02-10.vs???
「がんばぇ~~~~~!!! おね~ちゃぁ~~~ん!!」
「はぁっ!!」
「ふんっ!!」
拳と拳がぶつかり合う。
一撃ごとに大気が揺れる。衝撃が地面すら震わせる。
アルバお姉ちゃんと金獅子は熱戦を繰り広げている。
両者一歩も引かぬ真っ向からの殴り合いだ。
戦況はお姉ちゃんがやや優勢か。
金獅子も負けてはいない。
手に汗握る白熱した試合展開だ。
『試合じゃないのだわ! 死合なのだわ! 真面目にやるのだわ!』
そうだった!
「ルクス君! 騎士様は!?」
「引き返してもらったよ!」
どっかですれ違っちゃったかぁ!
『あの騎士様なら心配は要らないのだわ! それより勇者を解放するのだわ!』
うん!
とは言えどうしたものか。ルクス君の身体は鋼鉄の鎖で縛られている。ブルーノさんも同じだ。
「ナズナ! 危ない!!」
「え? うわっ!?」
突然現れた何者かに突き飛ばされた。
いや。蹴り飛ばされたんだ。
ゴロゴロと地面を転がされ、ルクス君の下から離される。
「妙な手応えですね」
スーツを着たワンちゃんだ。
違う違う。犬面の男性魔族だ。たぶん。
けど妙だ。顔は犬なのに蝙蝠みたいな羽が生えてる。
それが私の代わりにルクス君の隣を陣取っている。
「何故あなたは魔術を使えるのですか?」
使ってる自覚は無いんだよなぁ。
「ま、魔力を封じる装置? に、には弱点があるんだよ」
いかん。落ち着け。動揺がバレる。声を震わすな。
「……驚きました。まさか人間にあれを知る者がいるとは」
装置で間違いないらしい。結界の類って可能性もあったけど。
見つけて破壊すればお姉ちゃんたちの助けになる筈だ。ルクス君たちも自力で脱出出来るかも。
けど先ずはこの状況を切り抜けないと。
「是非聞かせて頂きたい」
ルクス君に鋭い爪を突き立てる犬面魔族。
「逃げろ! 構わずに!!」
「黙りなさい」
「ぐっ!!」
「ルクス君!!」
ルクス君の脇腹に爪が食い込んでいく。
「ふむ。我慢強いですね。もっと悲鳴を上げなさい。彼女の口を軽くするのです」
「~~~~~~~!!!」
「やめろぉ~~~~!!!!」
『ナズナ!? 無茶なのだわ!!』
思わず犬面魔族に向かって突っ込んでいた。
「うわっ!? 放せ~~!!!」
犬面魔族に頭を掴まれてぶら下げられてしまった。
「痛みも感じていないようですね。どころか髪にすら触れられぬとは。これは興味深い」
「ナズナを放せ!!」
「あなたは少し黙っていなさい」
「ぐぁぁぁぁあああ!!」
「ルクス君!!」
腹を抉られたルクス君は痛み故か意識を失ってしまった。
「これで静かになりました」
ポトリと肉片を落とす犬面魔族。
血……たくさん出てる……。
血……肉……血……。
ルクス……君……。
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「あなたはいつまで保ちますか?」
「……」
「おや? 気を失ってしまったのですか? 見たところ戦闘は素人のご様子。血を見るのにも慣れていないようですね」
「……」
「何故あなたのような者が勇者パーティーと共に? 理解できません」
「……」
「嘆かわしい。戦場をなんと心得るのか。女子供だからと否定するつもりはありませんが、非戦闘員を連れ歩くのは違うでしょう」
「……」
「それともまさか、肉壁にでもするつもりだったのでしょうか。確かにこの頑丈さならば役立つかもしれませんが……」
「……」
「勇者がその程度の者であるなら、ゼルガディア様のお相手が務まらぬのも道理というものでしょう」
「……」
「……おや? あなた目覚めているのですか?」
「……」
「……っ!?」
犬面魔族は慌ててナズナを手放した。
その判断は一瞬遅かった。
「なっ!? 腕が!! 私の腕がぁ!!!」
肘から先が消滅したように消え去った。鋭利な刃物で切られたようにすっぱりと。
しかし不思議なことに、残ったその腕からは血の一滴たりとも落ちてこない。何かに覆われて……否。何かに塞がれているようだ。
その何かが彼の腕を瞬時に切り落としたのだろう。
まるでプレス機のように。
だから切られた先の腕が見当たらないのだ。
それは一瞬にして塵となってしまった。
その事実に彼はまだ気付いていない。
彼がその場から腕を引くと、ようやく傷口から血液が溢れ出してきた。
「ぐわぁぁぁあ!!!!」
彼の脳はようやく痛みを認識した。
その怯みが命取りだった。
彼は逃げるべきだった。
何もかもが遅すぎた。
悲鳴はいつの間にか止んでいた。
彼の姿ごと消え去っていた。
気付いたのは二人だけだった。




