12 ヒート
高校生活後半は色々あったけど、俺たちは無事卒業した。
オメガと判明してからオンラインに切り替えていたけど、やっぱり卒業式には出たくて泰雅に相談したんだ。少し心配はされたけど、二人で卒業式に出ることを決めた。
俺は、泰雅との思い出の詰まった高校を、一緒に卒業できて嬉しかった。
そして今日は、朝からT大学のオメガ寮で荷解きをして、買い物にも行く予定になっている。寮にはちょうど空き部屋があったから、少し早めに荷物を運び込めることになったんだ。
家具家電付きなので、大きなものを準備しなくていいのは本当に助かる。
新たな生活の始まりだ! って気合いを入れて荷解きをしてたんだけど、なんかさっきから体の調子がイマイチなんだ。……この感じ、覚えがある。
「泰雅〜。なんか、ちょっと熱いかも……」
部屋の外にいる泰雅のところに向かおうとしたら、同じタイミングで泰雅が部屋の中に入ってきて、俺のうなじに顔を近づけた。
「やっぱ、匂う?」
「ああ。今日は出かけるのはやめておこう」
「わかった」
先月擬似ヒートを体験しているから、今回はこれがヒートの前兆なんだと、すぐわかった。幸いまだ余裕があるので、今のうちに急いで準備をしないといけない。
「寮の管理人さんに連絡を入れてから、必要なものを準備してくる」
「ありがとう、よろしくな」
擬似ヒートの時はなんか急に不安になって、泰雅に離れないでほしいって思ったけど、今はまだ大丈夫だ。
俺は鏡の前に立ち、大きく深呼吸をした。
本当のヒートは、この前とは比べ物にならないんだろうな。そう考えるとちょっと怖いけど、やっと泰雅と番になれると思ったら、嬉しくてしょうがない。
幸せな気持ちに包まれながら、泰雅の帰りを待った。
「圭太、昼飯買ってきたぞ。今のうちにしっかり食べておかないと」
俺は、泰雅が置いていったタオルを、いつの間にか手にして、うとうとしていたみたいだ。泰雅に声をかけられて、もうお昼になっていることに気づいた。
「あー、泰雅、おかえり」
「ただいま。圭太はこっちに座って」
テーブルを挟んで泰雅の前に座らされ、目の前にはお弁当が置かれた。お弁当は美味しそうなのに、泰雅と離れて座るのが納得いかなかった。
手を合わせて「いただきます」と言った泰雅の横に移動すると、おもむろにその膝に座った。
「なんだ圭太、一緒に食べるか? ほら、あーんして」
「あーん」
泰雅は「可愛いな」と言うと、俺の頭をなでながらお弁当を口に運んでくれた。……けど、なんか違う。
「泰雅のご飯のほうが、おいしい……」
もちろんお弁当は美味しいのに、物足りなさを感じてしまった。だって、泰雅の愛情のこもった手料理の味を知ってしまったから。
「お祝いのときに、またオムライス作るから」
本当は、毎日だってオムライスを食べたい。けど、泰雅がお祝いでというなら、それまで我慢する……。
「泰雅。俺、なんか眠いのかな。頭がふわふわしちゃって、ちゃんと目を開けてられないんだ……」
「そうだな、今のうちに少し寝ておくといい」
「後で、起こしてくれよ……」
俺は、眠い頭でそう言うと、フラフラとベッドに向かい横になった。泰雅の匂いのするタオルを握りしめたまま、ふわふわした意識のまま眠りに落ちた。
あれ……熱い……。
今まで感じたことのない熱さを感じて、目が覚めた。体も頭の中までも熱い気がするし、心も落ち着かない。
「たいが……?」
急に不安になって、泰雅を呼んでみたけど、返事がない。
なんで? ずっとそばにいるって言ったじゃん……。
泰雅が恋しくて、這いずるようにベッドから降りようとした。……けど、直後にドスンと鈍い音がして、衝撃が遅れてやってきた。
「……っ、痛い……」
冷たいフローリングに放り出されて、ようやくここが床の上だと気づいた。
ぶつけた肩がジンジンと痛い。……でも、それ以上に、泰雅がいないことが心細かった。
「たいがぁー!」
今度は、もっと大きな声で呼んでみた。気づいて、早くきて! 祈るような気持ちで、泰雅の名を叫んだ。なんでこんなに寂しいんだろう。涙が出そうになる。
「圭太!」
バタンと扉が大きく開いて、慌てた泰雅が飛び込んできた。
床に座り込んでいる俺を抱き上げ、ベッドに戻した。
「ごめん、圭太。すぐ来れなくて」
「たいが、たいが……!」
俺は、思い切り泰雅に抱きつき、めいっぱい息を吸い込んだ。
泰雅の匂いだ……。大好きな匂いだ……。
何度も何度も吸い込むうちに、さっきまで感じていた不安は、スーッと消えていった。
「ごめんな、寝ているうちに、作り置きの料理を作ってたんだ」
「りょうり……?」
「後で、少しずつ食べよう」
そっか、泰雅の料理を食べられるのか……嬉しいな。
でも今は、泰雅の匂いをずっと嗅いでいたい。
泰雅がまたどこかにいってしまわないように、もっと強く抱きついた。
「大丈夫、圭太のそばにいる。俺はどこにもいかない」
俺の気持ちは、全部泰雅に伝わっているんだ。不安にならなくてもいい、寂しくならなくてもいい、安心していいんだ……。
ふにゃりと力の抜けた俺を、泰雅は優しく包み込んでくれた。そしておでこや頬、あちこちに啄むようなキスが降ってきた。
それだけで、全身が蕩けてしまいそうだ。
「たいが……だいすき……」
体から溢れ出てしまうくらいの幸福感で満たされた俺は、ぼんやりしたまま泰雅の顔をじーっと見つめた。
泰雅となら、何も怖くない……。
「圭太、大切にする」
耳元で囁かれた声に、一気に体温が上がる。
再び啄むようなキスが降ってきた後、最後に唇に触れた。
俺は、夢心地のまま、泰雅に身を委ねた。




