03-10.引き篭もり悪役令嬢の超絶技巧
「厄介な性質じゃのう」
領主様は私の……ではなく、トリスティアの魔術について調べてくれた。
お陰で無敵の秘密も、その一端が解き明かされた。
この領主様は、鋼の筋肉だけでなく、高度な知性をも兼ね備えていたのだ。
加えて領主としての人事力と人脈を遺憾無く発揮してくださった。要は人海戦術だ。
「これは代償魔術なんぞではなかろう」
「はい。ただし無関係でもありません。その応用と言ったところでしょうか」
研究にはユーキちゃんも力を貸してくれた。
「通常の代償魔術とは、本人の意思に関わらず代償を支払わされるものです」
強大過ぎる効果を実現するために、勝手に何かしらの犠牲を強いるんだね。
「大抵は魔力だけで事足ります。つまり通常よりも魔力消費の大きな魔術とお考えください」
なるへそ。それが一番シンプルな代償魔術の仕組みと。
「しかし制御できずに暴走している場合、本人の意思に関わらず全ての魔力を強制的に徴収し、効果を発揮し続けます」
アルバお姉ちゃんが言ってたやつだ。
「魔力だけで足りなければ、最悪肉体の一部や、身体の構成に必要不可欠な栄養素にまで手を出す事例も存在します」
うわぁ……。
そこまでじゃなくて本当に良かったよ。
『違うのだわ。話をちゃんと最後まで聞くのだわ』
はい。すんません。
「ナズナの中に眠るというトリスティアは、意図的に代償魔術の仕組みを応用しているのです」
「けど代償魔術とは別物なの?」
「はい。明確に異なります」
ようわからん。
「しかしこれは推測です。『理論上は』と前置くべき話です。どうやって実現するのかワタシには想像もつきません」
あらま。トリスティアってそんなに凄いんだ。ユーキちゃんも相当なのに。領主様が手配してくれた知識人たちだってきっと凄い人たちなのに。
「最初は魔力。次に身体の一部。それでも代償を支払いきれない場合、魔術は何を求めると思いますか?」
えぇ……。
魔力も身体も全部使い果たして? それでも残るもの?
えっと……。
「……誰かの思い出?」
人が死んじゃって灰になっても残るものってそれくらいかなって。
「はい。つまりはそういうことです」
どういうこっちゃ……。
いや、全然わからんけど、それでもなんとなくわかることはある。
私が皆から忘れられてしまう秘密もきっとそこにある。
「思い出……つまり因果を埋めているのです」
「それが無敵の正体?」
「はい。本来代償として消費される最後のもの。それを自ら手放し空白にした上で、別のものを流し込んでいるのです。ナズナが傷つかぬのは、そもそも攻撃が届かぬからです。物理的にではなく、因果的に」
……ちょっとよくわかんない。
いや。言ってることはなんとなくわかるんだけども。
どうやったらそれが実現出来るのか皆目検討も付かない。
と、いうのは、ユーキちゃんも口にしていたことだった。
「目的はなんなの?」
「さあ。それもわかりません」
究極の引き篭もり? 誰からも忘れられたかった? そっちが目的で、無敵はおまけ?
「騎士様の状況はトリスティアが意図的に制御した結果なんだね」
「おそらく間違いないかと」
「……」
二人の過去には何があったんだろうね。きっと騎士様も何かを忘れているのだろう。忘れさせられたのだろう。トリスティアによって、トリスティアに都合の良い状態で固められてしまっているのだろう。
『……酷いのだわ』
言わないであげてよ。トリスティアだって寂しかったんだよ。きっとさ。
『……』
「対話をするより他にあるまい」
「おっとぉ~?」
なんで拳をポキポキならしてらっしゃるのでしょうか?
「危険です! 領主様!」
騎士様が慌てている。
そりゃそうだ。ここは領主様のお屋敷だ。領都の中だ。周囲には多くの人たちが暮らしている。
「ワシに任せておけ」
「「無茶です!!」」
今度はユーキちゃんも止めに入った。
「ふむぅ……」
仕方なく拳を収める領主様。
めっちゃ残念そう。もしかして戦ってみたかった?
「それでじゃ」
今度はユーキちゃんに視線を向けた。
「お前は何者じゃ? その知識量、ただの村人などとは申すまいな?」
「……」
ユーキちゃんは真っ向から領主様の視線を受け止めた。
「許す。話すがよい。我が領民として生きるならば必要なことと弁えよ」
「……ワタシは」
ユーキちゃん……。
「……スパイです。魔王様より仰せつかりました」
……えぇ!?
『驚いたのだわ。自ら人の奴隷に落ちてまでなんて。とんでもない自信なのだわ』
そこもだけど!
それより話しちゃったことに驚きだよ!? いったいどういうつもりなの!?
「剛毅じゃのう」
「既に目的は果たしました。この命、如何様にも」
「魔王の側近をか? 抜かせ。危険過ぎるわ」
……どゆこと?
「そうとわかって置いてはおけぬ。貴様らには国境の警備を任ぜよう。今すぐ出立せよ」
えぇ!? なんでぇ!?
『逃がしてくれるそうなのだわ』
んなこたぁわかってるよぉ!? それがなんでって話!!
『別に戦争してるからって、必ずしも憎しみ合っているわけじゃないのだわ。どちらも皆殺しを目的としているわけじゃないのだわ』
そりゃそうかもだけど!
『ユーキは賭けに勝ったのだわ。ここで領主様がユーキに手を出せば、魔王個人の恨みを買う可能性があるのだわ。これは政治的な判断なのだわ』
賭けって!? いくらなんでも危険すぎるでしょ!?
『領主様の人柄を見て判断したのだわ。そう分の悪い賭けでもなかったのだわ』
だからって!
『いいから行くのだわ。領主様の気が変わらない内に』
けど……。
「ナズナよ」
領主様は唐突に私の頭を撫でてくれた。
「また顔を出すがよい」
「でも……」
「ワシを信じよ」
なんで……そこまで……。
「またワシの筋肉を魅せてやろう♪」
……領主様……うら若き女性に裸体を見せたがる危ないオジ様だなんて思わないよ。
『思ってるのだわ。めっちゃ思ってるのだわ』
「約束だよ。絶対だからね」
「うむ。期待しておくがよい」
忘れてたらやだよ。私が初対面の領主様に上着を脱げなんて頼む変態になっちゃうんだからね。……言えないけど。
「楽しみにしてるからね」
「一回りも二回りも成長しておるじゃろう」
「私も成長して帰って来る」
「楽しみにしておるぞ」
領主様……。
『いつまでやってるのだわ?』
はいはい。行きますよ~だ。
「いってきます! 領主様!」
「うむ!」




