03-04.悪意の所在
「マズイね」
「黙っていろ!」
私を抱えたまま木陰に身を潜める騎士様。
耳元で小声の叱責が飛んできた。きゃん♪
『無理なのだわ! ここに居るって気付いてるのだわ!』
ダメじゃん!
「ふごがぁ!」
あかん! 口塞がれて伝えられない!
「黙れと言っているだろう!」
ダメだって騎士様! ここに隠れてても意味ないから! 逃げるなら逃げないと!
騎士様はより力強く私を抱え込んだ。
けど何か妙だ。力の入れ方がどことなくおかしい。
……まさかねぇ?
「はぁっ!!」
「なっ!?」
「えぇっ!?」
投げ飛ばされた!? 追手に向かって私を放り投げた!?
『酷過ぎるのだわ……』
そうだよ! 騎士様! ティアがドン引きするって相当だよ!?
『それはそれで酷いのだわ!』
「はぁっ!!」
「ぐわぁっ!!」
バタリ。
追手はあっさりと不意を突かれ、背後に回り込んだ騎士様の刃に斬り捨てられた。
余裕綽々で近づいてきたのに、本当にあっさりだった。それだけ騎士様の奇策に驚いたのだろう。
「騎士様って卑怯なこともするんだね」
もしかして前の私に優しかっただけなのかしら?
「奴隷商に与する者なんぞに掛ける慈悲は無い」
にゃるへそ。普通に嫌いなのか。
「行くぞ」
「ダメだってば! 折角護衛倒せたんだから子供たちも解放しようよ!」
あとはあのおじさん一人だよ! 騎士様ならどうとでもなるって!
「あのおじさんわざわざ追手を差し向けてきたんだよ! このまま逃がしたらもっと多くの人に狙われるよ!」
きっと町についたら同業者たちと情報を共有する筈だ。明らかに怪しんでるもん。私たちが何か気付いたって向こうも察したんだよ。護衛が戻って来なかったって知ったらもっと警戒するよ。騎士と追放お嬢様の組み合わせは普通に目立つんだから。きっとどこにも居場所が無くなっちゃうよ。
『ナズナのことを覚えているかは……』
なら尚の事だよ! 騎士様だけを危険に晒すわけにはいかないよ!
「……」
いぃ……って顔してる。
有り得そうとは思ってくれたみたいだ。
「騎士様! 急がないと! 馬車が速度を上げたら追いつけなくなっちゃうよ!」
もうとっくに手遅れかもしれないけれど。
「……くっ」
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「ひっ! ひぃっ!! っ!? ぎゃぁーーー!!」
容赦ねぇ……。
おじさんの弁明も聞かずに斬り捨てちゃった……。
やっぱり今日の騎士様はいつもと違うみたいだ……。
『仕方がないのだわ。ナズナも自分で言った通りなのだわ』
……そうだね。
逃げ出した私たちに、わざわざ一人しかいない護衛を追手として差し向けてきたくらいだもん。
用心深いんだか、そうでないんだかわからないけど、このおじさんは間違いなく私たちを殺そうとしていたのだ。
「行くぞ」
「しつこいよ。騎士様」
このまま立ち去ろうとした騎士様を呼び止めて、二人で荷車の紐を解いていく。
「「……」」
山積みの荷物に隠されていたのは小さな牢屋だ。
その中には魔族の少女たちが詰め込まれていた。
……私たちはその光景を見て絶句した。
酷い……。
真っ当な生物の扱いじゃない……。
私たちはすぐに少女たちを解放し、介抱していった。
騎士様も、それ以上は何も言わずに手伝ってくれた。
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「「……」」
どうにか落ち着いた頃にはとっくに日が暮れていた。
少女たちは誰一人目覚めていない。衰弱が酷すぎる。こんな野ざらしな環境ではゆっくり休めない。早急に場所を移す必要がある。
幸い馬車には十分な食料等も積み込まれていた。
私たちがこれに手を付けるのは倫理的にアウトだけど、彼らが苦しめた少女たちを救うためだ。やむを得まい。
『そのとおりなのだわ。苦痛に感じる必要はないのだわ』
例え悪人のものだとしても、人を殺して奪った荷物を自分のものにするなんて論外だよ。しかもこの品々を得たお金の出処まで考えれば尚更だ。
『その上で言っているのだわ。今はナズナも眠るのだわ。思考を休めて落ち着くのだわ』
……そうだね。
『ナズナはよくやったのだわ。見たものの衝撃が大きかっただけなのだわ。それを自分の非のように感じてはダメなのだわ。わたくしはナズナが心配なのだわ』
うん。ありがとう、ティア。
私は大丈夫。本当だよ。




