04-15.力不足
「……」
相変わらずの硬さだ。こちらの攻撃は何一つ通りはせん。
ナズナ……トリスティアは何故か真っ直ぐに進み続けている。そもそも目的はなんだ。何故この城から脱出しようとしない。黒獅子を殺すことに何の意味がある。……わからん。
ユーキはこうなることがわかっていたようだ。
「トリスティア! 止まれ! トリスティア!」
「……」
ダメだな。どうにも言葉が届いているような気配が無い。
トリスティアはただ前だけを見据えて歩みを進めている。
狙いはやはり黒獅子なのか? この二人にそれ程の因縁は無かった筈だが……。
「ナズナ! 目を覚ましな!!」
炎を解いたアルバが正面から抱き止めた。
しかしトリスティアは意に介さない。アルバの膂力でもビクともしていない。その歩みを止めるには力が全く以って足りていない。
私もアルバと共にトリスティアを全身で抑え込んだ。薄々わかってはいたが二人がかりでも止まる気配はない。ユーキも加わって三人がかりになってもそれはかわらない。
刻一刻とトリスティアは黒獅子の下へと歩みを進め続けている。そこには殺意も何も感じ取れない。
唯一幸いなのは、我々三人に対しては攻撃するつもりがないことだ。こうして邪魔をしていても……実際出来てはいないのだが、ともかく排除するつもりはないらしい。
やはりトリスティアには、ナズナの大切な人物を直接的に害する意思は無いようだ。
「何か妙です! 彼女の力は身体能力の強化に適したものではない筈です!」
それ以前に重量はどうなっている。どれだけ力があろうとも、トリスティアの体格では高が知れている。踏ん張っているならともかく、彼女は歩き続けているのだ。我々に止められない筈がない。
「持ち上げられないか!?」
「「「せーの!!」」」
ダメだな。びくともせん。
まるで滑るように力が抜けてしまう。
「そもそも接触出来ていないのです! 止めるための力が加わっていないんです!」
細かい理屈はよくわからん。
「落としましょう!」
「はいよ!」
アルバが再び炎を纏い、力強く地面を殴りつけた。
「硬いね~!」
「もう一度! 今度は補助します!」
ユーキの放った闇がアルバを包み込み、全身を真っ黒な炎で覆ったアルバが再び渾身の力で床を殴りつけた。
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「ナズナ……ここはどこなのだわ……ナズナ……」
この暗闇を彷徨い始めてからどれだけの時間が経ったことだろう。
飢えと渇き。本来感じる筈のないものが我が身を苛んでいる。
扉を潜ったことまでは覚えている。けどその後がわからない。気付いたら暗闇に閉じ込められていた。外へ出られないどころか、どこに扉があるのかもわからない。
適当な壁をすり抜けようにも、何故かそれが出来なくなっている。
そもそも、わたくしは今歩いている。歩き疲れてへたり込んでいる。浮き上がることが出来なくなってしまった。
「ナズナ……ナズナ……ナズナ……」
もう出来ることは何もない。ただ座り込んで名を呼ぶだけだ。わたくしには最早それしか残されてはいなかった。
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「扉が開かぬ……」
そんな筈はない。そんな筈は無いのだ……。
この先に試練がある。乗り越えた者には力が与えられる。挑むことが出来るのは年に一度。今日この日であることに間違いはない。
「……まさか」
先を越された? 誰に? 誰が挑んでいる?
「そんな筈が……しかし……」
考えられぬ。既に封印は解かれている。我が解いたのだ。つい今しがた。それまで厳重な封印が施されていた。それ以前に侵入した者などおる筈もない。……ないのだが。
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「ナズナ様! 目を覚ましてくださいまし!!」
なんですのこの状況!? 城中血塗れなのですわ!?
これ全部本当にナズナ様がやったんですの!? 信じられませんわ!!
「モルレティア! あなたも降りてきてください!!」
本当に大丈夫なんですの……ええいままよ! ですわ!
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「ナズナ様♪ ナズナ様の大好きなおっぱ……げふん!?」
なんだあいつ。ようやく来たと思ったらすぐに吹っ飛ばされたぞ。
幸い命は無事なようだ。あんなでも、やはりトリスティアは傷つけぬのだな。ナズナが少しでも心を許した相手には。
「まったく! 巫山戯てる場合ですか!!」
「構うなユーキ!」
「でもナイスアイディアだねぇ♪ ナズナ♪ ほ~れ♪ お姉ちゃんの」
「「やめんか!!」」
どいつもこいつも!
謁見の間から落下し、下の階層に落ちてきたまでは良かったのだが、トリスティアは相変わらず構うことなく歩き続けている。その目的は今を以ってしてもわからない。
そもそもだ。私たちの目的はトリスティアとの意思疎通を計ることだ。この力を制御し、ナズナを孤独から解放することだ。そのために真の魔王となった黒獅子の力も借りようとしているのだ。奴がとっとと力を手に入れれば済む話だ。
いったいいつまで時間をかけている。まだ扉とやらは開かんのか。奴には真の魔王たる資質なんぞ無いのではないか?
ならばいっそトリスティアに開けさせてみてはどうだ?
どうせこのまま止められそうにもないのだ。
折角下に落としたのに、あっさり瓦礫で階段を作って登り始めたのだ。器用なことをするものだ。本当は喋れるのではないのか? 馬鹿げた策だと一蹴してしまったが、案外と色仕掛けも通じるのではなかろうか。半分はナズナなのだし。
「作戦変更だ! ユーキ!」




