19 二人で遊びに行く
週末、柊と二人で出かける日がやってきた。
金曜の夜から実家に帰省しているけど、今日は泰雅が隣にいない。でも昨日のビデオ通話で心配性な泰雅の顔と声を思い出すと、心が温かくなった。
そろそろベッドから出ようかと思った時、泰雅から電話がかかってきた。
泰雅は『人の少ないところには行くな』とか『特にアルファには気をつけろ』とか、昨日も言ったのに、また今日も朝から心配してくる。
俺は泰雅と番になってるから、他のアルファのフェロモンになんて影響を受けないって言ってるのに、万が一のことがあったら困るからと、先日病院でもらってきた抑制剤も飲むように言われた。
そんな感じで、朝から過保護な泰雅に送り出され、柊との待ち合わせの駅に到着した。
「圭太くーん!」
ちょうど柊も到着したみたいで、いつものようにピョコピョコと小動物のような動きでやってきた。その後ろには、案の定龍星が守るように歩いてきた。
用事で家を空けていなければ、泰雅もきっと同じようについてきたんだろうな。
「柊、おはよう。……龍星もおはよう」
「圭太くん、おはよう」
「圭太、おはよう。今日は柊のことを頼んだ」
「任せとけって!」
「じゃあ、龍星くん、行ってくるね」
柊はニコニコと龍星に手を振ると、俺の隣に並んで歩き出した。
改札に続く階段の途中で何度か振り返り、龍星の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「楽しみだけど、ちょっと緊張するね」
「俺がいるから、大丈夫さ!」
「うん、圭太くん、頼りにしてるよ」
普段乗らない方向の電車に乗ると、見える景色も違った。柊は俺以上に電車に乗る機会が少ないらしく、ドアの窓からずっと外を眺めていた。
二人で『楽しみだな』なんて話をしていたら、あっという間に目的の『オメガ専門店』最寄駅に到着した。改札を抜けたところで地図を確認し、駅の北口に降り立った。
スマホの地図を頼りにお店を探すと、駅からそんなに離れていない場所にあった。
ここは、最近できたばかりの施設で『豪華すぎる、至れり尽くせりなオメガ専門施設』として、今話題沸騰中だ。
二階までは誰でも入れるエリアになっていて、ネックガードやペアアクセサリーの販売、カフェなどが併設されている。
三階はオメガしか入れないエリアになっていて、入り口でオメガであることを証明できるものを見せるか、事前にアプリから登録もできる。
そして地下一階は、急なヒートなどに対応できるようになっている。専門の医師と看護師も常駐しているらしい。
オープン前からかなり話題になっていたけど、実際に来てみたら本当にすごく豪華だ。そしてまわりを見ると、二人で寄り添っている人たちが多い。
次は泰雅と一緒に来たいな……そう思いながら、メッセージアプリを立ち上げた。隣では同じように柊もスマホを手にしていた。『無事施設に到着したよ』とメッセージを送ってスマホをバッグにしまった。
俺たちは、一階から三階までゆっくりと見てまわった。お昼は休日で混んでいたから、時間をずらそうかなって話をしていたら、ピコンとスマホに通知が届いた。
「ご予約のお時間が近づいてまいりました……?」
「あ、僕のところにも届いてる」
二人で通知を確認すると、この施設の三階にあるレストランに予約があるというのだ。指示通りに三階へ向かうと、高級そうなレストランで、メッセージを見せると席に案内された。
「びっくりしたねぇ。僕たちに内緒で、予約してくれてたんだね」
「ここから出ないって約束してたから、前もって予約したんだろうな。……それにしても、また高そうなお店を」
以前泰雅の親父さんが経営しているホテルに行った時も、高そうなレストランだと思ったけど、今回のこのお店もなかなかの雰囲気だ。他にも気軽に食べられるお店もあるのに。
「すごいねぇ。美味しそうだねぇ」
ニコニコしながらメニューを見ている柊は、この値段が気にならないのだろうか。
「なぁ、柊。……これ、ちょっと値段が高くないか?」
ケチな男だと思われても仕方がない。俺は思わず身を乗り出して小声で言ってみたけど、柊は「そうかな?」と言って首を傾げた。
ああ、柊も泰雅と同じ部類の人間なのか? 俺は普通の家庭の生まれだし、もともとベータだったから、感覚が違うのかもしれない。
でも、値段相応……いや、それ以上の価値があると思えるような料理だった。今度は、俺がお礼で泰雅にご馳走したいなと思った。
帰りにお会計を済ませようとしたら、予約者に支払い請求が行くらしい。……はぁ、なんだかすごいシステムだなぁ。
だいぶオメガとしての生活にも慣れたと思ったけど、やっぱり今までの世界とは大きく違うんだなと感じた。
自分たちの買い物も済ませ、柊の最大の目的の『龍星への誕生日プレゼント』も無事買うことができた。柊はサプライズプレゼントなので、これは自分で払いますとお店の人に伝えていたから、俺も自分で払えばよかった。
さっきのレストランも、その後の買い物も、全部登録カードで支払うシステムだった。そういえば、このお店の会員登録をしたのは泰雅だったなぁと思い返す。
せめて、お菓子のお土産くらいは自分で買いたいと思って、自分で支払いをした。
「楽しかったねー」
「なんか、豪華すぎて圧倒されることばっかりだったよ。至れり尽くせりだなー」
「本当に、オメガのための施設って感じだったね。まわりを気にせず落ち着いて過ごせるって、すごくよかった」
柊がそう言って嬉しそうに話すのを聞いて、俺はハッとなった。
元ベータの俺にはただ豪華だなって感じただけだったけど、いつもまわりを気にして生きてきた、柊のようなオメガにとっては、こういう施設は本当に楽園みたいなものなのかもしれない。
俺もすごく贅沢な気分を味わえたし、サービスが行き届いていて、とても満足のいく体験をさせてもらった。やっぱり、オメガになるのも悪くないなって思えた。
「もうすぐ泰雅が迎えに来る時間だ」
「あ、龍星くんから連絡が入ってる。……少しだけ遅れるって」
「じゃあ、駅前で一緒に待ってるか」
「うん、ありがとう」
建物を出ると、予報より早く降り出した雨が、地面を濡らしていた。
「うわー。雨降ってるー」
「屋根のあるアーケードを通って駅まで行こう」
少し遠回りになるけど、横断歩道をまっすぐ渡らず、遠回りをして雨を避けて駅まで行くことにした。
「滑らないようにな」
「うん、ありがとう」
アーケードは、雨を避けて歩く人でごった返していた。
俺は、柊の荷物も持ってやって、ゆっくりと二人で駅に向かって歩いた。




