03-03.騎士様の心配事
「あとで合流するから~~! 先行ってて~~!」
急遽感じた尿意を口実に馬車から離れる私。騎士様もしっかり付いて来てくれた。
どうせ馬車はゆっくり走っているのだからと、おじさんは特に不審がることなく送り出してくれた。
ふっふっふ♪ ナズナちゃんの名演技にまんまと騙されちゃったねぇ♪
「おい。どこまで行くつもりだ」
もうちょいもうちょい♪ 内緒話が目的だからね♪
一先ず平原にポツポツと立つ木の影の一つに身を隠した。
騎士様は私から目を離し、馬車の方に視線を向けてくれている。一応、私の尊厳を優先してくれるようだ。優しい♪
「そのまま聞いていて」
「……何だと?」
おしっこの音じゃないよ?
「あの荷馬車の中身。魔族の子供たちなんだって。護衛も一人隠れてるよ」
「……何故」
「そういう力があるの。信じて騎士様」
「……どうするつもりだ」
「助けてあげたいかな」
「何故だ。相手は魔族だぞ」
「けど子供だよ。奴隷として売るつもりなんだよ」
「珍しい話でもあるまい」
「騎士様は気にしない人?」
「……賛同しているわけではない」
ひひひ♪
「お願い。力を貸して」
「……手遅れだ。このような場所で解放しても意味はない」
にゃるへそ。それもそっか。
人間の領地だからね。魔族領もそこまで遠いってわけではないだろうけど。ルクス君たちはそっちを目指していた筈なんだし。
「けどだからって見過ごせないよ」
「……何故だ。何故お前がそこまでする」
「私が勇者パーティーの一員だからだよ」
「……貴様」
あ、やべ。
怒らせちゃった。
「待って騎士様!」
あ、出る……。
「……くっ」
出鼻を挫かれた騎士様は怒りを引っ込めてくれた。
代わりに私は何かを失った気がしないでもない。
……今更か。こうしてお手洗いに騎士様が付いてくるのも珍しいことでもないし。二人で旅を始めた直後なんて目を逸らしてもくれなかったし。
そこから比べれば今は随分と良い扱いをしてくれている。着実に信頼が積み重なっているのは間違いない。普段の私が人畜無害な存在であると理解してくれているのだ。
「ふぅ」
「……本気か?」
「え? もしかして手伝ってくれるの?」
「そんなわけがなかろう」
「無理やり遠ざける?」
「そうだ。このまま逃げるぞ。奴隷商なんぞと関わっても碌なことはない」
「騎士様が無辜の民を見捨てるの?」
「敵国の捕虜だ」
「そうやって自分を誤魔化すの?」
「貴様の言葉が真実である証拠も無い」
「ううん。騎士様は信じてるよ。私の言葉に嘘が無いって」
「勝手なことを」
「私がこんな嘘をつく理由も無いじゃん」
「……」
なんで頭を抱えてるのかしら?
「騎士様。助けてあげようよ」
「救った後はどうする。放り出すのか? この人間の国で」
「送り届けてあげよう」
「無茶を言うな。今度は我々が捕虜となる番だ」
「それでもいいんじゃない? ほら♪ 私って強くなれるでしょ♪ 敵の懐に放り込んでさ♪ なんなら魔王だって倒せちゃうかも♪ 仮に勝てなくても騎士様に損は無いよ♪ だって厄介な私を魔王が倒してくれるんだもん♪」
「手を組んだらどうする」
「あ~。そりゃマズいね」
「否定しろ。バカ者」
「けど騎士様が振り向いてくれないならさ。魔族と仲良くしておくのも良いかもしれないかなって」
「貴様……」
また頭を抱えてしまった。
「どうしてそうも危機感が無いのだ……」
「心配してくれてるの?」
「やかましい!!」
うわっ!?
「これでは目が離せんではないか……」
やったぜ♪ 一生一緒に居てくれるってさ♪
はっ! これってプロポーズ!? どう思う? ティア♪
『そこまで言ってないのだわ』
ざ~んねん♪
「てなわけで。私一人でもやるからね。私は居場所が欲しいの。抱き締めてくれる人が欲しいの。だから人助けをしてみるよ。魔族が受け入れてくれるなら魔族領に移り住む。そのための足がかりになるかもしれない。或いはあの荷馬車に囚われた誰かが私の家族になってくれるかもしれない。そんな打算塗れだけどね♪ 頑張っちゃうぜ♪」
「させん」
え? ちょっと?
騎士様は私を担ぎ上げ、そのまま馬車とは反対方向へと駆け出した。




