04-11.開戦
さてどうしたものかしら。
あと三日で黒獅子ベルファディアが力を増してしまう。そう聞いて、ただ待っているわけにもいかないだろう。
それが当然の思考だ。故にこそ、黒獅子だってこちらの考えを読んでいるだろう。
つまりだ。これは罠かもしれない。
私たちはそう考えた。三日後の建国記念日を待たずに私たちが攻め込むことをこそ、黒獅子は期待しているのかもしれない。これ以上配下を奪われることを嫌って、決着を急いでいるのかもしれない。
かと言って黒獅子から仕掛けるのが得策とも言えない。灰燼が圧倒的な強者であると認めるからこそ、待ち構えて罠に掛けたいのかもしれない。
これはタイムリミットだ。
黒獅子は私たちに選択を押し付けてきた。
モルモルが裏切ることなんて最初からお見通しだった。
だからモルモルに伝言を託した。モルモルの裏切りによって黒獅子は窮地に陥ると伝えさせた。
滅多に用いない『嘘』という名の切り札を切ってきた。
けれど私たちは動かざるを得ない。これ以上仲間を増やし続けるのは難しい。
先代魔王ですら成し得なかった偉業を果たせば、彼の力は大きく増してしまうかもしれない。
それが例え嘘だとしても、単なるブラフに過ぎないのだとしても、危険な賭けには間違いない。
今すぐ攻め込む方が勝率は高い。戦力が十分とまでは言えないけれど、最低限形にはなった筈だ。
選択肢は実質一つだ。全ては黒獅子の目論見通りに。
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「出陣だ」
灰燼様は……お姉ちゃんは迷うこと無く決断を下した。
もしかしたら黒獅子は灰燼様のこういう性質も見抜いていたのかもしれない。……流石に考えすぎだろうか。
『考えすぎて悪いことはないのだわ♪』
そっか♪ ティアが言うなら問題ないね♪
「ナズナ。本当に良いのですね?」
「うん。どのみち近くまでは行かないとだからさ」
ティアに扉の先を覗いてもらおうと思って。
けど今黒獅子たちは、その扉の前に陣取っているそうだ。
というか、ぶっちゃけ魔王城がそのまま敵陣地だ。
扉は謁見の間の最奥、玉座の裏にあるそうだ。
いかにも過ぎるよね。本当に開ける手段を見つけたなら、脅威になるって言われるのも納得だよね。
「さあ! ナズナちゃん軍団の皆! 立ち上がれ! 灰燼様の命は下った! 今こそ我らの力を見せつける時だ! 敵は数千! こちらは百! されど強者の百だ! 圧倒的力を見せつけよ! 真の魔王たる灰燼様のため! 玉座への道を切り拓け!! 行くぞ!!! 皆の者ぉーーー!!!」
「「「「「「「「おーーーーー!!!!!」」」」」」」」
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最後の一戦は唐突に始まった。
灰燼アルバトロスが急造の軍を率いて、魔王城へと乗り込んだ。
迎え撃つは、黒獅子ベルファディア。
先代魔王時代には四天王の一角を勤めた傑物。
他の四天王二人をも破り、彼は今、玉座を占領している。
数千対百。未だ勝機は黒獅子のもの。加えて地の利まで有している。圧倒的優位は揺るがない。
王都中の魔族たちは沸き立った。
誰もが新たな魔王の誕生を心待ちにしていた。
灰燼の勇猛で無謀な決断に歓喜した。
黒獅子の圧倒的な資質に嫉妬と羨望を向けた。
彼らの半分は黒獅子の勝利を疑っていない。
けれどもう半分は灰燼の可能性を信じている。
王都は今、真っ二つに分かたれていた。
この世界中の全ての知性体において、彼ら程に勇者と魔王の戦いに心揺さぶられる者たちもいないだろう。
今回の魔王戦はまさにその構図こそが当てはまる。
灰燼は勇者の再来だ。先日魔王と相打った勇者の活躍も中々のものではあったが、灰燼はそれ以上に彼らの心を揺さぶり続けてきた。
これまでにも新たな魔王の座を巡って倒れていった者たちは大勢いる。しかしその誰よりも灰燼は輝いていた。魔族たちの心を掴んで放さなかった。それが圧倒的な不利をも覆す程の支持率に繋がっていたのだ。
灰燼には紛れもなく存在している。カリスマが。
しかし実際はどうだ。黒獅子は全てを手に入れた。魔族たちの期待とは裏腹に、趨勢は黒獅子の圧倒的有利で進んできた。それが益々灰燼の魅力に繋がった面も無くはないが、それでも半分が黒獅子を支持するまでに至った。
話題性という意味では確かに灰燼には劣るのかもしれないが、それでも黒獅子は着実に積み上げてきた。その結果が今の二分された王都の支持率だ。
どちらが勝ってもおかしくはない。
どちらが負けても盛り上がれよう。
王都の民は固唾を呑んで見守り続ける。
新たな魔王を決める最後の一戦を。




