14 新しい友達
T大学は、入学式前の四月初めから、オリエンテーションが行われている。事務手続き関係や学生生活のサポート関連など、この時期に集中しているので大忙しだ。
今日は、カリキュラムの説明や、キャンパスツアーが行われる予定だ。なんか、いよいよ大学生活の始まりだという感じがして、わくわくしている。
今日も泰雅は、オメガ寮まで迎えに来て、帰りも寮まで送ってくれる。過保護すぎないか? と思ってたんだけど、周りを見るとどうやら他のオメガたちも同じみたいだ。
「帰りも迎えに来るから。知らない奴についてくなよ?」
「大丈夫だって! 普通のオメガより力も体力もあるんだぜ?」
「そうじゃない。圭太は自覚がなさすぎなんだ」
「わかったわかった。まぁ、大学広すぎてまだ迷っちゃいそうだし、泰雅が来るのを待ってるよ。心配すんなって」
アルファ特有の気質もあると思うけど、泰雅はそれだけじゃないと思う。小学生の頃からの付き合いだけど、俺がベータだった頃からだから、泰雅は本物の世話好きオカンなんだ。
「特にアルファには……」
「はいはい、気をつけますよ。ほら、泰雅もオリエンテーションがあるんだから、さっさと行かないとだろ? じゃあな、また帰りにな」
ほら、俺が大丈夫だと言っても心配が尽きないみたいだ。俺は離れがたそうな泰雅の背中を押すと「帰ったら、甘えさせてな?」と、耳元で囁いた。
俺はそのまま振り返らず、集合場所へと走っていった。
「あれ……?」
オリエンテーション会場に到着すると、入り口で立ち止まっている人物がいた。なんだかまわりをキョロキョロ見回しながら、中に入るのを躊躇しているように見える。
俺とは違って、いかにもオメガという雰囲気の人だ。小柄で華奢で、元ベータの俺でも守ってあげたくなるタイプだ。
泰雅じゃないけど、おせっかい虫がむずむずと湧き出してくる。
「おはよう」
同じオリエンテーションを受けるとはいえ、初対面だ。かと言っていきなり名乗るのも不自然だし、どうしようかと思ったけど、まずはあいさつをするのがいいよな。
「え……」
急に後ろから声をかけられて、その人は背中をびくっと振るわせた。
「あ、急に悪い。驚かせちゃったな。俺もオリエンテーション受けるんだ」
「ぼ、僕もです……」
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「は、はい」
なんでこんなにもオドオドしているんだろうって思ったけど、普通のオメガならこういうやつが多いのかな? そんなことを考えながら、適当な席に座った。
「俺、村井圭太」
「僕は、宮瀬柊……です」
「よろしく! ここで会ったのも何かの縁、いきなりだけど、柊って呼んでいいかな?」
「え……あ……」
「ああ、ごめん。嫌だった? 俺、大学に来てまだ友達とかいなくて、話せる人がいて嬉しくなっちゃってさ。急にグイグイ来たら、普通びっくりするよな」
俺が、柊に答える隙も与えず話しかけてしまったせいで、明らかに動揺しているのが伝わってきた。
泰雅以外の人と話せるのが嬉しくて、つい前のめりになってしまった俺は、ハッと気づいて慌てて謝った。
どうもベータの時のノリが消えないんだよな。……もしかして、こういうところを、泰雅は心配しているのか?
「い、嫌じゃ……ない、です。嬉しい……です」
少し距離をとった俺の前で、俯いたまま柊はぼそっと言った。
「よかった! ごめんな、今度はもう少しゆっくりとだな」
「大丈夫……ありがと」
「柊も、俺のこと圭太って呼んでくれよ!」
「じゃあ……圭太……くん」
柊は俯いていた顔を上げて、はにかみながら俺の名を呼んだ。そんな遠慮がちな微笑みを至近距離で向けられて、俺は不覚にもときめいてしまった。
いや、マジでめちゃくちゃ可愛くて守りたくなる。大学にいる間は、俺が守ってやらなきゃという使命感が湧いてきた。
「今日から俺たちは友達だな!」
「友達……?」
「ああ、友達だ。初めてできたオメガの友達なんだ。よろしくな、柊!」
「うん、うん。……よろしく……圭太くん」
柊は多少は緊張感がほぐれてきたのか、安心したような笑顔を俺に向けた。
うん、やっぱり俺が守らなきゃ!
こうして俺は、早々に大学での目標をひとつ見つけたのだった。
◇
「柊がさ、めちゃくちゃ可愛いんだよ! 俺が守ってやんなきゃ! みたいな使命感がな」
「圭太は、オメガとはいえ、他の男の話を平気でするんだな」
「なんだよー。ヤキモチかー? オメガの友達だって! それに、柊にはちゃんと恋人がいるから心配すんなって!」
「うちの大学のオメガ特待生制度を使っているんだから、そうだろうな」
「わかっててヤキモチ妬いてんのか? あはは! 泰雅、可愛いやつだな!」
俺は迎えにきた泰雅に、今日の出来事をずっと話している。週末なので実家に帰省するから、そのまま泰雅の家にやってきた。それでもなお、俺が柊の話ばかりしているから、とうとう泰雅が拗ねてしまったみたいだ。
だから俺は声のトーンを落として、柊を初めて見たときから感じている、違和感を話した。
「……なんだか、柊はいつも何かに怯えているみたいなんだ。だから、そばにいてやりたいって思ったんだよ。泰雅なら、その気持ちわかるだろ? ……俺、泰雅がそばにいてくれるから、安心していられるんだぜ?」
俺は、泰雅のご機嫌取りをするつもりではないけど、いつも泰雅がそばにいてくれることで、どれだけ俺が安心しているのか伝えた。
小学生の時に出会ってからずっとそばにいてくれたおかげで、今少し離れる時間があっても大丈夫って思えるんだ。
「そういうところだ」
「ん? なんだって?」
「……風呂が沸いたから入ろう」
どういうことかと尋ねたのに、お湯はり完了の音声が聞こえてきて、うまくはぐらかされてしまった。
「なんだよー、教えろよー」
「夜……教えてやる」
「夜? よくわかんないけど、ちゃんと教えろよー!」
俺は意味ありげに笑う泰雅の、背中に抱きついた。




