02-11.強者の矜持
「……アレはなんだ」
「さてね。アタシもこの目で見るのは初めてさね」
本人から聞いちゃあいたけどね。
「こちらには向かって来ぬようだな」
「流石のアンタでもアレは怖いかい?」
「貴様と手を組まれれば厄介だ」
「素直じゃないねぇ」
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「……」
『トリスティア! あなたトリスティアなのだわ!』
「……っ!」
『わわっ!? 危ないのだわ! 洒落にならないのだわ! わたくしが消えたらナズナが悲しむのだわ!』
「……!!」
『待つのだわ! 話を聞くのだわ!!』
「……」
『ナズナもあなたと話したがっているのだわ! わたくしが伝言役になるのだわ! だから!』
「……」
『待つのだわ! 何処へ行く気なのだわ!?』
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「……行ってしまったぞ。良いのか? 追わなくて」
「あんたこそ。部下の仇討ちが必要だろう? ここは一時休戦といこうじゃあないか♪」
「意味が無かろう。我は奴を殺し、貴様は奴を守る。ならばここで決着を付ける他あるまい」
「あの子、砦の方へ向かったよ。まだ部下たちが残っているんじゃないのかい?」
「くどい。奴を追いたくば我を倒して行くがよい」
「しつこい男は嫌われるよ!」
再び二人の殴り合いが始まった。
観客はいない。ナズナは既にこの場を離れてしまった。
ティアもナズナに付いて行った。
ルクスとブルーノは意識を失っている。
獅子の部下は消滅した。
相対するは人間の女と獅子の魔族。
その差は歴然だった。
最初は優勢だった彼女も、段々と勢いを失い始めた。
今の彼女は魔力を失ったただの人間だ。どれだけ鍛えていても、獅子の肉体を持つ魔族とは雲泥の差だ。
彼女は立ち回りを改めた。力によるゴリ押しではなく、技を駆使して少しずつ削る方針へ。
しかし獅子は見逃さなかった。
彼女に限界が視え始めたのを機に、その攻勢を強めていった。
それこそが彼女の思惑通りであると悟りながら、それでも尚、彼は自らの力に抱く誇りを示し続けた。
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『トリスティア! トリスティア! 足を止めるのだわ! トリスティア!!』
「……」
幾度話しかけても返事は無い。
それでもいつもとは全く異なる様子だ。
普段の彼女なら周囲を破壊して終わりだ。こんな風に何か目的を持って歩き続けることなんて一度も無かったのだ。
いっそ任せてみるべきか。これはこれで興味深い。
けれど間違いなくナズナは悲しむだろう。
彼女は勇者たちから離れようとしている。防壁をいつもより厚くしたのも拒絶によるものだったのだろう。
それをわかっていて見過ごすわけにはいかない。
『いい加減にするのだわ!!』
触れられないのがもどかしい。どれだけ大声を上げたって彼女を引き止めることも出来やしない。無力な自分に怒りすら感じる。
『トリスティア!!』
「……」
彼女は一言もなく歩き続けた。
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「……」
突然彼女が立ち止まった。
一瞬ようやく声が届いたのかと歓喜したものの、すぐに誤解だったのだと気付かされた。
彼女の視線の先には金色の獅子が立っている。
随分とボロボロだ。しかし間違いなくあの幹部だ。
戦っていたアルバはどうしたのだろう。まさか負けてしまったのだろうか。彼がここに居るということはそういうことなのだろう。
「まさか装置に手も触れぬとはな。貴様。仲間たちの危機に関心すら抱かぬのか」
獅子は明らかな敵意を向けている。薄情にも戦場から一人抜け出したトリスティアへと明確な怒りを向けている。
「容赦はせぬぞ!」
獅子は魔術を纏って襲いかかってきた。
彼もまた、装置の影響下にあったのだ。
封じられていた魔力を取り戻している。その勢いは先程までとは比べ物にならないものだった。
「ガァァァアア!!!」
ナズナの身体が宙に浮く。
棒立ちのまま獅子の突進を受けた少女の肉体は、まるで木の葉のように容易く巻き上げられた。
しかしそこでは終わらない。
獅子は容赦なくナズナの身体を引き裂いていく。
その爪が彼女の身体に突き刺さることはない。
その爪が彼女の服を刻むことはない。
それでも光速の攻撃はやむことなく繰り出され続けた。
いずれその防御に綻びが生じると信じ、獅子はただひたすらにナズナの肉体を切り刻み続けた。
「……」
「……化物め」
しかし全ては無駄だった。幾度繰り返そうとも獅子の爪がナズナの肉体に届くことは無かった。
木の葉のように煽られ続けた少女の身体は、何事も無かったかのように地面へと降り立ち、そのまま獅子に意識を向けることすらなく歩みを進め始めた。
トリスティアは獅子への興味を失った。
勇者ルクスを傷つけた犬面の魔族は容赦なく消滅させたというのに。
彼にはその価値すらないと無視を決め込んでいる。
それが彼にとって何よりの屈辱であると理解しているのだろうか。だとしたら性格が悪いにも程がある。
「待て貴様!!」
獅子は再び手を伸ばした。
その手はナズナの肩に届く前に消滅した。
「グォォォッ!!」
何が起こったのかわかっているのかいないのか、獅子は痛みを堪えながらもう一方の腕も伸ばしてきた。
「グァァァァアア!!!」
当然、もう一方の腕も消え去った。
トリスティアは相も変わらず進み続けている。一切振り向くこともなく。獅子のうめきに耳を傾けることもなく。
「貴様ァァァァアア!!!」
獅子の半身が消え去った。
地を蹴って飛び上がり、全身全霊を込めて蹴りを放った彼の半身は、一瞬で虚空の塵へと解けて消えた。
残されたのは両腕を失った上半身だけだ。
彼は……魔王軍四天王最強と呼ばれた金色の獅子は、見るも無惨な姿で街外れの街道に打ち捨てられた。
トリスティアは一瞥もくれることなく歩き去って行った。




