05-01.新生魔王国
ティアは自ら魔王を名乗りだした。
私はティアから離れられない。ティアから忘れられてしまうのが何より怖い。だからティアの作戦は理に適っている。私を縛り付けるには最高の一手だと言わざるを得ない。
だから私は今もここにいる。新たな魔王様の直ぐ側で、何ら仕事をすることもなく居座り続けている。
困ったものだ。本当に。
「皆勝手なことばっかり言うんだから」
「ナズナ様を愛するが故ですわ」
「わかってるけどさ~」
本当にわかってはいるんだよ。感謝もしてる。
何も出来ない私が皆の決定にとやかく言う権利なんて無いってことも重々承知しているつもりだよ。
「お散歩に行くのですわ♪」
「行かない」
「ダメなのですわ。ティア様から頼まれているのですわ」
ティアったら。よりによってあんなに警戒していたモルモルを私のお目付け役にするだなんて。いったいどういうつもりなんだか。
「ナズナ様らしくないのですわ」
「モルモルは気にしなさ過ぎでしょ」
「魔族とはそういうものですわ」
「そういう大雑把な括りは良くないと思うの」
「違和感を感じるのは外から見ているからなのですわ。ナズナ様は魔王ティア様の伴侶。すなわち魔族なのですわ。郷に入っては郷に従えですわ」
おおざっぱ~。
「ところで伴侶って?」
「? 違うんですの?」
いやそこで首を傾げられても。聞いてるの私だよ。
「魔王様が告知なされましたわよ?」
外堀埋められてるぅ~。
「ティアったら私を逃さない気満々じゃん」
「今更何を言ってるのですわ」
ぐぬぬぅ……モルモルに言われるのは何か腹立つぅ……。
「ティア様は凄いんですのよ♪ 早くも魔族を束ねてしまわれたのですわ♪ 混乱した王国の政務も、その類まれなる知性によって瞬く間に建て直してしまわれたのですわ♪」
あらま。意外な才能……でもないのかな? トリスティアは元々、幼少期から王妃教育を叩き込まれていたわけだし。
ティアはトリスティアの記憶は持っていないようだけど、身体が覚えているってやつなのかも。ティアの意識のベースって間違いなく私じゃなくてトリスティアだもんね。エピソード記憶が無いだけで、手続き記憶は共有しているのかも。
改めてそう考えると、トリスティアは無意識に書き込まれる程政治の勉強なんかを頑張っていたんだよね。けどそれをぽっと出の男爵令嬢なんかに横取りされちゃったんだ。
本当に酷い話だ。そもそも国は大丈夫なんだろうか。王妃一人の不甲斐なさで揺らぐ程脆いとは思えないけど、だからって小さな影響でもない筈だ。間違いなく混乱するだろう。今頃とっくに滅んでいたりしてね。
「モルモルはどう思う?」
「ですからティア様は」
「じゃなくて。かくかくしかじか」
「……なるほどなのですわ。合点がいきましたわ」
「それで? どうなってると思う?」
「その情報だけではなんとも言えませんわね。ただ滅ぶ可能性も当然考えられますわ。その最たるものとしては王子の求心力低下などが考えられますかしら。トリスティア様が大変に優秀な方であったのは疑う余地もありませんわ。そのような者を一方的に排除したとなれば、ご実家も黙ってはおりませんでしょう。おそらく王子の婚約者とあらば公爵家や侯爵家……それなり以上に力持つ大貴族で間違いありませんわ。王家であろうと簡単には抑え込めぬでしょう。となると先手を打ったと考えられますわ。御息女が追放されている以上、ご実家にも何らかの罰を与えたものと思われます。そこで当然反発も起こるでしょう。最終的に内戦へと繋がったとしてもおかしな話とまでは言い切れませんわ。国が混乱すれば周辺諸国からの侵攻も考えられますわ。内戦だけでは滅亡にまで至らずとも、周辺諸国から隙を突かれた結果として滅びる可能性は十分に考えられますわ。いっそこちらから誘導してしまうのは如何でしょう? そんな国は滅ぼしてしまうに限りますわ♪ ナズナ様のご懸念が消えるのであれば安いものですわ♪」
お、おう……え……?
「も、モルモルって……そういうのわかるんだね……」
「どういう意味ですの? まさか私を本当に馬鹿だと思われているんですの?」
「い、いや。そんなことはないんだけどさ。むしろ頭良すぎてびっくりしたというか。よくスラスラ出てきたね。別に魔族がそういう政治の仕方をしてるわけでもないんでしょ?」
「人間の政治を学ばぬ理由はありませんわ。戦争には必要な知識ですもの」
そうね。そうだろうけどね。
「なんだか腑に落ちていらっしゃらないようですわね」
「そんなことはないんだけどね」
本当だよ?
「たださ……」
「?」
「……ううん。なんでもない。ありがとう、モルモル。参考になったよ」
「それは何よりですわ♪ では早速♪」
「ダメだからね。スパイとか送らなくていいから。戦争の火種とか仕込まなくていいから」
「善処いたしますわ♪」
おいこら。




