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三話 睡眠は無価値

放置期間が終わったのか、扉の外が急に騒がしくなった。

しばらくすると、重装備の騎士らしき者たちと、あの黒いフードをかぶった連中がぞろぞろと中に入ってきた。そして俺の手に無骨な手錠を嵌める。

「これから『選定の儀式』を王の間で行う。くれぐれも失礼のないようにな」

重厚な鎧のマスクから、低く重々しい声が響いた。他の四人の騎士と違って、会話してきた一人だけがフルフェイスのマスクを装着している。役職が特別なのだろうか? 某・暗黒面に感化された若者みたいなデザインだ。正直、デザインとしては微妙にダサい。

「失礼も何も、この世界のマナーなんて知らないんだけどな」

俺が呆れ半分に口にすると、周りの騎士たちが一瞬、目を見開いて驚いた表情を見せた。

……転移者でこの世界の言語を習得しているのは、そんなに珍しいことなのか? 日本語の対訳本が普通に転がっていたくらいだから、先人が定着させているものだと思っていたのだが。

問い詰める暇もなく、俺は二人の騎士に力任せに腕を掴まれ、一週間の愛のすみかを後にした。

連行される途中、ちらりと隣の牢屋を覗き込むことができた。

そこにいたのは、高身長で、現実世界では見たこともないほど美しいロングの銀髪を持った女性だった。年齢は二十代前半くらいだろうか。若いはずなのにお姉さん感が漂っている。

マジかよ。あれも転移者なのか?

あんな圧倒的な容姿、現実世界にいたらモデルだろうが海外のスターだろうが速攻でバズって有名になるレベルだろ。

もっとじっくり観察したかったが、汗臭い騎士たちに力任せに引っ張られて視界を遮られてしまった。

「あの銀髪の女性も転移者なの?」

ダメ元で聞いてみたが、「私語は慎め」と一蹴されて怒られた。まったく、頭の硬い連中だ。

二人の騎士に引かれて歩きながら後ろを少し振り返ると、あの銀髪の女性も連行され始めていた。

ただし、俺とは違って手錠はなしだ。

女性は特別接待か? 異世界に来てまで男女差別の格差を実感させられるとは思わなかった。

で、俺はこれからどうするか。

状況を打開するにしても、まずは自分の『魔力量』を測定してみないと何も始まらない。もし測定結果が壊滅的だったら、その場で殺処分コースの可能性が高い。マジの運ゲーだな。

逆に、もし魔力量が規格外に多ければ、ある程度の発言権や交渉のカードを獲得できるはずだ。とりあえずは波風を立てず、大人しく指示に従っておくのが無難だろう。

しばらく石の螺旋階段を上り続け、やがて巨大な意匠が施された大きな扉の前へと連れてこられた。

ギギギギ……と音を立てて、二人の給仕らしき男たちが重い大扉を両脇に押し開く。

そのまま俺は『王の間』へと足を踏み入れた。

召喚されたあの日以来、一週間ぶりのご対面だ。

あの時は急な状況変化でよく観察できなかったが、中央の玉座に鎮座しているあの偉そうなハゲのおじさんが、おそらくこの国の王だろう。

王が豪華な椅子からゆっくりと立ち上がり、重々しい声で宣告した。

「異界の者よ。これより、魔力の量を測る『選定の儀式』を行う。そなたは、こちらの言語を話せるそうだな。異界の召喚者では誠に珍しい。過去の事例においても、言語を会得した者には大いに期待が持てる。……ちなみに、そなたの名は? 話せるのならば答えよ」

「俺の名は、峰小輔だ。……ちなみに、魔力の量が少なかったらどうなるんだ? なんで俺を召喚した?」

俺は気になる事情をストレートに尋ねた。

王はしばらく思案するような素振調を見せた後、静かに首を振った。

「……選定が終わってから説明する」

はぐらかされた。怖いな。もし才能がなかったらそのまま即刻抹殺、なんてオチがあるんじゃないだろうな? 現場の掃除人でも雑用係でもいいから雇ってほしいところだ。

……ふと王の隣に視界をやると、王妃と思われる女性が立っていた。

めちゃくちゃな美人なのだが、とにかく目が怖い。鋭く、こちらを露骨に見下すようなあの嫌な目つき。完全に下請け業者をゴミのように扱う悪徳施主の目だ。

「では、中央へ立ちなさい」

指示されるまま、俺は王の前に描かれた直径五十メートルほどもある巨大な魔法陣の中央へと歩み出た。

これから始まる儀式で、俺のこの世界での『価値』が決定してしまう。

(頼むぞ……異世界転移者の相場は『特別扱い』って決まってるんだ。チート能力の一つや二つ、くれてもバチは当たらないだろ)

心の中で切実に祈りながら、魔法陣の中心に直立した。

次の瞬間——足元から、眩いばかりの青い光が溢れ出し始めた。

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