01-04.騎士と旅人
「ご協力に感謝いたします!!」
騎士は衛兵たちに見送られ、現場を後にした。
近い内にこの地の領主から呼び出されるだろう。代官はそう強く引き止めてきたが、騎士にとっては到底聞けぬ話であった。
生憎だが、騎士に休息の時間は無い。どれだけ歓待を約束されていようとも、莫大な報酬が支払われようとも、騎士が目指すべき道から逸れる事は断じて無い。
騎士は追い続けねばならない。既に目標は旅立っている筈だ。随分と時間を費やしてしまった。今回もまた、いたずらに被害を広げるだけの結果となってしまった。
しかしそれでもだ。それでも尚、追い続けねばならない。騎士自身にも最早その理由はわからない。
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騎士は最初に宿屋を尋ねた。目標が宿泊していた宿屋だ。
「ナズナ? トリスティア? いえ。知りませんが」
「そうか」
彼女は痕跡を残さない。必ず関わった者たちの記憶を消してから去っていく。案の定、この宿の看板娘も既に彼女のことを覚えてはいなかった。
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騎士は再び旅に出る。彼女を追って。
行き先はわかる。進捗も。すぐに追いつけるだろう。
彼女は逃亡の素人だ。至る所に証拠を残していく。まるで見つけてくれとでも言わんばかりに。
昔はこうではなかった筈だ。もう少し苦労していた筈だ。噂を集めて必死になって追いかけていた筈なのだ。
いつからだろう。彼女がこんな逃げ方をするようになったのは。方々を駆けずり回ることもなく、見つけ出せるようになったのは。
記憶が曖昧だ。私の記憶も知らずの内に書き換えられていたのだろうか。あの看板娘のように。
おかしな話だ。わざわざ親しくなった相手の記憶を消してまで逃亡を続けているというのに。道に残る足跡には気を払うつもりがまるでない。
ナズナ……彼女は何者だ。
これは本当にただの偽名なのだろうか。
だとするなら、誰に対するものなのだろうか。
トリスティア・インヴィクタ。
かつては我らが祖国における、最も優秀な人物に数えられる程の傑物だった。
若くしてその才覚を発揮した彼女は、あらゆる魔術に精通していたにとどまらず、学問、武術、政治、いずれにおいても極めて優れた人物だった。……その筈だ。
……確かに私の記憶は彼女を覚えている。その知識を有している。しかし実体験として思い出せない。彼女程の人物を国で目撃した記憶がない。
やはり私の記憶もなんらかの影響を受けているのだろう。
彼女が偽名を名乗るのは、単純な逃亡生活故の備えではないのかもしれない。
彼女が痕跡を残すのは、誰かに認められたい心の発露なのかもしれない。
彼女は新たな居場所を求めているのかもしれない。これはそのための旅路なのかもしれない。
私が彼女を追い続けるのは、偏に彼女が危険だからだ。
彼女自身の思惑がどうであれ、彼女が世界に仇なす存在であることは紛れもない真実だ。
彼女を追い続けてきた私にはわかる。あれはいずれ、真に世界の敵となり得る存在だ。
放っておくことだけは断じて出来ない。決して。
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今日も二人の旅は続いていく。
一人はただ居場所を求めて。
一人はただ信念に身を委ねて。
彼女たちの旅は続いていく。
時にすれ違いながら。
多くの……或いは僅かばかりの人々を騒がせながら。
世界に確かな痕跡を残しつつ、二人の旅は続いていく。




