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Aging in place  作者: 九条アベル


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指輪家の日常


「僕が大人になっちゃったから可愛がってくれない!」

「僕が可愛くないから抱っこしてくれなくなった!」

「もっと僕と遊んでよ!!」


 中等部3年生になった永遠の最近の口癖はこれだ。

 可愛いよ?って何度言っても訝しげにこちらを睨むだけ。


 言い訳かもしれないが、大人になったって本人が言うほど全く成長は見られないし、昔に比べて重いから抱っこするの大変だし、一緒に遊ぼうって言っても、「いま絵を描いてるんです!」って断られてるのは俺の方だと思う。


 まあご本人が主張してるから、構ってあげないといけないな。


 永遠は絵に関しては器用に筆を使い分けて、精密で綺麗に描くが、それ以外のことは不器用だ。

 朝寝ぼけて、制服のズボンに腕を通し、ブレザーに足を通す。

 そしてうまく着れないと、涙目になって「イーーー!!」って唸ってる。

 俺はそんな時笑って写真を撮ってしまう。

 堆紀は誰よりも遅く起きて、誰よりも早く準備をして、永遠が制服に手こずってるのを見ると、「お前は何してんだよ!!立て!!」と、怒鳴る。永遠は怒られるのが嫌いなので、俺に救いの目を向けるが、俺はそんな二人を見るのが好きなので、助けない。

 すると次に二人きりになった時、「白は僕のこと嫌いになったんだ。だから僕のこと見捨てるんだ」って、いじけてしまう。そのあとは沢山抱きしめたり、遊んであげないと唇を窄ませ目を合わせてくれなくなる。

 でも遊んであげると次の瞬間にはご機嫌になって一緒に笑ってる。

 永遠は誰よりも子供らしい。


 ご飯を食べるのが大好きで、でも箸で摘んだ食材を口に入れられる確率はそんなに高くない。

 むしろこぼすことが大前提。

 固形物ならまだしも、スープや味噌汁なんかは口の端からこぼれて、口の周りも汚れてしまう。

 食事中膝掛けとエプロンは必須だ。学校ではよく燈に食べさせてもらって綺麗でいるけど、家では誰よりも食べて、誰よりもこぼして落として、時間もかかる。

 思水は箸の持ち方が独特で、スプーンやフォークも猿みたいな持ち方をする。それを見て永遠が真似して、いつもより上手に食べれていて複雑な気持ちになった。

 二人とも堆紀の鬼の指導が入り、今では少しでも変な持ち方をしてると怒られるから、二人ともぎこちなくご飯を食べるようになった。

 二人並んで食べているのを見ると、兄弟みたいで可愛い。

 二人とも必死に箸の先を見つめてる。


 永遠はカラスが大好きで、死んでるのも生きてるのも飛んでるのもゴミを漁ってるのも、見つけては吸い寄せられて抱きしめに行く(大抵その前に逃げられる)。

 一回永遠が口笛を吹いて、カラスに人を襲わせてたのを目撃した。

 怒ったら、「僕じゃないもん!カーくんが勝手にやったんだもん!」って、慌てふためいて言い訳していた。

 名前までつけておいて、白々しい。

 クラスメイトの怜ちゃんからストーカーの相談を受けたそうだ。

 てっきり彼氏の誠が付き合う前の習慣で、今もストーカー行為を無意識にしてしまっていると踏んでいたが、マジで知らないおじさんにつけられていたそうだ。

 怜ちゃんは相談相手として不適切な永遠にありのままを伝え、永遠はカラスを差し向け現行犯でおじさんを嘴で突き、血まみれにして成敗していた。

 おじさんは永遠の策略でカラスに襲われたとは気づかなかったが、それから怜ちゃんがストーカーに悩まされることはなくなったそうだ。

 そしてカーくんはたまにうちに来て、つみきママと永遠に生ゴミをもらって帰っていく。

 手懐けられたカーくんは永遠の従順な僕のようで、たまに永遠が口笛を吹くと、永遠の肩や頭に留まる。

 それを堆紀に言うと、堆紀にこっぴどく怒られて、しばらくショボンと落ち込んでいた。

 そしてもう人は襲わせないと約束していた。

 前に父さんに人を傷つけるなと怒られて、反省してたのに、自分が手を汚してなかったら許されると思っているのだろうか。

 堆紀に怒ってもらい、俺は落ち込んで背中を丸くして部屋の隅にいる永遠を慰めて、どうやったら永遠は正しい大人になれるのだろうと考える日々。俺ももっとちゃんと叱ったほうがいいのだろうが、これがまた難しい。

 今回は犯罪者予備軍を撃退しただけだし、だからって永遠のやったことは正当防衛にもならないし、永遠に犯罪歴がつくのは嫌だし、ストーカーしてる男に変に絡んで危ない目にあって欲しくないし、はぁ……子育てってムズ。


