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ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました  作者: 一ノ瀬麻紀


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20 俺を知る男との遭遇

「予報だと、もう少し降り出しが遅いはずだったんだけどなぁ……」


 俺はどんよりとした空を見上げながら、口を尖らせた。

 思ったより雨足が強まっていて、楽しい今日の思い出まで流されてしまいそうな……そんな気持ちになった。


「でも帰りで良かったね。朝だったら、駅までの道のりも雨だったんだもん」

「ああ、確かにそうだな……。あとは帰るだけのタイミングで降り出したのは、俺たちラッキーだな」


 そうだ。今日の楽しい思い出が流されるわけない。(しゅう)のニコニコとした笑顔を見ていたら、もやっとした気持ちも吹き飛んだ気がした。


 予報より早まった雨のせいか、傘を持たずに慌てて走る姿もあった。アーケード内も、雨を避けるためにたくさんの人が歩いていた。人混みを避けながら駅まで辿り着くと、邪魔にならない場所で立ち止まった。


「ここで待つか」


 お互いにスマホを取り出し、駅に到着したこと、待っている場所をメッセージで送った。

 あとは泰雅(たいが)が来るのを待つだけ……そう思った時、突然声をかけられた。


「よぉ……久しぶりだな」


 誰に話しかけてるんだ? そう思ってそっと顔を上げると、前方からニヤニヤしながら歩いてくる人物がいた。

 明らかに俺たちの方に向かってきているけど、その顔に全く覚えはない。視線を合わせたくなくて、ちらっと見て確認したけど、やっぱり知らないやつだ。


圭太(けいた)くん、なにあの人。……なんか感じ悪いよ。ちょっと移動しよう」


 俺がどうしたもんかと考えていたら、柊は俺の腕を引っ張り、不安そうな声で言った。

 柊が怖がっているということは、こいつはアルファか? いやでも、俺はなにも感じない。泰雅と番っているから、フェロモンは感じなくても、相手がアルファだと何かソワソワするんだ。


 けどアルファじゃないにしても、何か嫌な感じがする。今すぐここから離れた方が良さそうだ。

 俺は無言で頷くと、柊と一緒に歩き出そうとした。


「おいおい、無視かよ」


 俺たちがその場から離れようとしたタイミングで、その男はズンズンと速度を速め、俺たちに近づいてきた。そして、すぐ近くまで来ると、意味深にニヤリと笑った。


「元クラスメイトに、その態度はないんじゃねーか? なぁ、圭太」


 え、元クラスメイト? 確かに、俺の名前を知っている……!?


「圭太くん、知ってる人なの?」


 困惑している俺に、柊は不安そうに尋ねてきた。


「……いや、わからない。けど、俺の名前を知ってるよな……」

「どうしよう」

「よくわかんないけど、無視してさっさと行こう」

「うん……」


 この状況がよく分かってなかったけど、柊が不安がっている今、この場に留まるのは得策ではない。もうすぐ泰雅も合流するから、とにかくこの場を離れた方が良さそうだ。


 俺たちが、人混みを避けながら移動しようとしたその時、その男は進路を塞ぐように立ちはだかった。


「なぁ圭太、本当に俺のこと覚えてないのかよ? ……辻本(つじもと)だよ。三年間一緒のクラスだったじゃないか」

「……は? 辻本だって?」

「そうだよ、やっと思い出したか?」


 確かに、高校のクラスメイトに、辻本というやつはいた。……確か、三年間一緒だったような気がする。

 けど俺の知っている辻本は、こんなやつじゃなかった。顔を隠すように前髪を長くし、教室の隅でひっそりと静かに本を読んでいるような、おとなしい生徒だったはずだ。……こんな、格好も派手で、ニタニタ笑うようなやつじゃなかった。


「お前なんて……知らない」

「あー、やっぱりオメガ様は違うってか。そうだよな、ベータとは住む世界が違うってもんな」

「俺だって……」


 嫌味な言葉に、『俺だってベータだった』と言おうとしたけど、ぐっと言葉を飲み込んだ。隣には柊がいる、今は柊を守ることが先決だ。こんな奴の口車に乗せられてたまるか。


「オメガってさ、何もしなくても周りから守ってもらえるんだろ? いいよな、人生イージーモードで。フェロモン出してアルファに媚び売ってりゃいいんだから。努力もしないで、ただ『運良く』オメガになっただけで、選ばれた人間気取りか? 結局、アルファがいないと何もできない生き物のくせに。どうせ今も、アルファを待ってるんだろ? 飼い主に忠実なペットみたいで笑えるわ」

「は? 何言ってんだよ! んなことあるわけないだろ!」


 無視を決め込むはずだったのに、俺はあまりにも酷い『オメガへの偏見』に、思わず口を挟んでしまった。

 あまりにも腹が立ったので、もっと言ってやりたくて、一歩踏み出そうとしたところで腕をぐっと引っ張られた。

 俺の横で下を向いたまま、今にも泣きそうに声を震わせる柊を見て、俺は大きく深呼吸をした。だめだ、このままだと相手の思う壺だ。


「圭太くん……僕……」

「大丈夫だ、柊。俺が守るから。……ほら、後ろに隠れてろ」

「うん……」


 この場には、頼れる人間は誰もいない。俺が、柊を守らないと。……龍星とも、約束したんだ。


「生意気にもネックガードなんてしてんじゃん。一丁前に、オメガ気取りか? 出来損ないの中途半端なオメガのくせに。圭太の背後にいるちっこいの、オメガなんだろ? いかにもオメガって感じだな。みんなにチヤホヤされて、いいご身分だな」

「うるさい! 俺のことはいくら言ってもいいけど、柊のことを言うのは許さない!」


 オメガの偏見だけなら、しょうがないと思って聞かないふりをするしかない。残念なことに、オメガへの風当たりはずっと強かったんだ。今だって、こんなにたくさんの人がいるのに、みんな見て見ぬふりをして通り過ぎていく。

 けど、柊まで標的にするなら話は別だ。俺は何を言われてもいいけど、柊を傷つけるのは許さない。


「は? ヒーロー気取りかよ。……俺は、お前のせいで学校を辞めさせられたっていうのに、ふざけんなよ!」


 辻本と名乗る男は、急に声を荒らげて、俺の胸ぐらを掴んで吐き捨てるように言った。

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