04-14.集結・最高戦力
「何事だ」
城内が騒がしい。灰燼が再び攻めてきたにしては妙だ。まるで城の内側から生じたようだ。
まだ見落としていた隠し通路でもあったのだろうか。ユースティキアならば知っていても不思議はない。先日仕掛けてきたのは注意を正門に向けさせるためか。やはり侮れんな。
「閣下! 止まりません!! 奴が! 奴が来ます!!」
なんだ。いったい何が来るというのだ。
なんだこの部下たちの怯えようは。いったい何を目にしたのだ。
「貴様か……」
奴は正面から乗り込んできた。咽そうな程濃い血の匂いを纏わせながら、謁見の間の扉を引き裂いて歩み寄ってきた。
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「……」
トリスティアは相変わらず口を開かない。ただ向かい来る魔族たちを圧殺していくだけだ。目に見えない圧力が何もかもを押しつぶしていく。時にはそれを刃のように、或いは爪痕のように放って引き裂いていく。
城は地獄と化していた。あくまで継承争いは魔王候補同士の勢力争いだ。皆殺しにするのが目的ではない。だから魔族たちは戸惑っている内に殺されていく。
灰燼の部下の一人に過ぎない少女が、遠慮容赦なく暴れまわっている。わかるのはそれだけだ。何故命まで奪われているのかもわからない。どうすれば止められるのかもわからない。ただわかるのは、自分たちでは決して勝てやしないということだけだ。魔力どころか何の力も感じない少女一人に屈強な魔族たちは心の底から震え上がっていた。
人知の及ばぬ怪物はただ前へ前へと歩みを進め続けた。
血の海と亡骸の山を築きながら、遂に首領の前へとその姿を表した。
「貴様か……」
黒獅子は問いかける。
「……」
しかし少女は答えない。
「閣下をお守りしろ!! 決して近づかせるなぁ!!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉおおおお!!!」」」」」
その身を呈して黒獅子を守らんとする部下たち。
「やめろ! 下がれ貴様ら!!!」
黒獅子の焦燥すら混じった静止の声は間に合わなかった。
精鋭たる部下たちは悲鳴をあげる間も無く塵と消えた。
「ナズナ!! あんた何やってんだい!!」
灰燼が大窓を突き破って空から降ってきた。
後からユースティキアが飛び込んでくる。城の混乱に乗じて、結界の消えた城内に直接乗り込んできたのだ。
「これが! 想定以上ですね!」
「ユーキ。まさか策というのは?」
隣に降り立ったユーキに騎士が問いかける。
「その通りです! クラウ! そしてベルファディア! 休戦です! 捕らえたモルレティアも呼び出してください! 彼女も役立つ筈です!!」
「貴様! 我らを利用するか!!」
「あなた一人では止められませんよ!」
「くっ! 時間を稼げ! 我は扉を開く!!」
「良いでしょう! 聞きましたね! クラウ! あなたが要です! 灰燼様も! どうかご助力を! ですがお気をつけて! 今でもあなたが保護対象であるかはわかりません!」
「はいよ!」
ユーキの狙いは元よりトリスティアの制御にこそあった。それが新たな主と定めたナズナの真の望みであるからだ。
彼女は孤独を恐れていた。普段どれだけ明るく振る舞おうと、いつも忘却に怯えていた。
いずれ必ず誰からも忘れ去られる。そんな残酷な運命に抗おうともせず、どこか諦め、受け入れていた。
また思い出させればいい。もう一度新しい思い出をつくればいい。それは彼女なりに前を向いた結果ではあったのだろう。しかしいつしか逃げ道へと変わってもいたのだろう。
ユーキにはそれが許せなかった。彼女の正義はナズナの逃避を見逃しはしなかった。
だからこの場を作り上げた。魔王国に現存する最強の戦力とナズナの愛する者たちが集まるこの状況を。
最初から継承争いになど興味は無かった。誰も彼もがその真意を見抜けなかった。ベルファディアが扉を開くと聞いた時、彼女は真っ先に利用することを思いついた。その力があればトリスティアを抑え込めるかもしれない。そう考えた。
この真意を知っていたのはユーキただ一人だ。彼女は騎士にも灰燼にもその目的を伝えてはいなかった。
しかしこの場の誰もがそれを理解した。ある者はユーキとナズナをよく知るが故に。ある者はその賢しさ故に。
既に事は成っている。選択の余地はない。全てはユーキただ一人の計画通りに。ただ一つの結果を目指し、誰も彼もが死力を尽くすだろう。




