01-03.不可侵少女は敏感過ぎる
「くっ! 殺せ!!」
「「「「まだなんもしてねえだろ……」」」」
拘束される女騎士と若干戸惑い気味の悪党たち。
「貴様らは辱めるつもりなのだろう! 私は騎士だ! みすみす汚されるくらいならば潔く死を望む! 当然だろう!」
「「「「知らねえよ……」」」」
「おうおう。威勢の良い騎士様だなぁ」
「「「「あ、ボス」」」」
大柄な男だ。
賭博場をフロントに据えるインテリ系組織かと思いきや、ボス自身は腕っぷしでのし上がってきたタイプであったようだ。荒々しい佇まいの中に、確かな自信が見て取れる。
「気に入った♪ おめえ、俺様の女になれ」
「断る!!」
「そ、そうかぁ~……」
「「「「ああ! ボ、ボスがぁ! こ、このアマ! ボスは繊細なんだぞ! ハッキリ断りやがって!」」」」
「うるせぇぞ!! おめえら!!」
「「「「は、はい!! ボス!!!」」」」
なんだか締まらない。
「ま、まあいい。少しばかり時間をやろう。頭を冷やして考えてみるこったな」
「「「「それでこそボス! 諦めが悪い!」」」」
「んだとごらぁ!!!」
「「「「ひ、ひぃいい!!」」」」
う~ん。これはブレインが別にいるっぽい。
ナズナの愛する騎士様にも危険は無いようだし、他を探ってみるのだわ♪
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あ、おかえり。ティア。どうだった?
『何も問題無いのだわ♪』
問題無いとは如何な物言いか。
こうしてナズナちゃんが軟禁されてしまったというのに。
『けれど拘束すらされていないのだわ♪』
そこなんよ。なんでか皆出て行っちゃった。私をこの部屋に閉じ込めただけで。普通尋問とか落とし前とか何かあるだろうにさ。まさかの放置プレイ。これは想定外だ。いつも想定外だけど。
ガチャガチャ。
「出られないかぁ~」
ちゃんと鍵は掛かっている。
流石にそこまで甘くないか。
閉じ込められたのは比較的普通の部屋だ。牢屋とかあからさまな尋問室とかってわけでもない。かといって、資料が山積みで放置されているタイプでもない。
これは初めてのパターンだ。このまま忘れ去られて餓死するのは最悪のパターンだ。その前にアジトごと吹き飛ぶだろうけど。そうなればこの町には居られまい。折角ルルナちゃんとも仲良くなれたのに。いったいどうしたものやらだ。
『他も探ってくるのだわ♪』
あ、ちょっ……行っちゃった。
……ぐすん。
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「おい! 貴様!」
「はいはい。騎士さんよぉ。今度はなんだ~」
「即刻彼女を解放しろ! これは忠告だ!!」
「またかよ」
「お前たちは何に手を出したのかわかっていないのだ!!」
ずっとこればかり。よっぽどこの騎士にとって大切な人物なのだろうか。……これはひょっとして利用できるのでは?
