17 お互いのパートナー
「圭太くんは、オムライスが好きなんだね。僕、美味しいお店知ってるよ?」
「お、いいね! 今度一緒に食べに行こうぜ」
大学の昼休み、俺と柊は学食へと足を運んだ。大きな学食で、誰でも使用できるエリアと、オメガだけが利用できる『オメガエリア』がある。俺と柊はオメガエリアで食事を楽しむことにした。
学食というだけあってリーズナブルなんだけど、味はプロ並みに美味いんだ。卒業しても、ここのオムライスを食べにだけ来たいくらいだ。
「あ、そうそう。今度のお出かけだけど、龍星くんがね、圭太くんによろしくって言ってたよ」
「柊のところも、なかなかの過保護だなぁ」
俺たちは、今度の休日に街に遊びに行く約束をしている。もちろん、お互いのパートナーにも詳細を話しているわけだけど、泰雅に負けず劣らず龍星も心配性みたいだ。
……まぁ、俺でも柊を守ってやりたいって思うくらいだから、それが恋人となるとなおさらだろう。
「この前少し会ったじゃない? 圭太くんのこと、いいやつだなって言ってたよ」
「あはは。そう思ってくれたならよかったよ。俺、露骨な態度取っちゃったのにな」
数日前、大学まで迎えにきていた、柊の恋人の龍星と初めて会った。俺は外見だけであからさまな態度をとってしまったのに、俺のことを警戒しないでくれたみたいだ。見た目は確かにアレだけど、意外にしっかりしているなと感じた。
「アルファの威厳とかなんとか言って、舐められないようにあんな格好をしているみたいだよ」
「え? そういう理由なの?」
柊は楽しそうにくすくす笑いながら教えてくれたけど、意外性のある理由で俺はびっくりしてしまった。
「基本的に、明るめのファッションが好きなのは本当だけどね。……見た目はあんな感じだけど、とても優しくてかっこいい人だから、圭太くんも仲良くなれると思うよ」
「そうだな。初めはちょっとビビっちゃったけど、優しいやつだっていうのはわかった。……今度は、俺の番も紹介したいな」
「僕も早く、圭太くんの番さんに会いたいな!」
俺たちは、柔らかい日差しが差し込む学食で、食事を終えた後にケーキを楽しみながら、あれこれ話をした。
高校までの話とか、お互いの恋人の話とか、これからのこととか。結構プライベートな話をしていたけど、幸いオメガエリアに他の人はいなくて、ゆっくり話すことができた。
デザートまで楽しんで、食堂を出たところで、ふっと安心する匂いが漂ってきた。
匂いのした方へ視線を向けると、やっぱりこっちに向かって歩いてくるのは泰雅だった。
「おーい、泰雅ー!」
隣に柊がいるのを忘れ、嬉しくて思わず大きな声で泰雅に声をかけてしまった。けど柊は他のアルファが怖いんだと思い出し、慌てて柊を見た。
「あれが、圭太くんの……?」
「あ、ごめん。柊は他のアルファが怖いんだよな。ちょっとここで待ってて」
俺が慌てて柊に声をかけたら、柊は静かに首を横に振った。
「知らないアルファは怖いけど、圭太くんの番さんだってわかってるから、大丈夫だと思う」
「本当に大丈夫か? ……じゃあ、俺の後ろに少し隠れてて」
「うん、ありがとう」
俺は柊を庇うように後ろに隠すと、少し離れたところから泰雅に手を振った。泰雅には柊の話をしているから、俺が言いたいことは伝わってると思う。
泰雅はゆっくりと俺たちに近づいた後、ある程度距離を保ったまま足を止めた。
「泰雅、学食で会うなんて珍しいな」
「ああ、今日はちょうど区切りが良かったから、来てみたんだ。圭太に会えて嬉しい」
「俺もこんなところで会えると思ってなかったから、嬉しいよ」
泰雅は口数は少ないけど、気持ちを隠さずに伝えてくれるから、俺も素直に伝えるようにしている。
本当はすぐにでも泰雅の胸に飛び込みたいけど、ここは大学だし柊もいる。いつも話をしているから知ってるけど、実際に会ったのは初めてなので、とりあえず名前だけでお互いを軽く紹介した。
「柊、こいつが俺の番の白河泰雅。……泰雅、俺の後ろにいるのが、いつも話してる宮瀬柊」
俺に紹介され、泰雅は優しく微笑んで「よろしく」と言った。柊を怖がらせないように、優しく接しようとしてくるのが伝わってくる。
柊は、泰雅の纏う雰囲気に安心したのか、俺の隣に並んで「宮瀬柊です」と言いながらぺこりとお辞儀をした。
良かった。柊は泰雅のこと怖がらないみたいだ。……そうほっとした瞬間、急にその場の空気がピリッと張りつめて、背中がぞわっとした。
その直後に、いつの間にか俺たちの背後に人が立っているのに気づいた。
「柊。誰だそいつは」
びっくりして振り返ると、そこに立っていたのは、険しい顔をした柊のパートナーの黒瀬龍星だった。
「龍星くん!」
おそらく柊は、いつもならすぐ龍星の気配を感じ取るのだろうけど、今日は初対面の泰雅が目の前にいて、そちらに意識がいっていたんだろう。
声をかけられて龍星の存在に気づき、一気に柊の緊張が和らいだのが俺にもわかった。
「嬉しいな! 龍星くんに会えるなんて」
ニコニコ話しかける柊とは反対に、龍星はまだ警戒を崩していないようだ。それに気づいた柊は、慌てた様子で龍星の胸に飛び込んだ。
「龍星くん、警戒しなくても大丈夫だよ。この人は、圭太くんの番さん」
柊がニコニコしながら説明をしたら、その場のピリついた空気がやっと緩んだのを感じた。
いつもなら「ベータと変わらない」と言っていた俺だったけど、龍星の周りのピリついた空気を肌で感じ、初めて少し怖いと思ってしまった。……これが、オメガになるということなのだろうか。
俺は無意識に、首元のネックガードに触れた。ただそれだけで、少し気持ちが落ち着いた気がした。
「ああ、そうなのか……。俺は黒瀬龍星です。勘違いしてすみませんでした」
「いや、大丈夫だ。……俺は白河泰雅。よろしく。……圭太が、いつも世話になっている」
泰雅と龍星はガッチリと握手を交わした後、視線を合わせふっと目を細めた。
なんだろうこの感じ。アルファ同士にしかわからないやり取りをしているように感じて、俺は少し不満に思ってしまった。
「じゃあな、俺たちこれから講義だから!」
アルファ同士の空気感をちょっと羨ましく思いながら、俺たちはオメガ同士で仲良くするからさと、柊の手を引いて歩き出した。




