四話 睡眠は怒り
足元から眩いばかりの青い光が溢れ出し始めた。足から体、頭へと何かが流れている感覚になった。「おお……! これほど大きくて高密度な魔力の結晶は、我が国の歴史においても見たことがない……!」ハゲの王が身を乗り出して目を見開いている。(よし来た……! 運ゲーに勝った!)
胸のあたりを突き抜けていった大玉送りの玉みたいな謎のエネルギー体。正直、何が何だか分からなくてビビったが、周囲のこのオーバーリアクションを見る限り、俺の提示した『スペック』は想定を遥かに超えていたらしい。「王様、これは魔力量が多いってことでいいんだな? 俺を利用するつもりなら、せめて召喚した経緯やこれからの待遇について教えてくれないか?」
俺がズケズケと切り込むと、周りの騎士たちが「不敬だぞ!」と言いたげに殺気立ったが、王様はそれを手で制した。「いいだろう、峰小輔。これからは協力してもらいたいからな。」王様は重々しく頷き語り始めた。「我がファング王国は現在隣国グリング王国との戦争休戦期間なんじゃ、休戦期間は、あと一年と契約を交わしている。一年後に向けて色々な対策をしている。その計画の一つが召喚だ。とりあえず今日は休め。明日からそこの鎧のマスクを被ったカイロが軍のトップだ。いろいろと適性を見定めて、一年後の戦争に備えてもらう。期待しているぞ」
なんだよ、軍に入らない選択肢はないのかよ。
上から目線でハゲ王が言い放つ言葉に、内心でイラつきが募る。普通に考えて、俺はただ帰りの電車でマイクロスリープを取っていただけだ。それなのに勝手に召喚しておいて、こちらの都合も聞かずに「決定事項です」みたいな顔で軍に組み込もうとする態度が気に入らない。
だが、ここで突っぱねて首を跳ね飛ばされるのは御免だ。
(まあいい。ある程度は従うフリをしてやろう)
この世界のルールや地理、そして自分の魔力の扱い方を学んでから、脱走するなり自由になるなり目標を決めればいい。
「とりあえず、城を案内させよ。寝室はとりあえず客用で頼む」と、カイロがダサいマスク越しに低い声で部下に命令していた。あいつの下につくのなんか嫌だわ。現場仕事でも汚いマスクをしている奴はいたけれど、これほどではない。
すると突然、大きな爆発音と共に大きな扉が壊れた。そこには、傷ついたロングの銀髪の女性が立っていた。そして、部下らしき人物も困ったような顔をしながら入ってきた。あの時の牢屋の人だ!
急に恐ろしい空気が流れてきた。その空気の発祥を辿ると、王の愛人か女王らしき人が、鬼の形相と人をとことん見下した目をして震えていた。
「あなた、またやらかしたのね! 何度も何度も失敗して、病気なのかしら? 本当にお願いだからやめてほしいわ。なんであんなのが生まれてくるのかしら? 早く消えなさい。反省室に入れても無駄ね。これだからバカは」
ヒステリックな声で彼女は叫んでいた。
ガチか、あんなやつから生まれてくるなんて気の毒に。母親は選べないからな。銀髪の女性がお姉さんに見えていたのに、少しうつ伏せになっているところを見ると、なんだか弱々しい少女にも見えてきた。
「エリカ? あなたの為に、あなたを想ってこんなに頑張っているのに、私は……」
そのセリフを聞いて、何かムカムカしてきた。いや、ムカムカは王に「召喚されて当たり前」みたいな顔をされている時からしていたけれど、「あなたの為」と言っているやつにロクな奴はいない。俺だって過去に散々言われてきたからわかる。自己満足をこんなにも押し付けられると苦しいことを。
そして、あの目つきの悪い女王か愛人かの糞野郎が椅子から立ち上がり、何かをし始めた。俺にはそれが何か分からない。女王らしき人の前に、突如赤黒い魔法陣が現れた。
そして、一瞬の出来事だった。赤黒い稲妻のようなものが目の前を走り、エリカと呼ばれていたあの女性に向かって放たれた。
苦しい悲鳴と共に、大きな落雷の音が聞こえた。エリカは倒れていた。なんだよこれ、と初めて見た魔法への驚きなどの感情が消え、怒りが込み上げてきた。
「——なにしてんだよ、糞ババア!!」
睡眠不足でもキレたことなんてない俺でも、思わず怒鳴ってしまった。すぐに駆けつけて、傷ついたエリカを抱きかかえた。
「誰か治療してくれないか? 頼む!」
誰も動かない。王や騎士は当たり前のような顔をしていて、女王らしき人は顔を歪めていた。
「治療は必要ないわ。ほっとけば治るわ。エリカは魔法の失敗でよく怪我をするし、その時の方が怪我は酷いわ。こんなのでは祭典に間に合わないわ。私はガッカリだわ」王が女王らしき人物を宥め、「治療部屋に案内してやれ」と軽く言った。俺は執事と一緒に、エリカを治療室へと運んだ。