ボスに提案……いや、ボスそういうの嫌うんだよなぁ。
あのいけ好かねえサディスト野郎と同類に思われんのもなぁ。やっぱ俺こういうの向いてねえんだよなぁ。田舎が恋しいぜ……。ふぁ~あ~……。
「おい! 聞けと言っているだろう!!」
「はいはい。伝えといてやるよ」
この騎士様の大切な人を傷つけて、ボスが増々嫌われても不憫だしなぁ。また泣くぞ。あの人。
……けどもう手遅れかもしんねえなぁ。あの野郎は目敏いからなぁ。
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「ああ! お嬢さん! 麗しの乙女よ!」
うわ……なんかキモいの入ってきた……。
「怖がらなくてよいのです! さあ! どうぞお手を! 今宵のダンス会場にお連れいたしましょう!!」
やばぁい……。鳥肌立ってるぅ……。
こいつぁやべえ……。嫌な予感とか生理的嫌悪感とかそういうちゃちなもんじゃ断じてねえ……。
絶対関わっちゃいけない人種だ。間違いない。
だからって碌な抵抗も出来はしないのだけど。
後ずさっていれば必ず限界はやってくる。私はあっけなく捕まってしまった。抵抗虚しく部屋から引きずり出されてしまった。
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連れてこられたのは先程より無機質な部屋だ。まるでこの男の心の中のように暗くジメジメとして冷え切っている。
……勝手な想像だけど。たぶんきっと間違いない。
しかもそれだけじゃない。強烈で生臭い、鉄のような匂いがする……。吐きそう……。
私の無敵ボディにもいくつか弱点はある。匂いまで完全に遮断してくれるわけじゃない。心を完全に守りきってくれるわけじゃない。ただ有耶無耶にしてくれるだけなのだ。
……もしかしたら。
……本物のトリウィアの心も、そうしてすり減っていったのかもしれない。どんなに強固なものにも必ず綻びは生じるものだから。隙間は必ず存在するものだから。
「お気に召して頂けたようですね!」
何故そうなる……。
「さあ! 共にめくるめく夜を巡りましょう!!」
うわきも!?
男は手術台のようなものに私を寝かせて、手慣れた様子で拘束していった。
……この男はまるで害虫だ。冷蔵庫の下から出てくる奴。
見るだけで言い知れぬ嫌悪感を抱かせつつ、巧みに隙間へと潜り込んでくる。
「怖がることはありません。ただの化粧直しです。ダンスに相応しい装いを身に着けねばなりません」
男が手に取ったのは大きなノコギリだ。うっとりと波打つ刃を見つめている。
「見てください。彼女はとても美しいでしょう?」
ノコギリに語りかけ始めた……。
「必ずやあなたを満足させてくれることでしょう♪」
頬ずりし始めたぁ……。
「さあ。始めますよ」
ひぃっ!?
男の頬がズタズタだ。
血を垂らしながら笑みを浮かべ、自らの頬を伝う血を舐め取りながら、血に塗れた刃を向けてきた。
「……おや?」
服の上から私の腕に刃を添えた男は、そこで思わぬものを目撃した。
「おやおやおや?」
刃を押し当てて引いてみるも、その刃は私の服を斬り裂くことすら出来はしなかった。
「……血液が流れ落ちる? 染み込まない? これはいったい……」
男は刃を戻し、他の器具を手に取った。
「ふむ……これも通りませんか」
次々と器具を持ち替えては私の身体に押し当てていく。
「……くふっ」
……やばい。くすぐったい。
そんな場合じゃないのに。心の底から怖くて気持ち悪くて堪らないのに。身体は刺激に正直だ。刃が肌をくすぐる感触が嫌に繊細に伝わってくる。
「や、やめ……っ、あはははっ!!」
「……何がおかしい」
男がピタリと手を止めた。
暫しの沈黙が流れる。
「……眼球はどうでしょう」
ひぃっ!?
その言葉が引き金となった。限界に達していた私の心は、その恐怖を受け止めきれずに破断した。
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「……おかえり。ティア」
『おはようなのだわ♪ ナズナ♪』
こんにゃろめ。私がピンチの時にどこ行ってたんだか。
「無くなっちゃったね。賭博場」
地下ごと丸っと瓦礫の山だ。私は気付いたら外で立っていた。
『また次があるのだわ♪』
「今度は暫く野宿生活だよ」
ポケットに残っていたチップを放り投げる。もはや一銭の価値もないものだ。
「行こっか」
『お別れは?』
「宿代払えないもん」
『薄情なのだわ♪』
「なら巻き込みたくないから」
『心配要らないのだわ♪』
「いいから行くよ。こんな派手なことしちゃって。またあの騎士様が追っかけてくるよ」
『それがいいのだわ♪ 出発なのだわ♪』
うん。出発。次こそ平和な暮らしを掴み取ってみせるよ。
『その意気なのだわ♪』




