元カノ 2
外回りでオフィッス街を歩いていたら、大学の時に付き合っていた彼女が反対から歩いてくるのに気が付いた。少し大人になって落ち着いた雰囲気をまとっていたけれど、昔のようにかわいかった。そして、苦い思いも浮かんでくる。
思わず声をかけてしまった。
「有紀?」
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大学に入って初めてできた彼女だった。とても大事にしていた。時間が出来れば彼女に会っていたと思う。デートと言っても休日に買い物に行ったり、お昼ご飯を一緒に食べたりと特別なことはほとんどしなかったように思うけれど、彼女はそんな些細なことでも喜んでくれた。特別なところに行くことよりも僕と一緒に時間を過ごせることの方がずっと嬉しい、と彼女ははにかみながら言ってくれた。もちろん、定番のデートコース、映画や水族館などにも一緒に行ったけれど、どこへ連れて行っても喜んでくれたし、行きたいところがあれば彼女からも提案してくれるのでお互いの好きなことも分かる。彼女との時間はとても自然で楽しかった。
彼女の事が好きだった。いつでも笑顔で楽しそうで、僕の隣で笑っていてくれた。喧嘩らしい喧嘩もしなかった。唐突に別れを切り出されるまでは。
付き合い始めて一年経つ少し前から、お互いの都合が合わずに会う機会がどんどんと減っていった。そのころ彼女はアルバイトを始めたと覚えている。アルバイト先には行ったことがなかったけれど、どこで働いていたかは彼女から聞いていたので知っていた。そして、彼女はその頃から少しづつ大学の友人やバイト先の人と出かける機会が増えていった。
デートに誘っても、バイトがあるとか用事があると言って断られる。親が仕送りしてくれてるんだったら働かなくてもいいんじゃないか、と聞いたことがあるけれど、一瞬少し傷ついたような顔をして僕を見て
「自分で遊ぶお金位はちゃんと稼いだ方がいいかなって。社会勉強にもなるでしょ。」
にっこり笑って答えた。
「最近全然会えなくなってる。」
とこぼしたら、
「学校でお昼ご飯一緒に食べたりしてるし、私が洋二を誘ってもその日は予定があるって断ることじゃない?」
そう言われて、思わず言ってしまった。
「三日前の夜、有紀が男の人と楽しそうに話をしながら街を歩いてるのを見かけたって言われた。」
「誰に?」
「吉田さん。」
「あー、彼女ね。うん。バイト先の人と一緒にカラオケに行こうっていう話になって5人くらいのグループで出かけたかな。言ったよね、カラオケに行ってきたって。」
「吉田さん、グループで歩いてたとか言ってなかったよ。写真も見せてくれたよ。」
「そうなんだ。でも聞いてみたら?他の人たちには気付かなかったって言うと思うけどね。写真って、そんなことまでしたんだ。」
有紀はさっとスマホを出して、カラオケに行ったときの写真を見せてくれた。
「男の人二人と私と女の人二人。このどっちの男の人の写真だったか覚えてる?たぶんこっちの人じゃないかとは思うけど。もう一人の人この人と付き合ってるから。」
写真に写っている人を指さしながら説明してくれた。
「そこまでよくは覚えてないけど、でも、写真の有紀の顔すごく楽しそうだった。」
「うん、楽しかったから。もう一回吉田さんに写真を見せてもらったら。服装も同じかどうか確認したらいいんじゃない。それとも私も一緒に行って彼女の写真と私の写真を並べて比べてみる?」
淡々と説明する彼女がなんだか違う人の様で驚いた。僕の知ってる、付き合ってる彼女はこんな人だったのだろうか、と。いつも僕が言う事をにこにこ笑って聞いてくれていたのに。
「友達と一緒に出掛けただけだよ。それもグループで。二人だけじゃない。私はそんなことしない。」
「でも、話を聞いたときびっくりしたんだ。僕と出かける時間はなくても他の男と出かける時間はあるんだって。」
そう言ったときに、彼女はとても悲しそうな顔をして言った。
「洋二は私のことを好きだとは思えなかった。付き合ってるのに私はいつも寂しかったから・・・・・・今までありがとう。」
唐突に別れを切り出されて何も言えずに驚いていたら、彼女は立ち去って行った。あんなに大事にしていたのに。そんなに簡単に別れるって言えるんだ、と。
たった一度の喧嘩にもならなかった言い合いで別れを決めてしまうような関係だったんだ。一年以上も付き合っていたのに、あまりにもあっけない終わりで驚きの方が先に立ち、その日からしばらくの間別れたことが認識できていなかったと思う。
吉田さんにもう一度写真を見せてもらったらすぐ後ろに『バイト先の付き合っている二人』が写りこんでいた。グループで出かけてたんだ。
「彼女と別れたの?私も彼氏と別れたとこだし、洋二君の事ずっと前からいいなーって思ってたんだ。良かったら付き合わない?」
そう言って吉田さんは笑っていた。彼女が何を言っているのかよく聞いてなかった。ぼーっとしたまま、たぶん頷いたんだと思う。その日から吉田さんはいつでも俺の隣にいて、友達と話をしていても無理やり輪の中に入ってきて会話を遮り、僕が話を聞かないと怒った。デートも誘われて一度だけ行ったことがある。その間中、スマホで写真を撮ってべったりとくっついてきた。僕が欲しい本があって本屋に寄ったときにはほんの少しの間だったにもかかわらず『つまらない、こんなとこ一人で来ればいいのに。デート中に寄るところじゃない。』とかなり文句を言われたのを覚えている。
有紀と比べてしまった。
少し後で別れを告げた時、すごい形相で僕を見て、
「見た目もいいし、優しかったから付き合ってみたかったけど、いつも忙しいって言って全然会ってくれなかったし。別にいい。それにもう別の人と付き合ってるから別れてくれてありがとう!!」
その他にもひどい言葉を投げつけられて驚いた。そのことを友達に言ったら
「お前馬鹿だよな。なんであの吉田さんと付き合ったんかな。彼女が自己中なの知ってただろ?え、もしかして知らなかったのか?本当に?でも、時田さんと別れちゃったって聞いたときもったいないって思ったけど、そのあと付き合ったのがアレだったから俺たちびっくりしちゃって。何も言えなかったんだよね。付き合ってる相手の悪口って聞きたくないだろ。やっぱり。」
有紀と別れた、とは言っていたけど、振られたとは言えなかった。有紀がなぜ別れたかったのか。僕なりにちゃんと大事にして優しくしていたつもりだったけれど何かほかに原因があったのか。分からない。
分からなかった。
でも、有紀には聞けないまま、声もかけられないまま大学を卒業して就職した。その間、2人と付き合って別れた。同じような理由で。皆、一様にわがままで、文句を言われ続けて交際をすることに疲れてしまった。
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有紀は違ったのに。あのまま付き合えていたら、きっと僕は幸せだったのに。なぜ有紀は僕と別れたかったんだろう?その疑問が幾度となく頭に浮かぶ。
そして、有紀を見かけた。