 永遠は小さくて、抱っこしてもらうと安心して寝る。体温が高くて、抱いていると暖かくて、そういうところは赤ん坊の頃から変わらない。

 俺と堆紀が並んでソファに掛けてると、当然のように俺の膝に乗り、ぎゅってされる。

 俺もぎゅってしてあげると、スースーと小さな寝息を立てて寝る。

 これは誰にでもする。思水は永遠が膝に乗ってぎゅってされてても構わずゲームを続け、永遠に「ぎゅってしてくれないと眠れない……」と言われ、「にーやんにしてもらえ」と言うと、永遠はいじけた顔をする。

 永遠は勉強してる堆紀に、告げ口するように、「思水がぎゅってしてくれないの」っと涙目で言う。

 邪魔された堆紀は不機嫌そうに思水を見る。

「思水ー!!」

「はい」

 その一言で、思水は永遠をぎゅってしてあげて、永遠は満足気で、堆紀は再び勉強を始め、思水は永遠の髪の毛をクンクンと犬のように嗅ぎ、耳を咥える。

「きゃー!食べられるー!」

「鴨がネギを背負ってくるとはこのことか!いただきまーth」

「いやーーーーー!!!」

 二人の和気藹々としたその会話に、堆紀は、「うるせーーー!!!黙れ!!寝ろ!お前はゲームでもしてろ!!」と怒られ、永遠は素直に寝に入り、思水はコントローラーを握るのだった。

 平和だ。


 夜、お風呂に入ろうと、永遠を誘うと、「僕は綺麗なんです」と断られる。

 頭を洗う、体を洗う、顔を洗う、そういう行為に意味をあまり見出しておらず、ただ面倒な作業だと思ってる。

 永遠は綺麗好きじゃないし、潔癖症でもないし、外で地面に座り込むし、何なら寝るし、ばっちいとか言っても知らん顔だし。

 アヒルのおもちゃやシャンプーハット、水鉄砲など、もので釣って今まで一緒に騙し騙し入ってたけど、最近はどうも飽きてしまったようだ。

「僕の分まで存分にお風呂に入ってきて?」

 そう言われる始末だ。

「永遠」

 そんな時は父さんの出番だ。

「一緒に入ろう?なんでも買ってあげるよ」

 これはダメな例だけど。

「わーい!!僕新しい絵の具ほしーい!」

「いいよ。いっぱい買おうね」

 こうやってものに釣られるのは1日だけ。

 次の日も案の定しぶられる。

 父さんは、「一緒に入ろう?」と優しく微笑みかける。

 永遠は、「僕の分まで入ってきて」と断る。

 父さんは、「何でもしてあげるよ?」と言うと、永遠は目を輝かせる。

 このように永遠の衛生を保つためには金や自由が奪われる。

 当の本人は悪びれた様子もない。

 これだけ構ってあげてるのに、可愛げがなくなったから構ってもらえないと拗ねるのだ。

 ある日思水が水浸しのまま風呂から上がってきて、風呂場から水滴を垂らしながら廊下を徘徊していることがあった。

 こちらのお方は全裸で何がしたかったのか本人もわからない様子だが、それを見て永遠は、「僕が体を拭いてあげよう!」と、思水の髪や体を拭いてあげて、なんと服まで着せてあげてた。

 えらい。

 そして思水の足跡が残る廊下も、永遠がせっせと拭いていた。ぬいぐるみたちは交通規制で廊下に出ることができなくなり、ドアの向こうから廊下を拭いてる永遠を応援してた。

 ぴーちゃんだけは永遠の頭から応援していた。

 母さんが、「心配ね。永遠、しばらく思水と一緒にお風呂に入ってあげて?」と言うと、永遠は得意げに、「任せて!!」と言う。

 人に頼られるのが嬉しいのだ。

 思水は着替えようとして服を脱いで、着ることを忘れて全裸でリビングに来ることや、ご飯を食べたことを忘れて、食べた10分後に「今日のご飯何?」と聞いてくるなど、ちょっと物忘れが激しすぎて父さんは、「……若年性認知症……?」と疑い、一度しっかりで検査したことがあったが、ただのうっかりさんだということが判明した。

 たまに遊びに来て、たまに泊まりに来て、その間ずっとゲームをしていた思水の印象は、ゲーマーやゲーム中毒者だったが、一緒に住むようになって、人間より動物に近い存在なんだと思った。

