭たちをも手玉に取ってみせた。そもそもただの人間が太刀打ちできる相手ではないのだ。
「ですが、彼は私を主と認めてくれました。その思いには答えたいと思います」
これがローラの意志だ。ローラの答えに国王は満足気に頷いた。
「お前の覚悟は分かった。くれぐれも手綱を放さぬようにな」
「はい」
ローラが退出した後、国王は誰に言うでもなく呟いた。
「伝説の主もまた伝説……か」




