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転生観測記  作者: スッタ
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2/9

1.1:蚊

苦しい、狭い、押し潰される。

(なにこれなにこれなにこれ!?)

体が動かない。動かし方も分からない。

手はどこだ。足は――ない。は???


混乱したままもがき、硬い膜を「……えぃ」と蹴破った瞬間、外に飛び出した――と思ったら落ちた。

冷たい。水だった。

体が勝手にくねり、沈んでは浮く。

必死に水面を目指し、触れた瞬間に何かが満たされた。空気だ。生きている。

だが、おかしい。どこで息を吸った?

口じゃない。必死に確認して、理解が止まった。

(……尻?)

尻の先が水面から出ていて、そこから空気を取り込んでいる。

(なんで尻で呼吸してんだよ……気持ち悪っ!!)

意味が分からない。だがとりあえず、生きていることだけは確かだった。

時計も太陽もない水の中で、腹が減ったら何かを食い、沈んでは浮く。

最初は嫌だったが、生き物というのは恐ろしいもので、(まあ……尻で呼吸するのも慣れてきたな……)と慣れたくもない現実に適応していった。


そんなある時、近くにいた細長い一匹から、声ではなく直接「意味」が頭に流れ込んできた。

「おい、新入り」

(会話できる!? なんで!?)

「知らん。生まれたらできた」

適当だった。だが、この世界で初めて会話が成立しただけで少し安心した。

名前もないそいつを、主人公は勝手に「先輩」と呼ぶことにした。


先輩は何でも知っているようで、何も知らなかった。

「今後どうなるんだろうな」

「空飛んでるやつになるんじゃないか」

「いや、そいつ前まで俺らを食べようとしてたやつだろ」

「じゃあ分からん。周りにいるとしたらそいつぐらいじゃないか?」

「適当だな」

「適当だ」

こんな調子だったが、なぜか生き残っている先輩の言葉には、妙な説得力があった。


ある日、水底が動いた。

巨大な黒い影。名前は分からないが、本能が「ヤバい」と告げる。

「逃げろ」という先輩の声と同時に沈む。

その瞬間、さっきまで近くにいた仲間が消えた。食われた。それだけだった。


しばらく水草の影に隠れる。前世でも死んだ。でも、目の前で誰かが消えるのは怖かった。

黙り込む主人公に、先輩が適当な口調で言った。

「食ったやつは腹が減ってたんだろ。食われたやつは運が悪かった」

不思議と納得してしまった。誰も悪くない。生きるため、それだけだ。


水面越しに揺れる光を見上げる。綺麗だと思った。

前世の畑仕事の帰り道にも、会社からの帰り道にも、たぶん空はあった。

でもずっと下ばかり見ていて、気づかなかった。


「なあ」と先輩が言う。

「なんだ」

「生きてるな」

「今のところは」

「じゃあ十分だ」


そう言って先輩はまたエサを食べ始めた。

適当なやつだった。でも、少しだけ好きになっていた。

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