 人間だから服を着てるけど、素の時は着ることを忘れている。

 人間だから夜眠るけど、夜だから寝ろって堆紀に怒られないと眠くなるまでいつまでも何日徹夜でも起きている。

 人間だから飯を食うけど、食べれたら何だっていいので素手でカレーに手を突っ込んでいた。

 堆紀に怒られて以来、人として最低限の品位を保っているが、叱ってくれる人がいなくなったら一気に野生に帰ってしまいそうだ。

 そんなとき同じことを言われて育ってきた永遠は、俺や父さん、母さんに教えられた通りに、思水に人間らしい生活を教えてあげる。

「お風呂に入らないとばっちいんだよ!一緒に入ろうね!」

 そう言って一緒にお風呂に入る。

「ご飯は箸を使うんだよ。じゃないと猿になっちゃうよ」

 こうして一応人間らしく食事をしている。

「もう寝ようね。お月様が見守っているうちに眠らないといけないんだよ」

 昔散々寝なくて泣いてたのに、人に言う側になるなんて感慨深い。

 こうして永遠は、今までインプットしてきたことを、アウトプットする機会を得たのだ。

 思水は、「あのー、俺の方が年上だし、知っとるわ!!」っていう割に、ちゃんとハヤシライスに手を突っ込んだりする。

 そのたびに、「あっちー!!」って嘆いて、その度に永遠に、「だからスプーン使うんだよ」って優しく教えてもらってる。

 いいコンビだ。


 永遠は怒られることが嫌いで、怒られると拗ねるけど、それでもどれだけ怒られようが堆紀のことが大好きだ。

 伊達に神様だと言ってるわけじゃない。

 どれだけブチギレられても、永遠が冤罪だったとしても、理不尽に怒られても、堆紀への想いが変わることはない。

「僕、良い子でいることから卒業しまする」

 永遠は堆紀の膝に乗ったかと思えば、堆紀の目を真剣な眼差しで見つめながらそう言った。

「僕、不良の気持ちわかってなかった。今日から不良になる」

 つまり、堆紀をもっとよく知りたいということかな?

「僕、もう堆紀の言うこと聞かないもん」

「もう一度言ってみろ」

 堆紀は永遠の言うことを何でもかんでも否定することもあれば、そうじゃない時もある。

 堆紀は不機嫌な時もあれば、そうじゃない時は少ない。

「もう一度同じことを言ったら殴ってやる」

 堆紀は恐怖や暴力でこの世を支配することもある。

「僕は反抗期も不良も通らなかったから、堆紀と分かり合えない部分があって当然でしょ?僕ずっといい子なんです。僕が不良になったら、堆紀のこともっとわかってあげるよ?嬉しいでしょ?」

「俺だって反抗期も不良も通らなかったよ」

 その嘘は流石に無理があるのではないだろうか。

 お前のその性格で反抗期がないのは嘘でしかないだろう。

「そうだろ。父さん、母さん」

 父さんと母さんは「うん。そうだね。とっても良い子」と、「弟たちの面倒も見てくれるし、すごく助かってるわ」と褒め称えた。

「お前は我儘言って風呂に入らない、勉強もしない、食べ方が汚い、いつまでも寝ない、人の部屋に勝手に入る、俺の服をクローゼットから全て出した上で埋もれながら寝てる、馬鹿なことばっかりだしやがって、俺はお前とは違うんだよ馬鹿!!」

 堆紀の一撃は永遠の急所をついたらしい。

 ダメージを受けて、フラフラと堆紀の膝から降りて、俺の膝の上に逃げてきた。

「ぐすん」

 永遠は俺の服で涙を拭いた。

 自分で悲しみを表現する元気はまだ少し残ってるみたいだ。

「しかも何でも食いやがって。なんで好き嫌いするくせにそこら辺に生えてる花や草は食べれるんだよ。料理してやってる俺たちを何だと思ってやがる?ありのままの状態が好きなら、これからはお前の皿の上に花瓶を置くぞ」

 堆紀の溜まり溜まった不満は溢れ出てくる。

「抱っこして?手を繋いで?ちゅーしろだぁ?お前いつになったら大人になるんだよ。不良?反抗期?笑わせんな。お前はそれ以前の問題なんだよ、馬鹿!!」

「……………………………」

 それを聞いて永遠は何も言わず、表情からは笑みも悲しみも何も感じられない、真顔が怖かった。

 いつも表情豊かな永遠の真顔ほど俺は怖い。

「ブー、ミー、フー、プー、ピー……あのアザラシといい、自分の面倒もまともに見れないくせに、余計な手間増やしやがって」

 堆紀にも自動ブレーキ搭載してないし、もうやめたげて。

「これ以上増やしたら、お前に構う時間減るだけだからな!」

 永遠はポロポロと涙をながながら堆紀を見た。

「早くこっちこい馬鹿!!」

 そうして嬉しそうに堆紀の元に一目散に走っていき、堆紀は自分の元に来た永遠を抱き上げて膝に乗っけた。

「俺の言うことちゃんと聞けよ!!」

「うん!!」

 ちゃんと仲良しだから大丈夫。

 一緒に不満を言い合って、険悪になって、仲直りして、抱きしめ合える。

 ゲームをしていた思水が一言。

「堆紀兄ツンデレじゃん!」

 堆紀はイラっとした顔を思水に向けた。

 思水の視線はテレビ画面に向いてるので気付いてないけど。

 そして次は堆紀による思水への一方的な攻撃が始まるのであった。



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