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転生観測記  作者: スッタ
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6/9

1.5:蚊

夜風が吹く。気持ちいい。

自由だ。何にも縛られない、何にも追われない。


前世では、ずっと何かに追われていた気がする。

能力、仕事、評価、失敗、未来。

でも今は違う。何もない。ただ、飛んでいる。


「……前の人生も、悪くなかったのかもしれないな」


ぽつりと呟く。

ミユも、由紀さんも、みんな見えないところで何かを抱えてちゃんと頑張っていた。

だったら、それを支えようとした俺の人生も、少しくらいは意味があったのかもしれない。

そんな風に思えた。


ふと、明るい光が見えた。コンビニだった。

自動ドアが開くたびに漏れる光へ、なんとなく近づいてみる。


店の前では、制服姿の若い男がゴミ箱の周りを掃除していた。

真面目そうな顔の、前世では関わりのなかった知らない男だ。

彼は散らばったレシートや空き缶を、面倒そうな顔もせず一つずつ丁寧に、黙々と拾い集めていく。

(別に、そこまでしなくてもいいだろうに)


その時、男が疲れたような、でもどこか優しい顔で空を見上げた。

「お疲れさまです」

振り返りもしない客の背中に、それでも頭を下げる。


主人公は少しだけ考えた。人間って、案外すごいのかもしれない。

誰に見られていなくても、能力なんかなくても、誰かのために頑張るやつは確かにいる。

昔の自分は、それを見ようとしなかっただけなのかもしれない。


風が吹き、主人公は再び飛び上がった。

その時、甘い匂いが鼻をくすぐる。若い女性の、露出した腕。

本能が「血だ、飯だ」と騒ぎ立てる。主人公は迷わず降下し、着地した。


針を伸ばす。ぷす。

――その瞬間、女性の肩がぴくりと動いた。


まずい、と思った時にはもう遅かった。

視界いっぱいに広がる、人間の手の大きな影。飛び上がろうとするが、間に合わない。


(あ――)


パチン。


世界が激しく揺れた。

何が起きたのか分からない。体が潰れ、羽が動かず、音も光も遠ざかっていく。


でも、不思議と怖くなかった。

前の人生の最後は、痛くて、怖くて、悔しくて、何も分からなかった。

でも今は、少しだけ満たされている。


短かった。本当に短かったけれど、面白かった。

空を飛んだ。仲間がいた。意味の分からない先輩もいた。

ミユを見て、由紀さんを見て、真白を見た。少しだけ、人のことを深く知れた気がする。


意識が静かな暗闇へと沈んでいく。その中で、ふとあの能力のことを思い出した。

『転生 レベル1:死んだら記憶を保持したまま転生する』


次はどうなるんだろう。少しだけ、楽しみだった。


そして、意識は完全に沈み――こうして、蚊としての短い生は終わりを迎えた。

次に目を開けた時。

そこは、暗い土の中だった。

狭い、重い。そして、周囲から伝わってくる無数の「仲間」の気配。


(次はなんだ――?)


期待と不安を胸に、新しい物語が動き出そうとしていた。

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