八話 睡眠は訓練
朝の騎士の集まりに立ち会うため、少し早めに部屋を出た。昨夜も結局、三十分しか寝られなかった。
広場に行くと、すでに軍の人たちが整列を始めていた。おそらく事前知識にあった通り、しっかり四つの役職に分かれて並んでいるのだろう。
(俺は結局、どこに配置されるんだろうな……)
そんなことを考えながら歩いていると、なぜか周りからジロジロと見られていることに気づく。
あー、そうか。俺だけ装備がなくて、服装が部屋に用意されていた西洋風の寝巻きのままだからだ。手持ちの服なんて、着てきたスーツとカバンに入れていた作業着しかない
もう一度部屋に戻り、作業着に着替えて広場へ向かい直した。
再び広場へ行くと、もうほとんどの整列が終わっていた。
「おい、異世界人。前へ来い」
カイロに呼ばれ、前へ進み出る。
カイロの話によると、朝五時から七時までが基本訓練。七時から八時までが朝食で、八時半から警備や各々の仕事に入るらしい。
とりあえず俺は魔術騎士のグループに入らされた。
「そいやぁっ!」
威勢のいい掛け声とともに、前半の一時間はひたすら素振り。現場で体を動かしていたとはいえ、剣を振る筋肉はまったく別物だ。ぶっ通しで振り続け、もう腕がもげそうなくらい痛い。
後半の一時間は、対人形式の打ち合いだった。
もちろん剣術なんて素人の俺は、相手の騎士に面白いくらいボコボコにされた。
『なんでこの人、騎士になれたんだ……?』
周りの騎士たちから、そんな冷ややかな視線が突き刺さる。
(……見てろよ。俺はこれでも、魔力量だけは異常に多いんだからな……!)
心の中でそう自分を奮い立たせ、泥臭く何度も立ち向かった。……まあ、めちゃくちゃ恥ずかしかったけど。
そんな満身創痍の基礎訓練が終わると、俺は再びカイロに呼び出された。
無言の圧力を放つ鉄仮面が、冷たく言い放つ。
「貴様には、エリカ様の護衛を許す。今すぐ朝食の給仕から護衛に付け」
「……! 了解しました」
カイロの前を離れ、エリカの部屋へと急ぐ。
腕はパンパンで全身が悲鳴を上げているというのに、足取りは信じられないくらい軽い。
なんだろう、この胸の高鳴りは。
昨日出会ったばかりの、あのドジで健気な銀髪の姫様の顔が頭に浮かび、俺は作業着の袖で汗を拭いながら、自然と笑みをこぼしていた。
エリカ様に会う前に少しでも汗を流したかったが、この世界にシャワーなんて気の利いたものは当然ないらしい。桶に水を溜め、濡らした布で体を拭くのが日常のようだ。
騎士寮の前にある井戸には、訓練を終えた男たちが押し寄せ、ごった返していた。暑苦しい野郎どもを強引に掻き分け、なんとか冷たい井戸水を汲み上げる。濡らした布で全身の汗を拭うと、冷たさが腕の痛みを少しだけ和らげてくれた。
カイロの話によれば、エリカ様は昨夜から大事をとって治療室で安静にしていたそうだ。
「よし、スーツの着替えも済んだし、治療室に向かえばいいんだな」
俺は急ぎ足で城の治療室へと向かった。




