04-17.抱えきれない負債
「そっか……トリスティアと……」
結局話せなかったんだね。それはまあしょうがないか。
「ありがとう。ユーキちゃん」
「申し訳ございません。ナズナ」
「謝らないでよ」
失敗とも言い切れないと思うよ。普段のトリスティアならとっくに逃げ出していただろうし。理由はわからないけど、何故だかここに留まることを自ら選んだみたいだし。
「問題は魔族たちだよね」
いっぱい殺しちゃったよね。
「彼らも覚悟の上です」
「それは魔王を決める戦いのためならでしょ。本当なら無駄な殺しは厳禁だった筈なんだし」
「話は簡単なのだわ」
「まさかティア」
「そのまさかなのだわ♪ ナズナが魔王になるのだわ♪」
責任を取れと? けど無理でしょ。魔王国から離れた人たちは私を忘れちゃうんだから。
「問題ないのだわ。『魔王』という記号は忘れないのだわ」
……なるほど。それならなんとかなる? 本当に?
「私は一生幽閉されるの? 魔王という立場とこの城に?」
「けれど居場所は出来るのだわ」
「わからないよ。トリスティアの気が変わるかもしれない。きっと強い繋がりは嫌う筈でしょ。彼女の扱う力は……私の無敵は、孤独だからこそ成立するものなんだし」
「戦う必要が無くなれば問題無いのだわ」
「どうかな」
あり得ないとまでは言わないけど、その根拠は薄いよね。
「安心してください。ナズナ。彼女の力は魔族が百年かけても到達し得ぬものです。多少力が損なわれたとしても届き得る者は現れぬでしょう」
「死ぬまでは安泰? だから安心して皆を危険に晒せと?」
「はい。その通りです。ナズナ」
「ユーキちゃん。私は言った筈だよ。あなたはわかっている筈だよ。忠誠なんか求めてない。ユーキちゃんは私の家族だよ。家族の安全を願うのは当たり前のことでしょ」
「家族の幸せを願うのも当然のことですよ。ナズナ」
だからって何をしても良い訳が無いよね。
「騎士様はどう思う?」
私とユーキちゃんだけじゃ並行線っぽいし。何故かティアはそっち側みたいだし。ちょっと分が悪い。ここは仲間を集めよう。だから頼むよ。騎士様。
「魔族ならいくら殺しても構わんぞ」
「騎士様!!」
「そう怒るな」
怒られるのわかってて言ってるんでしょ! もうわかってるんだからね!
「勘違いするな。ナズナ。お前はあいも変わらず誅すべき悪だ。その悪が人類にとっての悪である魔族を滅ぼそうとしてくれているのだ。どこに止める理由がある。私は本気だぞ」
「尚悪いわ!!」
もう! ブレッブレなんだから!!
「モルモルは私の味方だよね!」
「にゃ~ん♪」
よろしい!
「これは敵味方の話じゃないのだわ。皆ナズナの味方なのだわ」
「わかってるよ。そこはありがとう。本当に感謝してる。けどさ。私は幸せになりたいけどさ。誰かを犠牲にしてふんぞり返っていられる程強くはないんだよ。だからいつか絶対逃げ出すよ。散々皆を苦しめた後で、自分だけが救われるためにまた当てもなく旅を続けるんだよ」
だからダメなんだ。今の私が社会で暮らすなんて。ましてや、多くの人々を従える立場になんてなっちゃダメなんだ。
そんな責任は負えないんだから。私が一番理解しているんだから。
「ナズナのせいじゃないのだわ!!!」
ティア……。
「何一つ!! ナズナのせいなんかじゃないのだわ!! あなたは巻き込まれただけなのだわ! 責任なんてこれっっっっぽっちも!! 無いのだわ!!」
「……そんなことないよ」
「あるのだわ!! 素直になるのだわ!!! もっと我儘を言うのだわ!!!」
「私が我儘言ったからここまで来たんだよ」
「足りないのだわ! そんなの我儘とは言わないのだわ! ナズナはルクスに会いたかっただけなのだわ! アルバを手伝っただけなのだわ! トリスティアを呼び出したのは騎士様とユーキなのだわ! ナズナの意思じゃないのだわ!!」
「違うよ。私も同意したんだよ。そもそも、あの時ティアはいなかったじゃん」
「そうなのだわ! わたくしはもう直死ぬところだったのだわ! 水も食料もなく三日間暗闇を彷徨っていたのだわ! わたくしを助けるためには必要なことだったのだわ!! だからナズナは何も悪くないのだわ!!」
……強引だなぁ。
「この世界に来たのはあなたの意思じゃないのだわ! 全てを失ったトリスティアなんかに転生したのはあなたの選択じゃないのだわ!! トリスティアの業をナズナが背負う必要なんてないのだわ! それが過去のものか現在のものかなんて関係ないのだわ!! トリスティアはまだ生きて好き勝手やってるのだわ! あなたよりずっと我儘なのだわ! 好きなことだけしてナズナを苦しめても知らんぷりなのだわ! そんな奴のしたことに心を痛める必要なんてないのだわ!」
「……ティアを助けてくれたのはトリスティアだよ」
「だったら感謝だけしてればいいのだわ! 責任はトリスティアのものなのだわ! それくらいの我儘は言うべきなのだわ! ナズナにはその権利があるのだわ!! 抱えきれないとわかっているものを抱える必要なんてないのだわ! そっちの方がよっぽど無責任なのだわ! それは我儘とは違うのだわ!! 傲慢というのだわ!! あなたが本当に嫌がってるのはそういう傲慢さなのだわ!!」
……困ったなぁ。




