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ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました  作者: 一ノ瀬麻紀


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11 番《つがい》の約束

「昨日は朝から熱っぽくて、もしかしてヒートかな? って思ったんですけど、今日の朝には頭もスッキリして、普段通りなんです」


 俺は、泰雅(たいが)の付き添いでバース科を受診し、担当の先生に昨日の症状を伝えた。泰雅がヒートだと言ったのは覚えている。でもそのあとの記憶が曖昧で、気づいたら今日の朝だったことも、合わせて伝えた。


「検査結果も問題ないですし、おそらく擬似ヒートですね」

「擬似ヒート?」

「後天性の場合、体がオメガの周期に慣れるまで、こうした『予行練習』のような反応が出ることがあるんですよ」

「予行練習……」

「近いうちに本格的なヒートがやってくると思いますよ」


 担当の先生は優しく微笑み『順調ですね』と言いながら、カルテに書き込んでいた。


 病院からの帰り道、俺たちはいつもの公園に寄った。平日の昼間だからか、公園には誰もいなくて静かだった。


「予行練習だから、一日で終わったのか〜」

「少しずつ、体を慣らしていってるんだな」

「ベータだった俺が、こうやってちゃんとオメガになっていくのって、まだなんか不思議な感じだ」


 俺はそう言いながら、自分の体をペタペタと触った。

 多少のトラブルはあったけど、昨日まではベータだった時とほとんど変わらず過ごしてきた。だからどこかで、本当にオメガになったのか? って思ってしまうこともあったんだ。


 けど昨日の擬似ヒートは、まるで自分の体じゃないような感じだった。……怖いような、でも体の中から込み上げる幸せな気持ちも溢れていた気がする。

 泰雅が、ずっとそばにいてくれたから、ヒートと向き合えたんだろうな。

 今度は、曖昧な記憶じゃなくて、しっかりと幸せな時間を過ごしたいって思った。


 俺が昨日のふわふわとした記憶を辿っていたら、横に座っている泰雅が俺の肩にそっと手を置いた。


「なぁ、圭太(けいた)。次のヒートが来たら……」

「……来たら?」


 泰雅が言おうとしていることは、多分俺が思っていることと同じ。泰雅の緊張が、俺にも伝わってくるようだ。

 わずかな沈黙が流れたあと、泰雅は大きく深呼吸をし、大切そうに言葉を並べた。


「圭太……俺たち、(つがい)にならないか?」


 泰雅のまっすぐな瞳が、俺を射抜く。こんなに熱い視線を向けられたら、「今すぐにでも」って答えたくなってしまう。


「俺も、考えてた。……泰雅、俺と番になろうぜ」


 本当のヒートはもうすぐくるはず。それがいつなのかはわからないけど、もう俺の心は、ずっと前から決まっていたのかもしれない。

 俺の返事を聞いて、泰雅はふぅと肩の力が抜けたようだった。


「俺は、他のアルファとは違う。……一生、圭太だけだ」


 最近の泰雅は、俺が不安にならないように、ちゃんと言葉にしてくれるようになった。今だって、俺の気持ちを考えて言ってくれたんだと思う。


 番契約は結婚と同等……いや、それ以上の結びつきだと聞いた。なのに、アルファからは番の解消ができるらしく、オメガは一生に一度。そんな大きな決断を俺に迫るのだから、泰雅だって緊張したと思う。


「俺は、泰雅のことを信じてる。……大丈夫、不安なんてないさ」


 俺の肩に置かれた泰雅の手を、力強く握り返した。



 いつ本格的なヒートが来るかと、そわそわして落ち着かなかった。『大事な試験の時だけは避けてくれ!』と祈る日々だったけど、俺は無事T大学の二次試験を受けることができた。


 そして無事に合格し、今日、俺の元に合格通知が届いた。

 合格発表当日は結果を見るのが怖くて、泰雅と一緒に確認してもらった。合格を確認した時の喜びと、ぎゅっと握りしめた手の温もりは、一生忘れないと思う。


「泰雅、届いたぜ! ネットで結果は見てたけど、実際に書類が届くと嬉しいなぁ!」

「おめでとう。今日はお祝いしよう」

「やったぁ! じゃあさ、オムライス作ってくれよ」

「オムライス? そんなのでいいのか」

「泰雅の作ったオムライス、マジうまいんだって!」


 せっかくのお祝いだから、どこかに遊びに行ったり、外食をしたりするのもいいと思う。けど俺は、一番の好物『泰雅お手製オムライス』をリクエストした。


「わかった。じゃあ、ちょっと買い物をしてくるから、待ってて」

「了解! 気をつけてな!」


 俺は泰雅を送り出すと、クローゼットの奥底にしまっておいた、パーティーグッズを取り出した。

 自分の合格祝いの飾り付けを自分でやるのも変な感じだけど、楽しければなんでもヨシ! 俺は鼻歌を歌いながら、飾り付けをした。


「なんだ……これ?」


 帰ってきた泰雅は、『合格おめでとう! 俺!』と手書きで書かれた横断幕を中心に、キラキラと装飾された部屋を、困惑した様子で眺めていた。


「俺の合格祝いの装飾! いい感じだろ? 今日のために準備しておいたんだ〜♪」

「ぷっ……ははは!」


 泰雅は自慢げに鼻を鳴らす俺を見て、買い物袋を抱えたまま、おかしそうに笑った。


「うん、今日も俺たちは平和だ!」


 俺は楽しそうに笑う泰雅を見て、俺も一緒になって笑った。

 人生いろいろあるけど、きっと今日もいい日になるさ。


 それから俺は装飾の続きをし、泰雅はオムライスを作ってくれた。『合格おめでとう』のメッセージつきだ。


「おめでとう、圭太。ほら、あーんして」

「あーん」

「どうだ?」

「んまっ! やっぱり泰雅のオムライスは世界一だぜ!」


 動物園デートの時のように、俺たちはお互いに「あーん」と食べさせ合った。やっぱり何倍も美味しくなる。


「明日、大学に書類を届けに行こう」

「そうだな。これ食べたら色々書かないとな」


 大学へ出す書類の中には『番届け』もある。泰雅との仲も一層深まる気がして、俺は自然と口元がゆるんだ。

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