03-06.治療の代償
「助かりました」
驚いた……。あんな状態から回復するなんて。
魔族は頑丈だって聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。もう完全に傷が塞がっているようだ。顔色も随分と良くなった。
「金は用意できたんだろうなぁ?」
ヤサグレ闇医者がタバコを蒸しながら気だるげに現れた。
「やるじゃん♪ ヤブ医者♪」
「んだとごらぁ」
「あ、間違えた。ごめん、ごめん。闇医者」
「舐めてんのか、テメェ」
「お金は用意してきたよ。色つけとく。本当にありがとう」
指定された額の倍額以上入った革袋を差し出した。
「おいおい……マジかよ……」
「出処は聞かないで」
「聞くわけねえだろ♪ まいどあり~♪」
浮っかれてる~。
「悪いけどもうちょっとだけ置いてもらえるかな?」
「好きに使え~♪」
ウキウキ闇医者は出て行った。
「……あの」
「お名前は? 私はナズナ♪」
「ユーキ」
「ユーキ♪ ふふ♪ あなたにピッタリの名前だね♪」
騎士様を庇って、ボロボロの身体で仲間に立ち向かったあなたには♪
「あ、ありがとうございます。けど……ワタシ……」
「何も気にしないで。もう少しだけ休んでいて。すぐにここから連れ出してあげるから」
いつまでも人間の町で暮らすなんて怖いよね。けど安心して。私たちが必ず魔族領へ送り届けてあげるから。
「目覚めたか」
「あ♪ 騎士様♪ この子はユーキちゃんだよ♪」
「……そうか」
「騎士様も♪」
「……クラウディアだ」
「クラウ。ありがとうございます。助かりました」
「こいつが勝手にやったことだ。私は知らん」
もう♪ 騎士様ったら♪
「動けるか?」
「はい」
「ダメだよ騎士様! 何言ってるの!?」
「時間が無い。直ぐに発つ」
「なんでさ!?」
「ナズナ。囲まれています」
「わかるのか。使えそうだな」
「はい。足手まといにはなりません」
「これを被れ」
「感謝します」
ユーキちゃんは僅かにフラつきながらも、直ぐに自らの足だけでしっかりと立ち上がり、騎士様から受け取ったフード付きマントを着込んで出立の準備を整えた。
『ナズナ! ナズナ! マズイのだわ!!』
わかってる。ちなみにどっちのせい?
『もちろん騎士様のせいなのだわ! ナズナはずっとわたくしが見ていたのだわ! つけられてたら伝えてるのだわ!』
だよね。
もう。騎士様ったら。
カッコつけてるくせに、カッコつかないんだから。
「騎士様。いったい何やらかしたの?」
「ナズナだ。私ではない」
「なんでそこはわかんないのさ。騎士様だよ。彼らを連れてきたのは。私はそういうのわかるんだから」
「気付いてもいなかっただろうが」
「ラグがあるの。いいから。何してきたのか聞かせてよ」
「私ではない」
もう。全然信じてくれないんだから。
「お二人とも。どうかその辺で」
そうだね。今はそれどころじゃないしね。
案外どっちも違うのかもだし。
『あの闇医者なのだわ!?』
たぶん無いと思うけどね。折角手に入れた大金を取り上げられたくはないだろうし。むしろ近づかないと思うよ。
私たちはこっそりと闇医者の診療所を抜け出した。
ティアの誘導があれば最低限の接触で切り抜けられる。
……筈だった。
「いたぞ~~!! こっちだ~!!」
そこかしこから衛兵の声が聞こえる。完全に大捕物だ。
「もう! 二人が信じてくれないからだよ!!」
「ワタシは信じました!」
「いいから走れ! 追いつかれるぞ!」
けどこれマズイよ!?
どうやって町から脱出するつもり!?
もうどこにも逃げ場なんて無いよ!?
魔族のユーキちゃんはもとより、私と騎士様だって強盗殺人犯だ。いくら魔族が蔑ろにされていたからって、私たち自身も殺されそうだったからって、盗賊でもなんでもない商人を返り討ちにしただけに飽き足らず、その積荷を奪い、人に恨みを持つ魔族の一団を逃がしてしまったのだ。
彼女たちは魔族領に逃げ帰るまでの間に人を襲うだろう。そうしなければ生きられまい。仕事にだってつけないんだから。ただでさえ虐待されて体力を消耗しているんだから。物資と安全は必要不可欠だ。そのためなら力を振るうだろう。
『ナズナ!!』
わかってる!! 自責してる場合じゃないよね!
私たちだって同じだ! ただ生きたいだけだ!!
降りかかる火の粉を払っただけだ! 愚かで気まぐれな優しさを振りまいただけだ! 恥じるようなことじゃない! 恥じるべきなのかもだけど! でも! それでも!
私はまだ旅を続けたい!!
騎士様の信頼を裏切りたくない!
ここで捕まれば間違いなくトリスティアの世話になる!
そうなればきっとまた騎士様とお別れだ!!
やだ! 絶対にやだ!!
だから逃げる! どんなに勝手でも!!
逃げ切ってやるんだぁ~~~~~!!!




