表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生観測記  作者: スッタ
PR
8/9

2.1:蟻

暗い、狭い、そして動けない。

硬い何かに全身を囲まれ、身動き一つ取れない。

(……卵か?)

なんとなくそう思うが、何も見えない。

ただ、とんでもなく小さな生き物に生まれ変わったことだけは分かった。


しばらくすると、パキ、と小さな音がして周囲にひびが入った。光が差し込む。

(おっ、久しぶりの外だ!)

主人公は嬉しくなり、殻をぐっと押し破って外へと這い出た。


目の前には、大量の蟻。

(あ、蟻か)

すぐ分かった。黒い体、六本脚、触角。見慣れた姿だ。

(今回は蟻かぁ。少なくともボウフラよりは知ってるぞ)

そう少し安心した、次の瞬間だった。


(……あれ?)

動けない。脚がない。いや、正確には――形が違う。

白くて、細長くて、ぷにぷにとした芋虫。

(誰だお前)

自分だった。


蟻は、卵からいきなりあの姿で出てくるわけではない。

卵から幼虫になり、サナギを経て、ようやく蟻になるのだ。

(知らねぇよそんなの!)

蟻は最初から蟻だと思っていた主人公は、さらに致命的なことに気づく。

少し体をよじる程度しか動けず、歩くことも、自分でエサを取ることもできない。

(終わった……)

すると、一匹の働き蟻が近づいてきた。主人公を触角でペタペタと確認すると、口元に甘い液体の栄養を持ってくる。

(あ、ありがとう)

差し出されるがままに飲む。そして数秒後、我に返った。

(待て。今、俺、食べさせてもらった……?)


また別の働き蟻がやってきて、ペタペタと確認したのち、当然のように口移しでエサを与えてくる。

(うわぁぁぁぁぁぁぁ!!)

精神的ダメージ、大。


蟻社会ではこれが日常だ。だが、主人公には日常ではない。

(いや、自分で食べるから! 置いといてくれれば自分で……!)

もちろん、声は届かない。しばらくするとまた別の蟻が来て、また口移しで食べさせられる。


(これ、赤ちゃんプレイを強制されてるのか!?)


大人の意識と前世の記憶を持ったまま、飯は食わせてもらい、体は掃除され、移動も向きの変更すらもすべて蟻任せ。

周りの幼虫たちはもぞもぞ、うねうねと何も考えずに完全な赤ちゃんをやっている。

だが、自分だけは三十代の社会人の精神のままだ。

(地獄だなこれ……)


なぜだか猛烈な恥ずかしさと惨めさで泣きたくなってきた。

(頼む……早く成長させてくれ……)


大人の心のまま受ける、至れり尽くせりの完全育児。それは想像を絶する公開処刑だった。

そして主人公はまだ知らない。この羞恥心まみれの赤ちゃん生活が、この先しばらく続くということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