02-04.浴場会議
「シクシク……シクシク……」
「なんだろうねぇ。これは」
お姉ちゃんが私の身体を撫で回して原因を調べている。
私は今、その感触を一切受け取れずにいる。私の全身を謎の膜が覆い尽くしているのだ。そのせいで服ごとお風呂にダイブしても一切濡れることはなかった。逆にこの状態でおしっこしたらどうなるんだろう。気になる。
『わたくしも気になるのだわ♪ 試してみるのだわ♪』
やだよ!?
「折角のお風呂なのにぃ~~! 初めてだったのに~! うわ~~~ん!!」
「困ったね~」
軽いぜ! お姉ちゃん!
「……お前は誰だ」
え?
「……違う。そんな筈はない」
……騎士……様?
「私の知るトリスティアは公爵令嬢だ」
それは……聞いたけど……。
「……私には知識しか無いが……それでも違うとわかる。言い切れる」
「……私にはトリスティアの記憶が無いんだよ」
「そうではない。お前は別人だ」
「……そうだよ。私は七草 菜沙。トリスティアじゃないよ」
「……それはどういう意味だ」
「どうもこうも。私とトリスティアは別人なんだよ。私にもよくわからないけど……」
「……いつからだ?」
「半年くらい前」
「……」
騎士様は考え込んでしまった。
私の言葉を信じてくれたのだろうか。
「あんた異世界人かい?」
えぇ!? お姉ちゃん知ってるのぉ!?
「どうりでねぇ」
「なんで!? お姉ちゃんなんで知ってるの!?」
「それがね~……」
珍しい。お姉ちゃんが言い淀んでる。
そう言える程一緒にいたわけじゃないけどさ。
「……あいつ。わざと言わなかったんだね」
あいつ?
「もしかしてルクス君のこと?」
「……あ~……今のは聞かなかったことにしておくれよ」
「そうはいかん。知っていることを話してもらおう」
「アタシから一本取れたら考えてやるよ♪」
「っは!! きゃうんっ!?」
一瞬の早業だった。
躊躇も前置きもなく、いきなり仕掛けた騎士様。
あっさりと避けて背後に回り込み、そのまま騎士様の両胸を揉みしだくお姉ちゃん。
「ふむふむ♪ 良い身体してるじゃないか♪」
「くっ! 離せ!!」
「どうだい? 弟の嫁にこないかい?」
「断る!!」
「あっはっは♪ またフラれちまったねぇ♪ 我が弟ながら全然モテないねぇ♪」
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「くしゅんっ」
「うむ」
「う~ん……風邪じゃないと思うよ~」
「うむ」
「うん。誰かが噂でもしてたんじゃないかな」
「うむ」
「うん。勇者だからね。そろそろ恋人の一人くらい出来るかもしれないね」
「……うむ」
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「でだ。これは魔術によるものじゃないかね」
「可能性は高い。トリスティアは王国随一の魔術師であった……そうだ」
「そうなの? けど私には魔力が無いんだよ?」
「代償として差し出したのかねぇ……」
「代償?」
「特別な力を得るには相応のものを支払うのさ」
「それも魔術なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言い切れん。ものによりけりだ。しかしその取っ掛かりを見つけ出せるのは魔術師に限られる……らしい」
「騎士ちゃんよく知ってるねぇ♪ けどこっからは専門家のアタシに任せとき♪」
「「専門家……」」
魔術を纏って殴り掛かるのって、真っ当な魔術師と呼べるのだろうか……。
「魔力ってのは基本なんでもできる。……そうさね。ナズナの大好きな騎士様が身にまとっているのも魔力さね」
そもそも纏っていることすら知らなかったよ。妙に頑丈だとは思っていたけど。
「けど見たとこ、他の魔術は使えんだろ。騎士ちゃんは」
「……クラウディアだ。他は扱えん」
「なんで? クラちゃんも魔力は扱えるんでしょ?」
「クラウディアだ」
「魔術ってのは才能次第なのさ。その出力方法は人によってマチマチでねぇ。クラちゃんみたいに身に纏うのが得意だと前衛職に就く子が多いねぇ~」
「クラウディアだ!」
「クラちゃ」
「ク・ラ・ウ・ディ・ア!」
「……騎士様には魔術の才能が全く無いってこと?」
「ナズナの言う魔術ってのはあれかね? 詠唱して、呪文唱えてみたいな」
「うん。お姉ちゃんみたいなやつ」
「ルクスと同じ誤解をしてるんだねぇ」
ルクスって言った。口滑らせた。
「中にはあるよ。知識さえあれば誰でも扱える魔術ってのもね。そういうのを学問として修めた者を魔術師って呼んだりもするねぇ。けどねぇ。魔術ってのは、必ずしも術式が定義されてるわけじゃないのさ。個々人の資質に合わせて千差万別。それがこの世界の魔術ってやつなのさ」
世界って言った。やっぱルクス君なんでしょ。
「なら私のこれも魔術ってこと?」
「にしては強力過ぎるねぇ」
「それで代償魔術?」
「飲み込みが早いねぇ♪」
ぐぬぬぅ!
折角お姉ちゃんがナデナデしてくれたのにぃ!!
なんも感じん!!!




