18 信じている
とうとう明日は、柊と遊びに出かける日だ。普段から大学周辺は柊と二人で出かけることはあっても、大学エリアから離れることはなかった。久しぶりの遠出って感じで、ワクワクする。
風呂上がりにスマホを見ると、長々と泰雅からメッセージが届いていた。泰雅は口数は少ないけど、文字で送ってくるメッセージは結構長いんだ。女子かよ。
「なになに。……明日の目的地、時間……行動予定、全部送れってか」
はぁ……と、俺は大きなため息をついた。
大学周辺はオメガの保護に力を入れている地域だし、泰雅たちの目が届きやすい場所だ。けど俺らが明日行こうとしている場所は、電車で一時間ほど先にある街。だから、泰雅が心配するのは無理もない。
そこに新しくできた『オメガ専門ショップ』に行く予定になっている。でもそれは表向きの理由で、実は柊から龍星への、誕生日のサプライズプレゼントを買うためなんだ。
明日の目的地と、乗る電車の時間と、お昼はまだどこで食べるか決めてなくて、駅周辺の商店街あたりのつもりでいる。帰りの電車の予定も書いて、メッセージを送信した。
その直後にすぐ既読がつき、スマホから呼び出し音が流れた。
「もしもし?」
『今大丈夫か?』
「大丈夫、お風呂を出て後は寝るだけ」
『明日は、本当に気をつけるんだぞ? オメガへの理解があるところばかりじゃないんだからな? 人の少ない場所へは行くなよ? 何かあったら大声で呼ぶんだぞ? GPSもちゃんとオンにしてるよな? ……ああ、やっぱりついて行っちゃダメか?』
泰雅にしては珍しく途切れなく喋るから、俺は黙ってずっと聞いてみた。そしたら最後は、なんか情けないことを言い出した。
「ダメに決まってるだろ。ちゃんと話をして、俺は泰雅から許可をもらったんだ」
『それはもちろんわかってる。圭太の意思を尊重したいと思ってるし、信じている。だけど……』
「何度も言うけど、今回は俺の友達柊のためでもあるんだ。過去に何があったかは聞かないけど、いつも周囲を気にしていた柊が、俺となら勇気を出して遠出をしてみたいって言ったんだ。龍星のために、プレゼントを準備したいって希望、叶えてやりたいだろ?」
こんなやり取りは、出かけることが決まってから何度かした。わかっている。泰雅は俺を信用していないわけじゃない、ただ単に心配をしてくれているんだ。
それでも、俺はただ守られているだけじゃ嫌なんだ。泰雅と肩を並べて隣を歩きたいんだ。
「でもさ、泰雅。俺、本当にこの大学を選んでよかったって思ってるんだ。泰雅が提案してくれた時、正直ショックも受けた。オメガになったら、自分の夢さえ諦めなきゃいけないのかって。……けどそれは違った。道は変更されても、俺が俺らしく進む道はいくらでもある。この大学に来たことで、また選択肢が増えたんだって思えるんだ。……だからさ、心配なのはわかるけど、見守ってて欲しいんだ」
スマホの向こうで黙って話を聞いてくれた泰雅が、小さく息を吐くのを感じた。
『圭太、ビデオ通話に切り替えてくれないか?』
「ん? ああ、オッケー」
俺は、ビデオ通話をオンにした。スマホの画面に、少し困ったような顔をした泰雅が映っていた。
『俺は、圭太のことを信じている。けど、心配してしまうのもわかってほしい』
「わかってる。泰雅は昔からそうだもんな」
『いつもより、GPSで居場所の確認を頻繁にさせてもらうし、出来れば柊くんには悪いが、まめにメッセージでもいいから連絡が欲しい』
「了解。なるべくまめに連絡するよ。柊だって、龍星に連絡したいだろうし。……それに、このネックガードいいやつなんだろ? こういう時こそ、その性能発揮させないとな。あ、念のために、スマホの位置情報共有設定もしておくか」
俺は、テーブルの上に置いてあるネックガードをスマホ画面に映すと、ニヤッと笑った。
『……柊くんとの外出、楽しんでこいよ』
「おうっ」
本当はもっと色々言いたいことがあるんだと思う。それでも泰雅は、もうそれ以上言わずに、黙って送り出してくれるんだ。
アルファは独占欲が強くて、横暴な人も多いと聞く。泰雅も、俺に対して独占欲が強いのかな? って思う時はあるけど、でもすごく優しいし、俺の気持ちもちゃんと聞いて尊重しようとしてくれる。
そんな泰雅だから、俺は番になりたいと思ったし、この先も一生そばにいたいと思ったんだ。
「泰雅、俺を信じてくれてありがとう」
『ああ、いつでも信じている』
「俺も、泰雅のこと信じてるから」
『大丈夫だ。ついて行ったりしない』
「そこまでは言ってないけど、やりそうだってちょっと思っちゃった」
『やるなら、見つからないようにするさ』
「ははは! 見つからないように頼むよ。……お土産買ってくるからな」
『お土産話も楽しみにしてる』
電話を切るのが惜しくて、なんとなく会話を引き延ばしてしまう。
「そろそろ……寝ないとな」
『そうだな』
「泰雅は、今実家にはいないんだっけ?」
『ああ、親父と一緒に県外に来ている』
「そっか、大変だな。親父さんにもよろしく言っといて。今度みんなで出かけましょうって」
『そうだな。久しぶりに両家族で出かけたいな』
「いいね。計画するか。……じゃあ、切るか」
『明日、無茶はするなよ』
「わかってるって」
『じゃあ、おやすみ』
「おやすみ」
俺たちは、名残惜しい気持ちに区切りをつけ、通話を終了した。




