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七話 睡眠は剣

カイロ騎士団長の話によると、まずこの城に常駐している軍は一千人ほどで、日々訓練や警備にあたっているらしい。彼らは城の端にある兵舎で暮らし、隣接する広場を生活と訓練の拠点にしているとのことだった。有事の際には国全土から騎士や兵士を集めて戦う仕組みになっているため、平時に城に留まっているのはこの一千人程度に過ぎないらしい。

そんな説明を受けながら、俺は兵舎の近くにある訓練広場へと案内された。

カイロはいきなり剣を抜き、重々しく話し始めた。

「小輔、お前は魔力量が多いらしいな。悪魔によっては事前の契約により、剣に魔力を纏わせてこのように強化することもできる。ただし、これも魔力を消費するがな」

そう言いながら抜かれた剣は、あのダサいマスクとは違って無駄に格好いい。真っ赤な刀身からブワッと激しい炎を纏い、カイロはそれを一閃して空を切った。

「事前の契約があれば詠唱も要らんし、通常の魔法と違って魔力消費も少ない。その上、戦闘中に魔法と併用することも可能だ。メリットしかない技術だが、魔力を纏って剣を振れる者は限られている。我が軍には一般の近距離騎士、遠距離騎士、魔術師騎士、魔術師の四つがあるが……お前にはその中の『魔術師騎士』になって欲しい。」

と言われてもなぁ。剣なんて学生の頃に授業で少し触ったくらいで、まともに振れる自信もない。俺的には完全に魔術師向きな気がするし、なによりエリカとの「お手伝い」の約束もある。なんて言ったものか……一応、このカイロってのが俺の上司ってことになるのか?

「カイロ様、自分は魔術師を目指したいです。剣なんてまともに振れませんし、もっと魔法の知識を深めたいと思っています」

カイロは静かに剣を鞘に納め、腕を組んだ。

「もちろん、魔術師騎士に配属されたとしても、本来の警備の時間を魔術部隊の訓練に充てれば問題ない。魔術師騎士も魔法は使う。お前ほどの才能を持った者をただの警備に割く気はない。一年後に備えて力を蓄えてほしい」

だめだ、うまく逃げ切れない。どうにか話を逸らして、エリカと一緒にいる時間を作りたい。……ここは一旦、正直に交渉してみるか。

「カイロ様……実は自分、エリカ様を警護したいんです。エリカ様に付いている執事の方も少し頼りなさそうに見えますし……俺はエリカ様の護衛さえ認めてもらえるなら、どの部隊でも構いません。お願いします」

(これを受け入れてくれないなら、マジで何一つ協力してやらないからな、このクソマスク)

カイロは少し考え込むような仕草を見せた後、重々しく口を開いた。

「一応、エリカ様にも護衛と執事はついているのだが……分かった。エリカ様の護衛の件、上へ掛け合ってみよう。エリカ様ご本人の許しも得られ次第、連絡を入れる。もう遅い、今日は休め。明日は朝五時にここへ集合だ」

まだ十九時だというのに、随分と静かだ。まぁ、早く解放される分には好都合か。

俺はカイロと別れると、さっき案内された客用の部屋へと向かった。

城の中に入ると、昼間よりも明らかにローソクの灯りが減らされていた。省エネか何かだろうか? 人通りもほとんどない。というか、もう夕飯の時間を過ぎているはずなのに案内すら届かないのだが、どうなっているんだ?

首をかしげながら部屋に戻る途中、五十代くらいのメイドが歩いているのが目に入った。どこかの部屋に入っていくのが見えたので、気になって少し後をつけてみる。

隙間から覗き込むと、そこは調理道具が並ぶキッチンらしき部屋だった。

恐る恐る中へ入ると、気配に気づいたメイドが振り返った。

「失礼いたしました、どちら様でしょうか?」

メイドに尋ねられたので、自分が異世界から召喚された者であることと、自己紹介を済ませた。するとメイドは目を見開き、先ほど牢屋で出された灰色の粘土のような食事について、大変申し訳なさそうに謝罪してきた。

どうやら過去の召喚者に普通の食事を出した際、重いアレルギーを起こして亡くなった者がいたらしい。そのため、害が起きないよう腹を満たすためだけの粘土状の食事を出したのだという。……

「あの、夕飯の案内がないのですが、夜の食事はないのでしょうか?」

俺が尋ねると、メイドは少し驚いたように首を振った。

「日が沈んでからの時間は『悪魔の時間』とされておりまして……人が行動するのは非常に縁起が悪いとされているのです。ですので食事も含めた全ての行為は、日が落ちるまでに終わらせるのがこの城の掟なのです。小輔様も、早くお部屋でお休みになられた方がよろしくかと」

丁寧なアドバイスをもらったが、俺は三十以上寝ると激痛が走る体質だからな……。

メイドとお礼を交わして部屋に戻ったものの、案の定、眠れるのは三十分だけだ。一瞬の睡眠で脳を完璧に覚醒させた俺は、牢屋から持ち出しておいた本を開き、読書に没頭しながら夜を明かした。

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