04-10.兄の心、妹知らず
「モルモルって中途半端だよね」
「な、なんですの……急に……」
急だったかな? 順当じゃない?
「いやさ。金獅子みたいにモフモフライオン丸ってわけでもない、ただの猫耳美女なのがコンプレックスなんでしょ?」
「美女♪」
都合の良いところしか聞こえないお耳♪
「毛が生えてないことを気にしているくせに、そんな肌を見せる服着ちゃってさ。まるで人間みたいな美的感覚だよね。自分で綺麗だと思っているから見せびらかすんでしょ? だから中途半端だよねって話。気にしているのかいないのか。気にした上で武器として利用しているのか。こういうのなんて言うんだっけ? ダブルスタンダード?」
「うぐ……酷いのですわ……あんまりですわ……」
よかった。今度はちゃんと届いてた。
「誰もコンプレックスだなんて言ってないのですわ」
あれ? そうだっけ?
『わたくしが言っただけなのだわ』
あ、ごめんごめん。そうだったね。
ティアの声は皆に聞こえないんだから、急に言われたみたいになっちゃうよね。
「じゃあ気にしてない?」
「当っ然ですわ! 私は最っ高に美しいですわ!!」
なんだかヤケクソ味を感じる。気のせい?
「なら語尾に『にゃ~ん』って付けてみて」
「へ……?」
「ほら言ってみて。『にゃ~ん』って」
「あ、あの……ナズナ様? 猫じゃありませんのよ?」
「獅子も猫科でしょ。いいからほら。『にゃ~ん』って」
「にゃ、にゃーんー……」
「硬いよ! 自信を持って! はい! 『にゃ~ん♪』」
「にゃ、にゃ~~ん♪♪♪」
「いいよ! その調子! 続けて♪ 続けて♪」
「にゃ~ん♪ にゃ~ん♪ にゃ~~~ん♪ ゴロゴロにゃぁ~ん♪」
「あら可愛い♪」
「にゃ~ん♪」
『哀れなのだわ……流石に同情するのだわ……』
ペット枠としてキッチリ分けとかないとだからね♪ でないと愛するお嫁さんが嫉妬するからね♪
『ナズナ……嬉しいのだわ♪』
でっしょ~♪
……あかん。ツッコミ不在になってしまった。
そろそろ話を進めよう。こんないつまでもモルモル回を引っ張るつもりなんてなかったのだ。けどつい楽しくなっちゃって。いけないけない。うっかりうっかり。
「モルモル。あと一つだけ真面目な話をするよ」
「はいにゃ♪」
楽しくなっちゃった?
「予め言っておくけど、あんまりペラペラ喋られると、それはそれで信頼出来なくなるからね。こっちは私とユーキちゃんがいれば情報収集なんてお手の物なの。だからモルモルにそんな役割は期待してない。そこんとこよくよく理解した上で、余計なことは答えず、私の質問にだけ答えてね」
「はいですにゃ!」
「よろしい。聞きたいのは一つだけ。黒獅子は何を待っているの?」
最初は灰燼の側から仕掛けてくるのを待っているのだと思っていた。そういうパフォーマンスなのだと。強者の余裕なのだと思っていた。
けれど聞いている限り、格好を何より優先する人物にも思えない。当然、治世の役に立つなら取り入れるだろう。理解は出来る。けれど彼が何より重視しているのは、確実に魔王へと上り詰めることだ。配下の切り取りが起きている以上、すぐに攻め込んでくるものと思っていた。
しかし彼はまだ動いていない。百人もの手下を奪われても沈黙を続けている。逆に妹まで送り込んできた。私たちからすればそう見える。
「日取りが悪いと。そう言っていたのですわ。にゃ~ん」
取って付けたような『にゃ~ん』だ。けしからん。
『ナズナ』
はい。真面目にやります。
「『にゃ~ん』はもういいから真面目に話して」
「……」
ごめんて。
「日取りが悪いって何さ」
「待っているのですわ。魔王国の建国記念日を」
えぇ……。
「絶対嘘でしょ。騙されてるんでしょ」
妹に嘘を教えて送り込むなんて……なんて狡猾な……。
『流石にそんなわけないのだわ』
「臆病風に吹かれたのですわ。自分では灰燼閣下に勝てぬと察したのですわ」
これはモルモルの考えだよね。
けど私が知りたいのはそういうんじゃないんだよ。
別に期待はしてなかったけどさ。
「ちなみに建国記念日って何日後?」
「三日後ですわ」
……まさか本当に待ってるの?
いやそんなわけないよね……。
それじゃあユーキちゃんの言っていた、臆病故の卑劣で狡猾な人柄ってイメージとも合わないし。
ユーキちゃんは個人的に彼を嫌っているみたいだし、大げさに言ってる部分も……いや、ないない。ユーキちゃんはちゃんと状況を理解しているもの。モルモルとは違うのだ。
『ナズナもなのだわ。モルモルの発言を疑いすぎなのだわ』
だね。気をつけよう。思い込みはよくないからね。
「建国記念日にだけ開く隠し宝物庫とかあったりする?」
「「!?」」
あれ? 何その反応? ユーキちゃんも? もしかして心当たりがある?
「……宝物庫ではありませんが、開かぬ扉は存在します」
「ただそれが、建国記念日にだけ開くなんて根拠は無いのですわ」
にゃるほど。
「真の魔王だけがその扉をくぐり、強大な力を手にすると」
そういう伝説があるわけね。
ユーキちゃんでも詳しく知らないってことは、先代魔王は『真の魔王』とやらにはなれなかったのかな?
「兄上は熱心に調べておりましたわ」
「何か掴んだのかもしれないね」
「可能性はありますわ……それから……今私に離反されると覆される可能性があるとも……まさかこのこと……」
ガッツリ釘刺されてるやんけ。お見通しやんけ。
「黒獅子は多くを語りません。敢えて真実を隠す事は多くとも、嘘は滅多に用いません。それが自らの首を締めると知っているからです」
そういうのが一番厄介なんだよね~。
「なんだかんだ言いながら、モルモルって可愛がられていたんだね」
「どうしてそうなるんですの?」
なんでわからないかな~。




